呪いじゃないの。

椛島

第1話

大好きな辰哉君へ


これは私からあなたへ、愛を込めた呪いです。












しかしこの世には、本当にドンピシャなご尊顔が存在するようで。




安月給の仕事とそれを補うために入っている休日のアルバイトでとうとう42連勤を達成してしまった2019年の秋。


これまでの約20年の人生、何一つ報われることなく挙げ句の果てには親に搾取されるべく体に鞭を打ちアホのような連勤日数をたたき出したこの日、私は絶対に今年が終わると同時に人生も終えてやると固く誓ったのだが、その数分後に行きつけの店でとんでもなく顔が好みの店員を見つけてしまったのだ。

人生限界を感じていた私にはこれは神からのプレゼントかと思うほどに。

チョロいので私はその店員を目の保養に何とすっかり生きる希望を取り戻してしまった。

神など信じていないが。いたらぶっ飛ばしてやる。


この男が後に恋人となる辰哉君だ。



この日は上機嫌で家に帰った。

脳内には脳天気なメロディーが流れていた気がしなくもない。






なんて幸せな時間もつかの間。

帰宅するやいなや親からの金の無心が待っているのだ。


もう渡せるお金は持っていないと拒否してみるが、「お前は家族が、この家がどうなっても良いんだな」と人の精神を蝕む様なことを言うのだこの父親は。


このようにして私の稼ぎは吸い取られていくのだ。毎月。毎月。

彼らは私のお給料日を知っているからね。



私が眠れるのは一日2,3時間程度。

朝5時に起床して6時半から2時間コンビニで早朝バイトに行き、その後出社。会社が終わればまた夜の水商売バイトへ向かう。それが終わる頃には夜の一時前後だから急いで家に帰り速攻でお風呂などを済ませて1分でも早くお布団に入るのだ。


お店の彼に会うのはバイトと会社を移動するとき。

そこで彼が働いているドラッグストアに向かい、好物の梅のお菓子を大量に買い込む。私は偏食かつご飯を食べている時間が殆どなかったのでお菓子は丁度よかったのだ。




どんなにつらくて苦しくて体が悲鳴をあげていようとも、彼を一目見れば頑張ることが出来た。


そうして通いに通い詰めたある日。


買いに来たものが見当たらないので彼に尋ねてみることにした。

残念ながら目的のものは置いていなかったのだけれど、何曜日の何時頃に入荷するか丁寧に教えてくれた。





惚れた。



その出来事以来レジでお会計の間私たちは少し会話するまでに仲良くなった。


そしてついに奇跡が起きた。

「今夜空いてませんか?」


え?と一瞬時が止まったように感じた。

空いてる空いてる。空いてなくても空けるに決まっている。当たり前じゃないか。


その夜、彼と少しお茶とおしゃべりをして、彼の「…付き合いますか?」を合図に私たちは交際を始めた。





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