order4. ワッフルと再会

店の中はコーヒーのいい香りが漂っている。

お客もまばらに入っており、各々がゆったりした時間を楽しんでいるようだ。

今日もカウンターに一人青年が座っていて、マスターと話している。

青年の方はいたるところに傷が見られる。


「いてて。殺されるかと思った……」

「勇者さん、それだけの怪我で良かったね」

「マスター。それは慰めになってないよ」

「いや、正直一生会えないと思ってたから」

「……」


マスターはすました顔で話し、勇者は何とも言えない顔になっていた。

すると、カウンターの奥から学生服の女性が歩いてきた。少しだけ怒っているようにも見える。

「勇者さん~ダメですよ。女心は遊んじゃ」

「柚乃ちゃんまで……。遊んだつもりはなかったんだけど」

「なんでもいいから、ちゃんと謝るんですよ~」

そういいつつ、空になったアイスカフェオレの容器を下げる。

勇者は納得いかない顔をしたが、柚乃に睨まれシュンとした。


ふと喫茶店の扉がチリンと音がして開く。

初めてなのか、周りをきょろきょろしながら女性が入ってきた。

女性は白いローブをかぶり、杖を持っている。

「いらっしゃい」とカウンターの奥からマスターが声をかける。


「……ここは一体……あっ……」

消えそうな小さな声でつぶやいたのち、声を詰まらす。

女性の目線はマスターではなく、その前に座っている勇者に注がれていた。

女性は一直線に勇者に近づいていく。そして小さく一言。

「……勇者。やっと見つけた」


勇者は急に呼ばれてビクッ!としながら、振り返った。

「リリーじゃん! 久しぶり」

リリーと呼ばれた女性は持っていた杖で勇者の頭をポコンと叩く。

「……本当にずっと探していた」

「ごめんって。帰ったらみんないなくなってたから」

「……嘘つき」


リリーはうっすら涙を浮かべた。

その姿を見ていた柚乃は

「勇者さん……女性の心をもて遊びすぎです~最低ですね」

「柚乃ちゃん、それは完全に誤解なんだけど」

慌てながら勇者は否定しつつ、リリーに向かって言った。

「リリー、急にいなくなって本当にごめんね。俺も色々あったんだよ。とりあえず座りな」

「……うん」


リリーはゆっくりと勇者の横に座る。

「マスター。ワッフルをお願い。バニラアイスをのせて」

「……?」

「あいよ」

リリーは何を頼んだのか全く分からなかったが、マスターは返事をして奥に行った。


二人は全くしゃべらない。重い空気が流れた。その空気に我慢できず柚乃は話し始めた。

「お二人はどんな関係なの~?」

「元勇者一行っていうのがいいかなぁ」

「元?勇者ってパーティー組んでたの? 初耳なんですけど~」

「そうだろうね。柚乃ちゃんに会った時には解散していたから」

勇者はチラッとリリーを見て答えた。リリーはゆっくりと話す。

「……私たちは魔王城にたどり着いた。けど、そこですごく強い敵に急に出会って……いったん町に作戦を練りに帰った。そしたら勇者が私たちに向かって『一人で戦う方法を考えるからちょっと待っといて』って言って急にいなくなった」

リリーは話しながら涙をツーと流して言葉に詰まる。でもゆっくりと続きを話し始める。


「……ずっとまった。ミアもルイもあきらめて旅に出た。みんなバラバラになった。私だけずっと待ってた」

「やっぱり勇者最低じゃん~」

「まぁ、そうだな。」

勇者はバツの悪そうな顔をしながら答えた。


「……一年たっても帰ってこなかった。そこから勇者をずっと探した。で、ようやく会えた」

リリーは涙を拭きながら、勇者の方を向く。

「……勇者、どうしていなくなったかは聞かない。でも次からはちゃんと話して。」

「わかったよ。次は勝手にいなくならないから。」

勇者もリリーの方を見ながら答えた。そこにマスターが大きなお皿を持って来た。

「あいよ。ワッフルお待ち。おまけでバニラアイス二個のせといたから。」

そういいながら、リリーの前にお皿を置く。

「マスター。ありがと」

勇者はマスターにだけ聞こえる声で小さくつぶやいた。


お皿にはワッフルが二個盛られており、両方にバニラアイスがのせられていた。ワッフルが焼きたてなのか、若干バニラアイスが溶けている。そのバニラアイスの上から、赤色のソースが全体にかかっている。イチゴのソースだろうか。


「……これは?」

「まぁ、食べてみな。」

リリーは置いてあったフォークとナイフと手に取り、ワッフルを切り分けた。

切り分けたワッフルにバニラアイスをちょこんとのせて食べた。

「……!!」

先ほどまで泣いていた顔は急にパーッと明るくなった。その姿を見ながら勇者は話しかける。


「昔、一面砂漠で気温が高い国に立ち寄った時、そこのお店で冷たいアイスの乗った焼き菓子をすごくおいしそうに食べてたよな。だからワッフルにしてみたんだけど……どう?」

「……すごくおいしい。あと、好きなもの覚えていてくれて本当にうれしい」

ニコニコしながらまた涙を流す。そして、そのままワッフルを食べている。

「勇者さん~また泣かした~」

そういいながら、柚乃はニコニコしている。勇者は無視してマスターに顔を向けた。

「マスター。アイスカフェオレのお代わりをお願い。リリーも何か飲むか?」

「……何がいいかわからない。勇者が選んで」

「しかたないなぁ。じゃあ……」


ここは悲しみの涙も、嬉しさの涙も流れる喫茶「ゆずみち」

さて、次はどんな再会があるのでしょうか。

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