第6話 陰陽師、女子高生とおしゃべり
青年一人に女子高生二人というおかしな組み合せの三人は、川崎駅前のファストフードショップにいた。
「それで事故のとき、二人はなにか気付いたことはなかったかな?」
成明は単刀直入に話を始めた。
「――あ、うん。その話が聞きたかったんだよね」
愛は頬のあたりをまだほんのりと桜色に染めて成明を見つめている。
「あのね、事故を目撃したって言っても、詳しいことはよく分からないんだけど――」
「君が見たことを、そのまま話してもらえればいいよ」
成明は優しく話の先をうながした。
「うーん、あたしが見たことっていったら――」
そう言って愛はあの日の事故の様子を話し出した。
「あの日、学校からの帰り道の川崎駅前の交差点で、早百合と二人で信号待ちをしてたの。そしたら、後ろでうるさく話している声が聞こえたから、振り返ったんだけど、それがあの事故にあった子だったの」
「その生徒のことは知ってたの?」
「うん。あたしたちの一個下で今二年生なんだけど、いつも四人でいっしょに行動していて、校内じゃ、それなりの有名人だったから。――ねっ、早百合?」
愛が早百合に同意を求めるように目をやった。
「うん」
早百合は小動物のように小さくうなずいた。
「その四人の中に、駒井伸吾っていう子がいるんだけど、その子の親が国会議員をやっているの。それで先生たちも上級生も、その駒井っていう子には、なにも言えないの」
「つまりやりたい放題っていうわけか」
「そうなの。それで四人は学校じゃ、すごく浮いている存在だったの」
「あたしもあの日交差点で四人を見たんだけど、すぐに目をそらしちゃった。だって、目が合っただけで、なんか絡まれそうな感じだったから」
早百合が話に加わった。
「あたしも早百合と同じで、四人とはなるべく目を合わさないようにしていたんだけど、急にその四人が大声で騒ぎ出したの。事故で亡くなった子の様子がおかしいって言い出して」
「おかしいっていうのは、どういうことなのかな?」
「なんだか、すごく気分が悪かったみたいなの。その子、顔が真っ青で、ぶるぶる震えていたから」
「その後、どうなったのかな?」
「犬だ犬だって叫び出して、そのまま車道に飛び出していったの」
「君はその犬を見たの?」
「ううん。あたしも小百合も、それからそこにいた他の人たちもみんな、そんな犬なんて見なかったんだけど……」
「うん。あそこに犬なんて絶対にいなかった」
早百合が軽くうなずきながら同意する。
「そういえば、その子が犬のことを言い出す前に、仲間の子が、なんか大声で言ってたような……」
愛が可愛らしく小首をひねった。
「それはどんなことを言っていたのか思い出せるかな?」
「えーとね、うーん……ちょっと今すぐには思い出せそうにないかな……」
愛は申し訳なさそうに顔をうつむけた。
「大丈夫。思い出したときに、話してくれればいいから」
女刑事と対しているときとは大違いの、優しい好青年風の雰囲気を作り続ける成明だった。
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