襲撃

 遠くで何かが破裂する音がした。

 閃光のようなものも瞬いて、すぐ近くを熱い風が荒々しく通り過ぎていく。


 少年が生まれ育った村は、戦場になっていた。


 見たこともない武装をした男たちが、地面に空いた穴から次々と這い出てくる。彼らはみな、筒のようなつるりとした見た目の物や、丸い大きな黒い球を運んでいた。


 昨日の、父親の言っていたことが現実になってしまったことを少年はさとった。

 村の大人たちはみな手に得物を握って迎え討とうとするが、その前に空から振ってきた何かが地面ごとえぐって破壊する。粉塵が舞い、弾けた腕や足が真っ白な地面を赤く染めた。


 一度悲鳴があがれば、混乱は村全体にすぐに伝播し、それぞれが好き勝手に逃げ惑いはじめる。

 少年も、はじめは母親に手を引かれて川の反対の方へ逃げていたが、混乱の最中に手が離れいつのまにか離れ離れになってしまった。

 母親を探してキョロキョロとあたりを見渡すが、逃げ惑う人々に押されて中々うまくいかない。気がつけば、川の方まで戻って来てしまっていた。


「かあさん………? とうさん………?」


 不安げに呼びかけるが、答える者はいない。

 時折爆発音と煙があがる村の方とは違い、こちらは静かなものだった。


「おんや〜? こんなところにはぐれのチビはっけ〜ん」

「………!」


 しまった。

 そう思ったときには遅かった。


「よおし、これから鬼ごっこだぜチビちゃんよお」

「ひっ………! た、たすけて!」


 ニヤニヤと品のない表情で笑う対岸の村の男たちは、少年が逃げ出してもすぐに追いかけようとはしない。獲物がすぐに死んでは面白くないのだ。じっくりいたぶって、たくさん泣かせて命乞いをさせてやろう。そんな魂胆が透けた悪い笑みを浮かべ、少年の姿が雪の向こうに消えた頃になってようやく動き出した。


 必死で走った。けれど、カンジキをつけずに飛び出してしまったために、雪に足をとられてうまく進めない。

 吐き出す吐息が白い煙となって消えていく。心臓がうるさいくらいに鼓動して、自分の呼吸とそれで周囲の音を拾いづらい。


 たすけて………っ、とうさん――――――っ!


 そう願わずにはいられなかった。

 襲撃と同時に家を飛び出していった父。母に少年を連れて逃げるように指示だけして、相棒の片手剣を手に行ってしまった。

 もしかしたら、助けに来てくれるのではないだろうか。

 そんな淡い希望に縋りつきながら、少年は重くなる足を必死に前へ動かした。


 止まれば死ぬ。


 背後からだんだんと迫ってくる声が、それを物語っていた。


 

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