第4話 陰陽師、女子高生に注目される
校門から出てくる高校生たちの視線が、決まってある一点で止まった。しばらく視線の先にいる人物をぼーっと見つめる。視線を止めるのは大半が女子生徒たちで、その女子生徒たちの視線を一身に受ける人物は、校門の脇に立つひとりの青年であった。
眉目秀麗な顔立ちで、口元には温和な笑みが浮いている。体付きはほっそりとしているが、ひ弱な印象はまったく感じられない。引き締まった体に細身の黒の上下を、まるで雑誌の表紙を飾るファッションモデルのように一分の隙無く着こなしていた。
自らに集まるたくさんの好意的な視線にはいっさい反応を示すことなく、校門の前で女子高生の波に視線を向けていたのは成明である。
下校時の生徒たちの流れが少なくなった頃、成明はゆっくりと歩きだした。足が向かった先には、二人組の女子生徒の姿があった。
「
成明は二人に名前を確認する。
「えっ、は、はい……」
「えっ、は、はい……」
二人は同時にかくんと人形のようにうなずいた。すでに瞳はピンクのハートマークと化している。
「実は聞かせてもらいたいことがあって訪ねて来たんだけど。三日前に川崎駅前で目撃した交通事故について話を――」
成明が言い終わる前に、二人は露骨に嫌そうな表情を浮かべた。ピンクのハートマークはたちまち曇っていき、かわって警戒心があらわな目で成明を見つめる。
事故の目撃者である二人の女子生徒については、さきほど嫌々ながら麗子に連絡をして教えてもらったのである。女子高生に手を出したら事件解決の後に躊躇することなくあなたも逮捕することになるから、というありがたい忠告もいっしょに聞かされた。
「あたしたち、なんにも知りませんから――」
右側のショートカットにした快活そうな少女が言った。情報によると名前は木立愛。
「いや、ぼくは刑事じゃないから安心して。保険の仕事でちょっとあの事故について調べているだけなんだ。少しで構わないから時間をもらえないかな?」
成明は柔和な口調で平然と嘘を付いた。例えそれが分かりやすい嘘だとしても、その嘘をかき消すだけのルックスがあれば、たちまち相手は信用してしまう。
「――あの、あたし、少しだけだったら時間がありますけど……」
左側の物静かな感じの少女が先に成明の嘘の罠にはまった。こちらの少女は沼岡早百合。
「えっ、ちょっと、早百合……。あ、あの、それなら、あたしも大丈夫です!」
先を越されたと思ったのか、木立愛が即座に続いた。
「二人ともありがとう。これで仕事がはかどるよ」
「困っている人がいたら助けるのは当然ですから」
小百合の瞳は、すっかりピンクのハートマークに戻っている。
「そうだよね。小百合の言うとおり。これもボランティア活動みたいなものだからね」
愛の瞳もしっかりピンクのハートマークを形作っている。
「それじゃ、二人にお願いするよ」
成明の言葉に、愛と早百合の二人はうれしそうに顔をほころばせた。最初に見せた警戒心は、すでにどこかはるか遠くの彼方に飛んでいってしまったらしい。
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