order32. アイスココアと『ありがとう』

木々についている花は完全に満開になっていて、喫茶「ゆずみち」の外の森も様々な色であふれている。そんな日の朝、まだ比較的空いている時間帯の喫茶ゆずみちにはいつもの顔がカウンターでアイスカフェラテを飲んでいた。



「そうなんだ。本当に良かったな!」

勇者は飲み終えたアイスカフェラテの氷をガシガシと噛みながらマスターに話す。

「はい。たまたま、ゆずさんがいらっしゃっていたおかげで、助かりました」

「そんな奇跡的なことがあるんだなぁ……マスター、アイスカフェラテお代わり」

「あいよ。ちょいとお待ちを」


そういうと、マスターはアイスカフェラテを作りに行く。

そこに柚乃がきた。

「勇者さん~。本当に大変だったんですよ~」

「だろうな。話しを聞くだけでもわかるわ。よくそこから誰も悲しまない結果になったなぁと感心していたところ」

「本当ですよねぇ……」


そんな話をしていると、マスターがアイスカフェラテを作って持って来た。

「はい。勇者さん、いつもの」

「あざす」

勇者はアイスカフェラテを受け取る。そしてマスターが勇者に話しかける。

「それにしても、まさかゆずさんがこっち側の人間、パラユニだったとは思わなかったよ」

その言葉を聞いた勇者と柚乃は首をかしげて返事をする。


「そうか?前に助けてもらった時で分かってたぞ」

「私も~。そうかなぁって思ってた~」

その返事にマスターが驚く。


「えっ!?勇者はまぁパラユニがオーラで見えるとしても、柚乃までどうして……やっぱり傷がパッと治ったから?」

柚乃は首を振り、勇者もわかってないなぁという顔になる。二人とも返事をした。

「マスター、確かに俺はオーラも見たから確証はあったけど、それより不自然な言動があったじゃんか……」

「そうそう~。マスターはお客さんの各々の特徴は覚えてるけど、細かい所まで気づかないもんね~」


マスターは二人にそういわれて、カツサンドを振る舞った時のことを思い出そうとした。そして気が付く。

「そうか、薬箱だ!あんな薬箱はこっちの世界にないから……」

「ぶっぶ~。外れですよマスター。カツサンドを振る舞った時の言葉ですよ」

「振る舞った時……?」


マスターは全く気付かないようだ。それにしびれを切らして柚乃は話し始める。

「マスター、私たちの店は異世界喫茶だから、ほとんどこっちにはない料理を出している自覚はありますか~?」

「もちろん。だから色々なお客様が来てくれるんだろ?」

「そうです~。あの時、ゆずさんはカツサンドを食べてこう言ったんですよ~」


『揚げたてのカツサンド……おいしいなぁ』


「マスターは初めて見て、食べた料理をやっぱりおいしいって言いますか?」

「……言わないと思う。おいしいっていうだけ」

「でしょ~。『やっぱりおいしい』っていう時点でおかしいんですよ~。あと、揚げたてのカツサンドって確かに作り方とか料理を知っていたらいうかもしれないけど、初めてなのにそこまで気が回らないでしょ~」


マスターは少し黙ってしまった。柚乃がお客様のことを事細かに見ていることに驚きを隠せないようだ。そして、勇者に対してマスターが聞く。


「勇者も同じ点で分かったってこと?」

「まぁ、そこが完全に決め手だな。カツサンドなんてこっちの世界ではまぁ見ないからな。ただ、マスターの言っていたところもすべて変だとは感じていた。特にあの薬はすごかった……」

「っていうことは、やっぱりわかってなかったのは本当に僕だけか……」

そう言ってマスターは少し落ち込む。その様子を見ながら、勇者は興味なさそうにアイスカフェオレを一口飲んで、マスターに問いかける。


「それはそうと、イロナちゃんは今どこに?」

「あぁ、今は実家に戻っている。さすがに家族で色々話したいこともあるだろうと思ってな」

「ふーん。じゃあ家も遠いだろうし、まだここには帰ってこないってことか」

「いや、そこは何とかしてもらった」

「……?」


勇者は意味も分からず首をかしげる。マスターは二階を指さして話す。

「二階のイロナの部屋と実家のイロナの部屋に転移術式を組み込んでもらった」

「おいおい……転移術式ってかなり難しくて高価だった気が……」

「まぁ、転移術式は防犯関係からイロナ専用にしてもらったし、イロナが強く望んだから。特別にね」


そんな話をしていると、二階から少し物音がした。

マスターも勇者も不思議がっていると、カウンター奥の扉が開く。


「マスターさん、柚乃さん、ただいま!!あっ、勇者さんも!!」

「お帰り。イロナちゃん」

「お帰り~」

「おっ、ひさびさ!!」


三人ともイロナに返事をする。イロナはカウンターに向かい、勇者の横に座る。

「マスターさん、休みは今日までだったはずなので、私もお客として何か飲みたいです!」

「ではお客様、何が飲みたい?」

「アイスココア!あまーいの飲みたいです」

「あいよ。ちょいとお待ちを」


そう言うと、マスターはアイスココアを作り始める。

その間、柚乃がイロナに話しかける。

「イロナちゃん、実家はどうだった~?」

「パパもママもあの後、家に帰ってもずっと泣いてて少し困っちゃいました。でも……やっぱりパパもママもとっても優しかったです」

「そうか。良かったね~」

イロナはニコニコしながら話すし、柚乃もニコニコしながら返事をした。

そして、マスターがアイスココアを持ってくる。


「イロナちゃん、はい。アイスココア」

「マスターさん、ありがとうございます!」

イロナはアイスココアを受け取り、一口飲む。アイスココアの甘さが口いっぱいに広がるのか、顔がにやけていく。そしてカウンターの椅子から急に立って、マスター、柚乃、勇者の方に向かって立つ。三人とも不思議がったが、イロナが口を開いた。



「みんな、あのね……本当にありがとう!両親も見つかったし、ママは記憶を取り戻してくれて嬉しかった。でもね、これだけは言わせてほしいの……。マスターさんも柚乃さんも勇者さんも、私の……大切な家族だから!これからもいっぱい一緒にいてね!!みんなよろしく!」



ここは、喫茶「ゆずみち」

家族をずっと大切にする、そんな場所。



**ゆずみちにご来店のお客様へ**

マスターです。イロナのご両親のお話、いかがだったでしょうか。

何か感じることがあれば嬉しく思います。


これからもゆずみちは開店いたします。

これも色々な方のブクマ、評価、いいねがあってこそ。本当にありがとうございます。

そして、もしゆずみちが面白いと思って頂けたのであれば、ブクマや評価を是非お願いいたします。

僕のお話に関してどう思っているのか、正直に知りたいと思っています。


これからは、また火曜日と金曜日の開店に戻りますが、

またすぐに毎日更新に戻れるかも?お楽しみに。

さて、次はどのようなお客様がいらっしゃるのでしょうか。

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