突如森へワープしたら村人から石を預かったので、王様へ届けることにした

雨宮あめ

第1話

 ――ふと目が覚めたら、そこは知らない森の中だった。

 ……なんて、小説の一文みたいなことを心の中で唱えてみる。

 ただ、私は本当にこの場所を知らない。

 なぜここにいるのかわからないし、経緯もわからない。おまけに、少し前の記憶も欠けている。記憶喪失なのだろうか。

「四條有栖、19歳、大学生……」

 言えた。どうやら完全な記憶喪失ではないらしい。

 あ、あと。幸いにも荷物はちゃんと揃っている。中身も確認したが、特に何も盗まれていない。

 だが、不思議なことが一つ。ここが圏外になっているということ。

 余程の田舎じゃない限り、どんな森でも基本電波は通っていると思うのだが……。私は一体どこにいるんだ。どうして来てしまったんだ。

 とにかく、私は状況を把握しなくては。


 ――うん。わかった。わからないけれどわかった。

 一先ずこの付近を散策してみたが、特に集落などはない。そしてこの森には多分人がいない。

 とりあえず、この森から脱することを目標にしてみる。でなければ携帯が繋がらないから。

 ただ方角を知らない限り、安易な移動は危険。

 さぁ……どこへ行こうか。

 とりあえず、私は木が少ない方に行ってみることにした。

 

 時刻は午後3時20分。歩き始めて20分弱。疲れた。

 普段、通学時はせいぜい5分しか歩かないので、肉体的というより精神的に疲れた。

 この森、もしかしたらどんなに歩いても希望が見えてないのでは? 一旦ここで休憩をしたほうがいいのでは?

 ……だが、ここは森。もちろんどこにもベンチはない。残念ながら典型的な倒木もない。

 でも、一度水分補給はしておこう。

 脱水症は四季を問わず起きる。後何時間歩くはめになるかわかりやしない。

 有栖はそう考えながら、行きのコンビニで買ったミネラルウォーターのキャップに手を掛けた。

 あぁ……沁みる。生きてる、私……。

 と、有栖が感動していた最中、ある一人の人物が有栖へ声を掛けた。

「あの、こんにちは」

「……!? こ、こんにちは」

 金の髪を持つ少女?が、有栖に声をかけた。

「ふふっ、突然驚かせてしまってすみません。一つお伺いしたいことがあって」

「はい。一体何か……?」

 有栖は内心恐怖を感じつつ、平静を装った。

「間違っていたらすみません。……もしかしたら迷子かなと思いまして」

「……あたりです」

「やっぱり。もし、よかったらこの森の抜け方をお教えしましょうか?」

「是非! よろしくお願いします」


 内心、私は突然現れたこの人物が恐ろしい。だが、アリが砂糖を運ぶように、迷子に案内人という組み合わせは迷子はついて行く他ないも同然。

 私は彼女に着いて行くことにした。

 一見、彼女は悪い人ではなさそうだし。


 有栖と突如として現れた少女?は、森を抜け出せるという道を歩き始めた――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る