rest1. 夢うつつ
外は吹雪いているためとても寒く、店には勇者しかいない。その勇者もアイスカフェラテを飲み切って、温かい店内の気持ちよさに、少し眠たそうだ。
「うーん、マスターとイロナちゃんは暇だからって買い物行っちゃったし、柚乃ちゃんはまだ来てないし……。本当に暇だなぁ」
そう一人でつぶやきながらカウンターに突っ伏した。
そして5分ほどすると、寝息が聞こえ始めた。
・・・・・・
森を歩きながら考える。どう考えても、あの強さは異常だ。
あの黒騎士の強さはあからさまに他の敵とレベルが違う。俺一人であればある程度戦えるが、恐らく味方がいると守るので精一杯になりかねない。もう少しで魔王の元までたどり着いて、この魔族との戦争を終わらせることができるというのに……
俺は唇を嚙みながら悩む。とりあえず、何か対策を考えるために味方には休みを取らせた。かなり強いメンバーではあるが、情報収集となると一人の方が身軽でやりやすい。あと、悩むときはいつも一人と決めていた。
「それにしても、どうしてあんな強いやつが急に現れたんだ?」
悔しさのあまり、つい言葉が出てしまう。悩みながら森を進んでいると、小さな町に出た。こんな森の中に町があるなんて……と思いつつ、ふと立ち寄った。
そこには人間と魔族の子供たちが追いかけっこしている風景が広がっていた。
「あり得ない……」
自然と声が出てしまった。
人間と魔族が仲良くするなんて、俺は寝ているに違いない。俺自身の頬っぺたを思いっきりつねったが、目は覚めなかった。悪い夢でも見ているのだろうか。
「どうかしましたか? 旅人の方」
「!!!!」
あまりの衝撃風景に驚いていたためか、背後から声をかけられるまで気づかなかった。
俺は飛びのいてから剣を抜いた。
「誰だ!!」
俺は叫んだ。すると、頭に立派な角が生えている魔族の女だった。
「剣なんて物騒なものしまってもらっていいでしょうか、私たちは何もしませんので」
目の前の魔族の女はそんなことを言ってくる。信じられるわけがない。
「ふざけるな。そんなこと言いながら背を見たら襲ってくる算段だろう」
「はぁ……まぁいいです。もしよければ、この町を散策されたらいかがでしょうか。その考えが間違っているとすぐわかると思いますよ」
そういうと、魔族の女はどこかに去っていった。俺は剣を下ろす。
「何がどうなっているんだ……」
この数分でどっと疲れた。どこか休める場所を探してみよう。
俺は何も考えず店を探しつつ、町の様子を見て回った。頭に角が生えている魔族も、角が生えていない人間も少数ではあるものの共に生活していた。この世界でよく見た人間と魔族の醜い喧嘩もなく、戦争もなく、ただただこの町には平和が流れていた。
それだけでなく人間も魔族も、みんな俺の姿を見るとちゃんと挨拶をしてくれた。カルチャーショックが大きくて、頭の中が整理できずに歩いていると、さっきの魔族の女と複数の子供たちがいる公園にたどり着いた。
「みんなで鬼ごっこでもしましょうか」
魔族の女は人間と魔族の子供たちに話していた。子供たちは「はーい!」と元気よく挨拶をして、子供たちだけで鬼ごっこが始まった。俺も昔は鬼ごっこで遊んでいたなぁと思いつつ、どうしてもこの人間と魔族の中がいい世界に納得がいかなかったので、魔族の女の所に行く。
「そこの女の人。先ほどは無礼なことをして悪かった。ちょっと聞きたいことがあるのだが……いいか?」
「えぇ。いいですよ」
魔族の女はこちらを向いて答える。
「まどろっこしいのは苦手なので、ストレートに言わせてもらう。どうしてこの町は魔族と人間の仲がいいんだ」
「その答えは子供たちの方が正しく答えれると思いますよ。聞いてみましょうか」
そういうと、魔族の女は鬼ごっこをしている子供たちを一度集めてこう言った。
「ここにいる旅人さんは、なんでみんな仲がいいの? って聞いてますよ~答えれる人いますか~?」
すると口々に子供たちは答える。「そんなの当たり前じゃん」「みんなで一緒に遊んでるから」「お昼ごはん一緒に食べてるから」「昨日なんて、みーちゃんと一緒に釣りいったんだぜ」「お腹減った~」などなど、質問と関係あることないこといっぱい返事で帰ってきた。俺は目を白黒させながら魔族の女に聞いた。
「どういうことだ」
「どういうことっていうのは?」
「どこが解答なんだ」
「ちゃんと旅人さんの質問に対する解答になってますよ」
魔族の女はしれっと答える。
魔族の女は子供たちを他の遊びに誘導しつつ、俺の方を振り向かず語り始めた。
「半年前までこの村の魔族も、旅人さんと同じ考えでした。人間は恐ろしくて怖い生物だと思っていました。しかし、この町に流行り病が発生してたくさんの魔族が死にました。一人、一人、順番に死んでいき、みんなが絶望していた時……急に現れた人間が我々の病を見てくれたのです」
魔族の女は遠い目をしながら続けて話した。
「初めはみんなその人間を毛嫌いしました。人間なんかに治してもらいたくないというものもたくさんいました。でも必死で病気を治そうとしてくれるその姿に多くの魔族は心打たれました。その方のおかげで病気がひと段落し、その人間がこの町を旅立つ最後の時にこう我々に語りかけてくれたのです」
『私はこの世界に来たばかりで詳しくはわからない。だけど、人間だから、魔族だからという考えで毛嫌いするのはやめてほしいな。そんなことは本当に些細な事だと私は思う。子供たちの将来をより幸せにするのであれば、なおさらね』
魔族の女は俺の方を向いて話した。
「この町ではその人間が出て行ってから、どのような人間であろうと受け入れようと考え直しました。受け入れる中には人間の子供ももちろんいたのですが、魔族の子供たちは人間の子供が来てもすぐに仲良くなるのです。子供たちには人間や魔族なんて本当に些細な事だったのです。子供たちは1週間あればみんな仲良くなるんですよ」
俺は何も声を出すことができなかった。最後に魔族の女は俺に声をかけた。
「子供たちの答えに種族について話す子はいましたか?種族での争いなんて、大人が勝手にやっていることで、子供たちには関係ないことなんですよ」
俺は何も言い返せなかった。もしかして、戦争を長引かせているのは俺みたいなやつのせいではないかと思わざるを得なかった。
そして俺は……
・・・・・・
「勇者さん。そこで寝ていたら風邪ひいちゃいますよ」
マスターは勇者を揺らして起こす。勇者はとても眠たそうに答える。
「うーん……マスターか。起こしてくれてありがと。懐かしい夢を見ていたわ」
そこにいたイロナは不思議そうな目で質問する。
「勇者さんの昔の話ですか? 興味あるんですけど、聞かせてもらえないですか?」
「すごく恥ずかしい話だから、たとえイロナちゃんと言えども教えれないなぁ~」
そういいつつ、勇者は目の前の魔族のイロナを見ながら笑みがこぼれていた。
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