カモノハシ

 夢でカモノハシに逢った。

 僕のカモノハシについての知識は、哺乳類でありながら卵を産むことと、図鑑で見たフォルムだけだったが、いちばん好きな動物なので、自信はあった。


 生でカモノハシに逢えるなんて、こんな幸運なことはない。


 カモノハシはしっぽをゆらゆらさせながら、僕に近づいてきた。

 そして、長い嘴を開き、のんびりとした調子でこう言った。


「きみ、厚生年金入ってる?」


 カモノハシはそんなことまで気にしているのかと感心した。


「はい。入ってます。病気したりして休職期間が長かったですが、会社が続けてくれていました」


「そっか。会社に感謝だな…そんなキミには、はいコレ」

 と言って、カモノハシはどこに隠していたのか、大きな卵を嘴で挟んで寄越した。


 金色だ。


 そこにはこう書かれていた。


「辞めるなよ、辛いときは俺を思い出せ。

by 哺乳類とも鳥類とも仲良しになれなかったが、

キミとは友だちのカモノハシ」


 ありがとう。


 カモノハシ。


 ありがとう。


 会社。


(完)

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手前味噌 遠野歩 @tohno1980

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