呑むべき面々

羽弦トリス

第1話親戚の誘い

その日、春崎は片側交互通行のガードマンの仕事を終えて、へとへとになりシャワーを浴びて、ベッドに横になっていた。

彼女のいずみも、ソファーに横になりテレビを見ていた。

7時位だろうか、春崎の携帯電話が鳴り出す。

「もしもし」

「あっ、もしもし、幸太君?今、時間ある?」

電話の主は、親戚の市役所福祉課課長の湯田勤叔父さんだった。

「今、居酒屋千代にいるから、彼女を連れて来なさい」

「はい。分かりました」

お世話になった叔父さんだ。よし、居酒屋に彼女を連れて行こう。

「いずみ、今、親戚の叔父さんが千代ちよにいるから、一緒に行かない?」

いずみは、首を横に振る。

「明日から、北九州病院で研修なの。幸太だけ行って!」

いずみは、看護学生であった。

春崎は大学を1年で自主退学し、ガードマンのバイトをしながら就職活動に勤しむ20歳。

その、同級生のいずみ。


幸太は千代に向かった。扉を開くと、

「あらっ、幸太君。お久しぶり。また、日に焼けたね」

「凛ちゃん、ガードマンなんてただの肉体労働だよ。疲れちゃった」

「そうなんだ。あっ、お連れ様は奥座敷」

「ありがとう」


幸太が一番奥の座敷席に向かうと、親戚の湯田叔父さんと、これまた親戚で市役所企画財政課の大塚憲幸お兄さんがいた。

「やぁ~、幸太君久しぶり。さっ、駆けつけ三杯。ビールを飲みなさい」

湯田叔父さんが、グラスに並々とビールを注ぐと、3人で乾杯した。

「あらっ、幸太君。彼女は?」

「家で寝てます」

「1度会いたかったなぁ~」

すると、大塚お兄さんが、

「幸太君。アレだろ。大学で散々酒の練習しただろ?今夜は湯田叔父さんの奢りだから、ジャンジャン飲みなさい」

「そうだぞ、遠慮はいかんよ」


次々と焼き鳥が運ばれてきた。春崎は、若さゆえにどんどん焼き鳥を片付け、ビールを飲み干す。

すると、

「幸太君。日本酒も美味しいぞ。あっ、お姉さん、剣菱けんびしをぬる燗で」

叔父さんが注文した。

若干二十歳の春崎青年は、これで日本酒を飲むのは二度目であった。

1度トライしたが、直ぐに日本酒を吐き出した。大丈夫だろうか?

そのうち、日本酒をお猪口に注がれ、

「幸太君、グイッと飲みなさい」

春崎は、日本酒をテキーラを飲むようにグイッとやった。


旨い!


その晩、3人は1升、剣菱を飲んだ。

「いや~、飲みましたな。勤さん。これから、ちょいと口直しに」

「憲幸君、いいね。あそこ、行こっか?幸太君、まだまだイケるね?ついて着なさい」

幸太は、この日が今までの最高飲酒量であった。

2人に付いて行くと、ラーメン宝島であった。

瓶ビールを湯田叔父さんが注文した。


ま、まだ、飲む気なのか!この2人は!

有無を言わさず、春崎のグラスにもビールを並々と注がれた。

「幸太君は、飲みッぷりがいい。やはり、血筋だな」

「はい。あははは」

3人はラーメンと餃子を食べた。

その後は解散した。

大塚お兄さんが、1万円を春崎に渡し、

「今夜は楽しかったよ。タクシーで帰りなさい。おやすみ」

大人になると言うのは、湯田叔父さんといい、大塚お兄さんといい、細やかな気遣いが出来る事なんだと思った。

その夜中、春崎は何度もリバースした。

そして、誓った。酒なんて二度と飲むものか!

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