第百六十六話 寒すぎる! いきなり冬!

「……寒い! いきなり冬かよ!」


 第10階層は……寒かった。

 どうなってんだよ! 9階層と真逆じゃねぇか!

 これがダンジョンか……3階層以降が規制されてる理由ってこういうのがあるからなのか?


「別にこのくらい寒くない! コート着てるだろ!」


「鍵スキルではな!? これで鎚スキルとか半袖の服装になるスキルを使ったら凍え死ぬだろ!」


「別にそのうち慣れる」


 シェダルは全く寒さを感じていないのか……はたまたただのやせ我慢なのか、普段と同じ表情でダンジョンを歩いている。

 タフすぎんだろマジで……。

 プロの冒険者は慣れてるのかこういうの? 剣さんは前の階層の暑さでも余裕そうだったし、このくらいの寒さも余裕なのかな?

 そんな事を考えていると前から新たなモンスターが現れた。


「こいつは……」


「アイスゴーレムだな、手ごわいぞ?」


 アイスゴーレム……岩から氷になったので弱くなったように見えるが、ここは第10階層、恐らくめちゃくちゃ硬い。

 奴の弱点はなんだろうか? そんなことを考えていると奴はスピードスケートの選手のような動きでこちらに近づいてきた。


「うおぉ!? 見た目の割に機敏すぎるだろこいつ!」


「気を付けろ! 床が滑りやすくなってるからな!」


 先ほどはゆっくり歩いていたので何ら違和感を感じなかったが、確かにワックスがけをしたみたいに滑りやすい。

 あまり早くは動けないな……だが奴は機敏に動いている、どうすれば……。

 あ、そうだ。


「シェダル! 転移スキルの鍵を!」


「またくだらないことを思いついたのか? もうお前にあの鍵は貸したくないぞ!」


「今回は真剣だって! ってあぶね!」


 ふと前を見るとアイスゴーレムがすでに目と鼻の先に来ていた。

 俺は咄嗟に避ける……って滑る!


「どわぁ!?」


 仰向け状態で滑ってしまい、壁に激突してしまった。


「おいしっかりしろ!」


 シェダルが既に俺の前に来ていて、俺を起き上がらせた。

 ……良く滑らないな、ってそんな場合じゃなくて。


「早く転移スキルの鍵を貸してくれ! 今度は大丈夫だから!」


「本当か?」


「早くしろ! 奴がまたこっちに来る!」


 奴はUターンをして、こちらに迫ってくる。

 俺たちは咄嗟に2手に分かれる。

 シェダル! 早く貸してくれ!


「仕方ないな……今度は大丈夫だろうな!」


「大丈夫だって!」


「全く……投げるぞ!」


 シェダルは転移スキルの鍵をこちらに投げてきた……って遠いな!

 どうしよう……そうだ! 奴の真似をしてみよう!

 俺はアイスゴーレムのように滑って鍵を取ろうとした……が。


「いって!!」


「何をしている!」


 勢いあまって尻餅をついてしまった……。

 尻がめちゃくちゃ痛い……が。


「転移スキルの鍵は取れた!」


「早くスキルチェンジをしろ! 奴がまた来るぞ!」


 俺は早急に鍵を差し替えた


『転移スキル!』


「スキルチェンジ!」


『スキル解放! 移りたすぎる! 転移スキル!』


 俺はいつぞやぶりの演歌歌手のような姿になる。

 よし! まずは転移ホールを作って……入る!


「おい! 昇! どこへ行く!」


 シェダルの声が聞こえる前に俺は転移ホールの中に入った。

 出てきた先は……。


「おらぁ!」


 奴の真ん前だ。

 奴が滑る場所をあらかじめ予測しておき、待ち伏せ……とは違うが、とにかく奴の前に出て来て、蹴りをお見舞いした。

 俺のキックが奴に炸裂し、奴は氷の上を先ほどの俺みたいに尻餅をつきながら滑っていった。


「一気に決める!」


 俺は鍵を再び回し、必殺技の準備をした。


「転移スキル必殺!」


 俺は転移ホールを再び作り、鍵を今一度回す。


「行くぜ!」


『転移スキル! 移りたすぎフィニッシュ!』


 俺は転移ホールに向かって飛び蹴りをし、そのまま中に入った。

 そして出てくる先は勿論、奴の真ん前だ。

 転移ホールから出た俺は、奴の顔面目掛けて蹴りを入れた。

 蹴りを入れた個所から奴の体は粉々になり……絶命した。

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