ある家族の“秘密”

青冬夏

第1話「捜索依頼」(愛花side)

 大学の図書館。そこで、私は次の授業の予習をしている。


 「ね、ちょっと良い?」


 すると、誰からか声を掛けられる。


 隣をふっと顔を上げて見ると、そこには友人の立川悟がいた。


 「どうしたの?」


 「うん。ちょっとね」


 彼は座りながら言う。


 「実は、頼み事があって」


 「頼み事?」


 「うん。〝ある人〟を探して貰えるかな」


 「〝ある人〟・・・・・・。どんな?」


 そう言うと、彼は懐から一枚の写真を取り出す。


 「この人なんだけど・・・・・・」


 「誰これ? 君の祖父か何か?」


 私は白黒の写真を見ながら言う。


 「そう」


 「人探しなら、別に私に頼むことなんて無いと思うけど」


 「実は、愛花ではなくて彼に頼んで欲しい」


 「彼?」


 私は首を傾げる。


 「うん。確かーー、ワトソンって言ったけ? あの探偵」


 そう言われ、私はあの姿を脳裏に浮かばせる。


 ――童顔で、私と同じくらいの身長の、百六十二センチ。だけど、頭の働き方は私やあさひの働き方とは、違う。


 以前、『聖女の救済』のトリックを使った犯罪を暴く際、彼の家族について知ってしまったが、あれ以来何をしているんだろう。


 また、世の事件を解決しているのかな。


 それとも、学校で起こる事件を解決しているのかな。


 「そうそう。でも、なんで?」


 「・・・・・・いや、何となく」


 彼は目を背ける。


 「どんな理由でも、まあ良いけど。とりあえず、今日中に連絡しておくね」


 「分かった。ありがと」


 そう言い、彼は立ち去った。



 

 私は次の授業が行われる教室に行く前に、ワトソンに電話を掛ける。


 『もしもし』


 「もしもし、私ですが」


 『ああ、愛花か。どうした?』


 「頼み事があって」


 『頼み事?』


 「私の方で、人探しをして貰いたい人がいて、それで依頼したいんだけど」


 『ああ、なるほど。どんな人を探せば良い?』


 「それは、後々に」


 『分かった。とりあえず、僕の方で場所を指定するから、夕方にそこに』


 私は「分かった」と言い、電話を切る。


 ――ってか、今回飲み込みが早い。どうしたんだろ。


 まあ、気にすることはないよね。


 私は次の授業へ向かった。


 夕方。


 私はワトソンに言われた場所――大学から少し離れた、徒歩十数分で着く静かな公園に来ていた。


 「あ、ワトソン」


 私は彼を見つける。


 相変わらず私と同じ身長だし、子どもっぽい顔だし、いつか子どもと間違えられそう。


 まあ、そんなことを言うと、本人に怒られるんだけどね。


 「よう。大学はどうだ?」


 「まあ、ぼちぼち」


 「ふむ。で、探したい人って?」


 そう言われ、私は「この人なんだけど」と立石に借りた写真を渡す。


 すると、彼の顔が険しくなる。


 「・・・・・・ワトソン?」


 だが、反応してこなかった。


 「おーい」


 「あ、ごめんよ。――この人を探せば良いんだな?」


 「うん」


 そう私が頷くと、彼は足早と公園を去った。


 ――何か、嫌な思い出でもあったのかな。


 私は彼の背中を見て、そう不安に思った。


 

 家に帰り、速攻で自室に入った私は、ベッドで寝転ぶ。


 ――疲れた。大学生って、こんな忙しいんだ。


 実際、週五日ほど大学に行っており、その後も勉強なりしなくちゃいけないので、遊ぶ暇などなかった。


 「バイトもやりたいけどなぁ~。忙しいし、どうしよ」


 つい独り言が出てしまう。


 最近はそうなのだが、なぜかつい独り言が出てしまう癖がある。


 なんでだろ。


 あさひのせいかな?


 あさひ、大体独り言をブツブツ言っているから、その癖が移っちゃったのかな。


 まあ良いけど。


 私は携帯を取り出し、SNSを開く。


 最近、私の高校時代の友人――楓(ふう)花(か)が同じ大学の男子と付き合っていると聞いて、そろそろ私もだなぁって思っている。頑張って相手を探さなきゃ、と思っていても、なかなか自分のタイプが見つからない。まあ、恋愛ってそんなものなのかな。


 私はそんなことをブツブツ思っていると、ある投稿に目がとまる。


 「・・・・・・人探し」


 立石、どうしてあの人を探そうとしているんだろ。


 なんで、ワトソンのことを知っているんだろ。


 彼にあの人を教えた記憶はないから、どこで知ったんだろ。


 あと、なんで祖父?


 まあ、全てはワトソンが探した後で聞いてみよっかな。


 「あ」


 私はふとあることを思い出す。


 ――ワトソン。どうして、あんな険しい顔を見せたんだろ。


 立石の祖父? と彼に何かあるのかな。


 すると、あさひから電話がかかってくる。


 『もしも~し!』


 「もしもし、どうかした?」


 『いや、何となく電話を掛けてみただけ』


 「あ、そうなんだ」


 『ちょっと、なんでそんなに冷たいのさ~』


 私たちは笑い合いながら、他愛のない会話をする。


 『あ、そうそう。あの事、誰から聞いた?』


 「どんな?」


 そう言うと、あさひの声のトーンが少し低くなる。


 『以前、大学の海水浴イベントで人が死んだって話』


 「え?」


 『知らない? 数年前、ある大学生グループが砂浜を歩いていたら、海に人が溺れているのを発見して、それでその人を引き揚げたけど、亡くなったっていう話』


 突然、背筋に凍るものを感じる。


 「・・・・・・それって、自殺だったの? 事故なの?」


 『それがね、刺し傷があったみたいなの』


 「それじゃあ、他殺ってこと?」


 『ううん。他殺とも言えないみたい』


 「え? 他殺でも自殺でもないってどういうこと?」


 『わかんない。けど、人が亡くなったということだけは事実みたいだし、その日警察が他殺の線でも動いているみたいだし』


 「そうなんだ・・・・・・」


 『ところでさ』


 「なんでしょ」


 『その海水浴イベント、一緒に行かない?』


 「え、良いけど。なんで?」


 『何となく』


 ――何となくって。


 「そのイベントって、いつなの?」


 『うーんっと。確か、八月だったような。ちょっと待ってて』


 そう言って、あさひは電話の奥で独り言をブツブツ言う。


 『あ、合ってる合ってる。八月の十三日だって』


 「なるほどね。じゃあ、その日に」


 『はぁ~い』


 そう言い、私は電話を切った。

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