閑話 教室
一方別の教室でも、話題は人間がモンスター化する事件だった。
「ねぇねぇ、逮捕された人、どう思う?」
「スキル社会に反対してた人だよね? このご時世に何を言ってるのかな?」
教室の一部が、逮捕された活動家の話題で盛り上がっていた。
……だが、それをよく思わない者がいた。
「猪塚さんは悪くない! アレは捏造だ!」
一人の男子生徒が、会話の中に入った。
「……なんだよ急に」
「ほっとけよ、行こう」
反論した男子生徒は、親が反スキル社会の活動家で、本人もそれに賛同していた。
「なんだよあいつ」
「あいつのスキルって確か『洗脳』だっけ? 近寄ったらやばいって」
彼も昇と同様、スキルで他の同級生から陰口を言われていた。
彼は小学校の頃からスキルが原因でいじめを受けていた。
両親は、彼に反スキル社会の活動をさせ、「奴らはウトピアの傀儡だから相手にするな、抵抗するなら潰せ」と教え、そのいじめた相手を自身のスキルでおかしくさせ、小学校を出席停止措置……事実上の停学になったこともあった。
親はそれでも、「よくやった」と褒め称えた。
以降彼の前に、人は近づかなくなってしまったが、彼は両親に褒められたことから、「あの行動は間違っていなかった」「奴らはスキル社会に洗脳された被害者だ」というような考えを抱くようになった。
(猪塚さんは悪くない……こいつらは洗脳されているんだ……やはりこのスキルで洗脳を解くべきか……?)
彼は出席停止措置になってからは、洗脳スキルを使っていない。
人が近づかなくなったことから、使う必要が無かったと言うべきか。
集団で洗脳されているとなると、使うにも使えない……どうすればいいのか……と彼は考えた。
すると突然、他の生徒たちの動きが止まった。
止まった時間の中では、彼だけが動けくことができた。
「なんだ!?」
男子生徒は困惑の声を上げた。
すると前の戸が開き、男子生徒は驚いた。
「あ、ごめ~ん、でもお使いだからしょうがないよね」
「だ、誰だ!? お使い!?」
明らかに学校の制服ではない、ゴスロリ衣装の少女が現れ、生徒はさらに驚く。
少女……カルデナは、まるで商店街に買い物をしに来た子どものように、話しかけた。
「そ、お使い!」
カルデナは目線を生徒の目に合わせながら、腕輪を取りつけた。
生徒は腕を抑え、苦しみだした。
カルデナは男子生徒の耳元に近づいて、囁いた。
「ねぇ、貴方の望みは? 何? 何がしたいの?」
男子生徒は、咄嗟に……自分の望みを言った。
「俺は……このスキル社会を消したい……ここにいる奴らの洗脳を解きたい……」
「よく言えました! さぁ手を出して!」
生徒は両手を出し、黒い携帯電話をカルデナから受け取った。
「これのボタンを押して、そこの腕輪に嵌めてね! じゃあね!」
カルデナは生徒に携帯電話を渡して、姿を消した。
気づくと、生徒たちの止まった時間が動き出し、他の生徒たちは中腰姿勢の男子生徒に目が行った。
男子生徒は、まっすぐと立ち、携帯のボタンに手を掛けた。
「みんな……洗脳から救ってやる……」
『スライム!』
男子生徒がボタンを押すと、不気味な声でモンスターを読み上げるような音声が鳴った。
「きゃああああ!」
「あの腕輪は!?」
「みんな逃げろ!」
男子生徒は他の生徒が慌てている様を見ながら、腕輪に携帯電話を嵌めた。
すると、腕輪から謎の液体のようなものが噴き出し、男子生徒の体を覆う。
男子生徒は瞬く間に、人型のスライムのような姿になった。
他の生徒は、皆教室から逃げていった。
「みんなを救う……この洗脳から!」
男子生徒……スライム人間は自分の意思で、教室を洪水の如く、ゼラチン状の何かで覆った。
それは教室の天窓まで溢れかえり、窓がそれに耐えきれなくなり、外にそれが漏れ出した。
そして彼はそのまま……教室の外へ出た。
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