第15話 見つけるのは得意なほう、手を伸ばす資格はないけれど
白木優芽が明日から使える体のいい言い訳を見つけた頃、黒浜涼は自宅のベランダで星を眺めていた。
初夏頃からはじめた星見は、存外と長続きし、いまでは一つの趣味のようになっている。
今日は良く晴れているから、星座くらいははっきりと確認することができた。
夏に行った山の夜に比べればまったく全然、寂しい星空ではあるけれど。
目を瞑り、脳裏に思い浮かべるのは今日一日のこと、主には親友の様子だ。
友人グループでファッション誌を広げ、どのネイルがどうだと批評し合っていた中、優芽は少し違う場所を見ていた。
数学教師に質問しに行ったのだか、教卓に大人と会話する琴樹がそのまま教師と一緒に教室を出ていくのを、すーっと追いかける視線に涼は苦笑いしたものだ。
放課後に寄ったカフェは大当たりで、また来ようねなんて言って別れたけれど。
その店を選ぶ間、優芽がすぐ近くで行われている男子たちの漫画談議にこそ耳をそばだてていたのを知っている。
「優芽聞いてるぅ?」
なんて度々言われる始末で、事情を知る涼からすれば気もそぞろなことは一目瞭然だった。
女子がバスケをする横のコートでは男子がバレーをやっていて、当たり障りなくプレーする男子が一人、疲れた様子も見せずに『そこそこ』をやってのけていると、自分などよりよほど真剣に見ていた優芽はきちんと気が付いただろうか。
涼が、そういえばと思い出すに、幕張琴樹が体育やスポーツに苦手を見せているのも不得手があるという話も、見たことがないし聞いたことがない。
食堂へ向かうために教室を出る際、ちらりと見たのは机に敷かれた風呂敷と、その上のお弁当箱。
思い出すのは入学当初。
嫌な空気、というものが教室内に充満しかけていて、当人が何を気にする素振りも見せないから、いつの間にかそれは霧散していた。
あの日、奇妙に過ぎる見送りをした日、あの時にも、琴樹は涼が驚くほどに落ち着いていて、芽衣もすっかり懐いていた。
たしかに芽衣は人懐っこい性格だ。だが、それにしても短時間にああも慕うとは。それにそれが芽衣の一方的なものというのではなく、琴樹の子供の扱いの上手さ、物怖じのなさによる、というのは涼にもなんとなく理解できている。
琴樹を知る別の友人から聞いた話からも、おかしな真似をするとは思えず、だから優芽に『ちゃんと説明してくれると思います』というようなことも言えた。
目を開く。
目を開いても、夜の空に変わりはない。
ずっと、そこにあって、変わってなどいない。
その美しさに、気付くか、気付かないか。
ただそれだけ。
「案外と、のんびりしている場合ではないかもしれませんよ、優芽」
星や星座は、自分が輝いているなんて知らないまま、見る人を惹きつけてしまうのだから。
そう遠くないうち、芽衣がしたという『王子様』との『約束』は、優芽の耳にも入るだろう。
きっと灯りはじめたはずの
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