第10話◇オーク、魔王に◇


「よお、久しぶりだな。元気にしてたか?」


 豚ヅラさらして歩くな! って怒られっちまった。


 こいつ会う度に俺に説教しやがるな。

 ま、俺が悪いんだがよ。



「お久しぶりね。私の事も覚えてくれてるかしら?」


 俺の背に隠れていた勇者がピョコンと飛び出した。



 北の国の騎士が、え、あ? え? なんつって狼狽うろたえてやがる。


 ふふ、笑っちまう。

 勇者の奴、忘れられてるじゃないか。




 騎士の家でまた、酒と飯を出された。

 なんだかんだで、コイツと会うと大抵ご馳走してくれる。

 良いやつだよな。



 魔王はどうしたか、だって?


「ああ、あのガリガリは先に魔国に帰った。何だか準備があるらしい」


 オマエもガリガリじゃないか、という視線を無視して俺は、胸に抱えた息子にスプーンを使って食事を与えながら、今度はなるらしい事を説明した。



「息子だ。ちょっと鼻が上向いてはいるが、可愛いだろう?」



 まさかアンタと勇者様がねぇ、なんて言いやがるが、コイツ勇者の事をすっかり忘れてやがったクセによ。



「ねえ、貴方たち仲良しみたいだし、こちらの方にも魔国に来て貰ったらどうかしら?」


 勇者がまた考えなしに適当な事を言うもんだから、騎士のやつ途轍もなく動揺してるぞ。


 可哀想なくらいの動揺っぷりだ。

 騎士だなんて言っちゃあいるが、はっきり言ってコイツ、弱いからな。


 弱いクセに、強い正義感と謎の肝っ玉を持った、可笑おかしなハンサム野郎だ。



「でも、ま、お前にしては良い案かも知れないな」


 俺は手を伸ばし、勇者の頬についた米粒を摘んで、放り込んでから、そう言った。


「あら、ありがと。豚の魔物オークの貴方が魔王、人族の私が魔王夫人になるのだもの。ならお客様には人族も居た方が良いと思うの」



 本当にいつもの俺の嫁勇者かよ。

 よく分からんがなんとなく説得力がある気がする。


 どうしたんだオマエ、変なものでも喰ってないだろうな?





◇◇◇◇◇


 魔国の森は、分かりやすい道ができて良い。

 俺が斬り飛ばしただけだから、切り株だらけだがな。



 魔国の王城に辿り着いたんだが、全然思ってたのと違う風景が広がっていた。



 あろう事か、魔王が牢に入れられていた。


 牢の外にいるのは四天王のうちの三人。


 ぱっと見は、終わってる。

 魔王的には。



「……よう豚マン。嫌な所を見られちまったな」

 

 哀愁漂う雰囲気を醸すのは止して欲しいぜホント。


「まぁ、そういう時もあるわよね」


 勇者がぞんざいに慰めるが、勇者的には全力で慰めているらしいのが俺にはよく分かる。



「ま、なんだ。とにかくどういう状況か教えてくれないか?」




◇◇◇◇◇


 魔国四天王の一人目、豚の魔物オークの彼が説明してくれた。


 ま、結論で言えば、魔王が悪い。


 俺を次の魔王に指名する、魔国に戻っていきなりそう説明したらしいが、魔王になるには二通りあって、その二つとは、突出した武力を示すか、国民の同意を得るか。


 現国王に任命権は無いんだと。


 それを聞いて、暴れて、取り押さえられたそうだ。


 魔王、バカだよな。



 因みに魔国四天王の最後の一人、この間うるさかったアイツは、忠誠が厚すぎて魔王と一緒に暴れて、一緒に牢に入ってる。


 四天王の一人目は豚の魔物オーク

 二人目は鳥の魔物ハーピー

 三人目は首なし騎士デュラハン

 そして五月蝿い四人目は牛の魔物ミノタウロス


 五月蝿いのはミノタウロスぐらいで、他の三人はどちらかと言えば寡黙。

 首なし騎士デュラハンに至っては筆談だ。


 連中はキチンと魔国の事を考えてる。

 こいつらに任せて置けば、そうおかしな事にはなるまい。



 しばらくは魔国に滞在して様子を見るが、俺の出る幕はないだろう。


 当然、それならそれで良い。

 俺は、連中が出した答えを受け入れる。





◇◇◇◇◇


 すっかりしおれた食人鬼魔王を牢から引き取って宿を取った。


 俺、勇者、息子で一部屋。北の国の騎士と魔王で一部屋だ。


 喰われないと分かっていても、なんと言っても相部屋相手が食人鬼グール

 ソワソワしっぱなしの騎士だったが、翌日の朝には慣れたらしい。

 魔王の肩を叩いて慰めたりしてやがる。


 相変わらず凄い奴だ。





 結局、次の魔王には、四天王の中からオークが選ばれた。

 俺に簡単にコテンパンにされた位で武力的には大変頼りないが、融和路線で魔国を運営するらしい。


 新魔王と話す機会があった。


 風の噂で、南の方のが人族と商売していると聞いたらしい。


 その村の様にここ魔国を運営したいが、その村の事を知らないか? だとさ。


 笑っちまうぜ。

 それ、俺の村だよ。



 何年か魔国に滞在して、色々と手助けした。


 牧畜や農業なんかも元々やってた様だが、効率や環境などイマイチだったから、俺が知ってる事は全て教えてやった。


 さらに、北の国の騎士にも骨を折って貰って、北の国と魔国を和解させた。


 北の国の、魔国に対する悪感情は相当なものだったが、『魔国に属する魔物はもう人を喰わない』と明文化した事、二国の戦争にはどちらにも侵略の意思があった事など挙げ連ねて、最終的に和解へと至った。


 俺や勇者も第三者として会談に出席したが、魔物と勇者の夫婦がその子を連れてるんだ、人族と魔物が歩み寄れる良い証になった事だろう。



「魔王夫人にはなり損ねたけど、なんだかんだで皆んな喜んでくれて嬉しいわねー」


 良い事言うじゃないか。


 誰かの役に立つってのは、そういう事だよな。

 魔王になんざならなくても、俺は俺らしく、誰かの役に立てばそれで良いんだ。



「それじゃ、ま、村に帰るか」




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次回! 最終話!



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 hikagenekoさまから素晴すんばらしいFA頂きました!

 以下のリンクへどうぞ!

https://kakuyomu.jp/users/hikageneko/news/16817330664930584655


 恐らく読者さま方の女勇者ちゃんのイメージが異なるだろうと思いますが、これが100%ハマハマのイメージ通り!


 魔王封印まではドラ⚪︎エ風の女勇者の格好だったけど封印後には地味めなローブ姿という裏設定があるのです!


hikagenekoさま、誠にありがとうございました〜(*⁰▿⁰*)!

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