第百十四話 声紋認証、みんなの詠唱

「いやぁ! キモい! こっち来ないで!」


「……くっ!」


 ゴブリンが集団で襲い掛かってきた。

 悠里が薫を守りつつ、弓で斬撃を繰り返していた……しかし、シェダルが言っていた通り攻撃力あまり高くなく、致命傷は与えられていないようだった。

 こいつはまずいぞ! 流石にここは俺も……。


「おーい! みんな! 携帯をいったん外して『スキル必殺』と唱えろ!」


 シェダルが4人に向かって叫んだ。

 翔琉はそれを聞くと、ゴブリンを振り払い、携帯を外し、顔に近づけた。


「スキル必殺!」


『声紋認証!』


 携帯から音声が鳴り、またもノリノリの音楽が流れる。


「翔琉! そのままもう一度携帯に嵌めろ!」


「おう!」


 ゴブリンの攻撃を避けつつ、携帯を嵌めた。


『レッドセイヴァー! ファイヤーフィニッシュ!』


 携帯から音声が鳴り、翔琉の持っている剣から炎が上がる。

 なんだ? なんかすごそうな技が出そうな気がする。


「そのまま切り裂け!」


「おう! おりゃあああああ!」


 翔琉が剣を振り回すと、半径5m範囲にいたゴブリンが一瞬のうちに切り裂かれ、切り口から炎が立ち……絶命した。

 ゴブリンの血液と炎の赤い色が、翔琉の周りを染めていた。

 す、すげぇ……ちょっと引いちゃったわ。


「じゃあ俺も! スキル必殺!」


『声紋認証!』


 愁もまた、辺りにいたゴブリンを振り払って携帯を外し、呪文を唱える。

 同様に、ノリノリの待機音が鳴る。

 愁は襲い掛かるゴブリンを吹っ飛ばしつつ、携帯を再び嵌めた。


『ブルーハンマー! ロッキンフィニッシュ!』


 愁の持つ鎚に青い閃光が走る。


「おりゃあああああ!」


 愁はその状態で、地面を叩く。

 すると、ゴブリンの下から、鋭い岩が現れ、突き刺していく。


「うおおおおお!?」


 愁は自分の力に驚愕したのか、動揺の声を上げた。

 岩肌が聳え立ち、愁の姿が隠れてしまったが、愁の周りのゴブリンは、次々と絶命していくように見えた。

 女子2人に再び目をやると、2人は翔琉と愁に感化されたのか、ゴブリンを蹴りで吹っ飛ばした。


「ウチらも負けてらんないよ! 薫ちゃん!」


「……うん!」


 2人は携帯を外し、呪文を唱えた。


「スキル必殺!」


「スキル……必殺!」


『『声紋認証!』』


 携帯から待機音が鳴り、2人はすぐさま、各々の武器に嵌めた。


『グリーンアーチャー! サイクロンフィニッシュ!』


『ヴァイオレットマジシャン! エレメントフィニッシュ!』


 2人の持つ武器にそれぞれ、緑と紫の閃光が溜まっていく。

 そこから、悠里の弓からは巨大な緑の矢、薫の杖からは紫のレーザービームが放たれ、直線上にいたゴブリンたちは、それらに貫かれ、絶命した。


「うわぁ……やっぱキモい……」


 悠里は自分のやったことを後悔しているように見えた。

 恐らくあの仮面の下は、青く染まっていることだろう。

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