薔薇騎士団と最後の守護者~無恵の僕が、女性だけの騎士団に配属になったら能力が開花しました! ちょ、セクハラは止めて下さい!~

瑞沢ゆう

第1話「プロローグ」

「邪神竜の結界が力を失うまで後五年……結界が消えれば悲惨な現実が待っているだろう。それを救うには、救世主となる英雄が必要だ。その育成こそ、我々の仕事だと言う事を肝に命じておいてくれ」


 白髪混じりの男が、円卓を囲んだ騎士団長達に言い聞かせていた。荘厳な衣服と壮年たる堂々とした面構えが、重々しく緊張した場面へと変えていく。


 そんな場面でも、堂々たる態度で口を開いた者がいた。


「では騎士総長。今年の新人達にその英雄がいる事を期待して、そろそろ振り分けをしても?」


 赤いマントを羽織り、美しい銀髪と意思の強い蒼い瞳。


 歳は二十六を少し過ぎた所ではあるが、端麗なその姿は、衰えるどころか歳を重ねる毎に魅力を増している。


 彼女は平民の身分でありながら騎士学校を首席で卒業し、僅か四年という短期間で団長にまで成り上がった俊豪こと"アンナ=リールズ"。



 国で唯一の、女性だけで編成された第十三騎士団の団長の名を知らぬ国民はいないほど、彼女の存在感は非凡だった。


「随分威勢が良いなリールズ。だが、君の所にその英雄が現れると思っているのか?」


 そんなアンナに、小馬鹿にしたような態度を取る男。


 名は"グレン・マルトゥーク"。甘いマスクを持ちながらその実力は国も認めるほど。


 二十八という若さでありながら、伝統ある第一騎士団を任せられている実力者だった。家柄も申し分なく、次期騎士総長とも噂されている。


 そんな彼が、自分よりも年下であり、身分とし ても劣る筈のアンナに苛ついているのは、彼女の方が人気も発言力も高いという事実から来ていた。



「思っています。そう確信し、団員達を育てる。それが騎士総長の願いであり、皆さまもそう信じて育成に励んでいるのでは?」


 アンナの発言に騎士団長達は口を揃えて「そうだその通りだ!」と同意していく。


 それがグレンの苛つきを更に加速させていた。


「だったらリールズ。君の騎士団には特別な者を配属させようではないか」

「特別な者……ですか」


 なにやら企みを感じ、キリリとした鋭い視線をグレンに浴びせるアンナ。


「ああ、そいつは騎士学校をトップクラスの成績で卒業した優秀な者だ。名は"タクト・ザクール"。こいつは男だが、君の騎士団に男を配属させてはいけないという決まりはなかろう?」


「それはありませんが、その者は……」


 グレンが名前を出した途端ざわつく騎士団長達。

 それもその筈。


 トップクラスで騎士学校を卒業したのは良いが、その者は戦う事に必然である能力が欠落していた。


 天恵――


 それは天からの恵みであり、様々な能力を糧に世界の脅威と渡り合うための力である。


 脅威と最前線で戦う騎士には天恵は必然。天恵のない者は"無恵"と呼ばれ、戦闘になれば天恵を持つ者には遠く及ばない。


 その筈なのだが、タクト・ザクールは騎士学校を何故かトップクラスで卒業した異端児。


 無恵など、どこの団長も自分の所に入団させたくはない。しかし、成績優秀で騎士学校を卒業した者を配属させないのも世間体が悪い。


「彼を第十三騎士団に配属させる事、他の皆様に異論はありませんね?」


 その場から立ち上がり同意を求めるグレンの発言に、安堵したような表情をした騎士団長達は、静かに頷き同意を示した。


 処遇に困っていた件を悩む事なく押し付けるチャンスに、異論など出てくる訳もない。


「騎士総長も異論はありませんか?」

「アンナ殿が良いなら構わぬ」


 騎士総長から向けられた視線に、アンナは覚悟を決めたように頷いた。


「では、宜しく頼んだぞリールズ。彼を英雄に育て上げてくれ」


 不敵な笑みでアンナを見下ろすグレン。普通なら不良債権を押し付けられ、ため息の一つでも吐きたい所だろうが、アンナの心情は真逆だった。


 思い通りに彼を配属させられた事への愉悦さえ感じていたのだ。


 快感にも近い感情が支配し、アンナはほくそ笑みそうな口角を抑えるのに必死だった。


 その証拠に、円卓の下に隠れた両拳は、固く握られプルプルと震えていた――

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