第七十六話 動く陰謀、救急車が出動
ワープホールを抜け、俺たちはオークを叩きつけた場所に来た。
周辺はまだ、落ちた衝撃で起きた砂煙が立っていた。
「前が見えない……」
俺たちは砂煙をかき分けながら前に進んだ。
「気を付けろ、奴はまだ生きている可能性もあるからな」
シェダルは俺の腕を掴みながら進む。
確かに生きている可能性は十分ある……シェダルが言うように、得体のしれないモンスターだ。
……もしかすると、素材を冒険者ギルドに換金すれば高値で売れるかもしれない。
そんな欲望も考えつつ、前へと進む。
落ちた地点にちょうど着いた時、そこに見えたのは……モンスターではなかった。
それは……
「……この人は!」
「あのテレビに映っていた奴だな」
朝のニュースで、議事堂前でデモ活動をしていた人の一人だ。
この人は確かキャスターのマイクを奪って陰謀論を唱えていた……
『いいですか! 皆さん! 私の言っていることをよく聞いてください! 今の日本は明らかにおかしいです!』
だがなぜここに? というかこの人……
「死んでる……?」
「待ってろ」
シェダルは彼の胸元に耳を当て鼓動を確認する。
外傷はないように思えるが……というか、あの攻撃で外傷なしってどういうことだ?
「……まだ息はある、どうやら気絶しているだけだな」
……よかった、とりあえず一安心だ。
ここは救急車を呼ぼう。
「救急車を……ってここどこだ!?」
住所がわからなければ、救急車を呼ぶことが……
そういえば、住所が分からない時は自販機を見ればいいんだっけ? 住所が書いてあるとかないとか、えっと自販機はどこだ……えーっと……あった! 結構遠いな……まぁでも一大事だ、そんなこと構ってられない。
俺は自販機の元へ走り、住所を見て、救急車を要請した。
電話を終えて、シェダルの元に戻ると、シェダルは男の腕を凝視していた。
「……昇、これを見ろ」
……男が付けていたもの、それは。
「これって……冒険者が使う……」
「これはそういう腕輪か、なるほど」
俺がダンジョン探索の授業でも使った冒険者用の所謂スキルに変身するための道具だ、俺はこれで作業服姿になった。
だがなぜこれを?
「よく見たらこれ、形が歪だし、色も黒い……そういえば嵌めている携帯が無い?」
その辺に落ちてないかな……あった!
ってこれ、触るとまずいやつかな?
この携帯は……特におかしなところはないな、普通の黒い携帯だ。
……そういえばオーク、言葉を発していた……そしてこの男。
「まさか、さっきのオークって……」
「おそらく、この男が変身していたんだろう」
「そんな! モンスターに変身なんて……」
「確証はないが、その可能性は高い」
仮にこの人が変身したとして、いくら過激な思想に突っ走ってるからといって、そんな暴力的なことをやるか?
「なぁ昇、これは明らかに普通じゃないぞ」
「そらもう、見りゃ分かるよ」
「こいつは……何かがある」
「……」
何かがある、いつものシェダルとは違う真剣な言い方に、少し緊張してしまった。
陰謀……か、もしかすると本当にそんなことがあるのだろうか?
そんな事を考えていると、救急車が少し離れた場所に止まった。
救急隊の人が降り立ち、担架の準備を始める……事情聞かれたらどう切り抜けよう……。
「この人の知り合いですか!?」
「いえ、違います」
「どういう経緯で!?」
「えっと……」
経緯っつったって……偶然見つけましたじゃダメかな?
「この人が暴れていたので私たちが止めました、国会議事堂前で暴れた犯人はこの人です」
おいシェダル! 事実だけどそんなこと言って信じてもらえるわけがないだろ!
「証拠に、この腕輪と携帯電話です、この二つを調査すれば何かがある筈です」
「……よくわからないが、警察にも通報しておきます! 一緒に来ていただけますか!?」
「は、はい」
俺とシェダルは救急車に乗り込み、病院へと向かった。
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