第五十六話 俺がバイク、シェダルが跨る

「あぁ、今のお前はバイクになっている」


『は?』


 バイク? 何言ってんだ?


『すまん、もう一度言ってくれ』


「だからそのまんまだ、今のお前はバイクスキルの姿だ!」


『はぁぁぁぁぁ!?』


  つまり……俺は今、「バイクそのもの」ってことか!?


『ふざけるなよ! 人をこんな姿にしやがって! つーかバイクスキルってなんだよ!』


「この鍵は、ライダースキルの鍵を作った時にできた失敗作だ」


『はぁ?』


「作って試しに使ってみたら自分がバイクになってしまってな! 元に戻るのに一苦労だった! ははは!」


『ははは! じゃねぇよ! おい、元に戻しやがれ!』


「いいのかなぁ? 今のお前は、私がいなければ元に戻ることもできない、転移スキルを使いたくないのなら、移動手段はこいつしかないぞぉ?」


 シェダルは悪魔が契約を持ちかけるかの如く、不気味な笑みを浮かべた。

 こいつ……。


『……わかったよ! だが、傷つけんじゃねぇぞ!』


「いい子だなぁ、よしよし」


『おい! 撫でんじゃねぇよ!』


 このスキルになった以上、今の俺にはどうすることもできない。

 転移スキルを嫌がったのは俺だし……ここは大人しく、従おう。


「さて、じゃあ乗るぞ!」


『ちょ、ちょっと待て! 上手く乗り回すにはライダースキルの鍵とか使った方が……』


「あぁ、バイクスキルならだれが乗ろうがうまく乗れる、そこは心配しなくていい」


『そうか、ならよかった……ってそれならせめてヘルメット被れよ! ノーヘルは危ないだろ!』


「大丈夫だって、私の運転裁きを侮るなよ!」


『おい! ちょっと……』


 俺の背中のあたりに、シェダルが跨った。

 まるでお馬さんごっこをする、子どもと親兄弟のような感覚になる。

 というかこれ、結構恥ずかしいな! こういうので喜ぶ変態には御褒美だろう、身動きが取れないので個人的にお勧めしないが。


「さ、風を切っていくぞ!」


シェダルは、俺の脇腹付近にあるギアを切って、フルスロットルで走行を始めた。


『おいおいおい! 酔う酔う! 酔うから!』


 そんな訴えをしたが、エンジンの爆音聞こえなかったのか、はたまたスルーしたのか、シェダルの耳には届かなかった。


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