第十八話 名はシェダル、社会を見返す
階段を抜け、客間に到着した。
部屋はソファが二つ向かい合い、その間にテーブルと、オーソドックスな間取りだった。
だが客間と言ってもこんなところに果たして「客」は存在するのか?
そんな事を考えていると、ドアをノックする音が聞こえ「入るぞ」と声がした。
ドアが開き、女の子が白い台車を引いて入室した。
中から湯気が立っている西洋風のティーカップとチョコレートケーキのようなものが上に載っていた。
女の子の姿は、先ほどまでの生まれたての姿ではなく、白いワンピース姿だった。
「ほれ、お茶と茶菓子だ」
「あ、ありがとう……ございます?」
カップの中には紅茶が入っていた、紅茶は叔父さんがたまに淹れてくれるが、それとは違い、薔薇のようないい香りが漂っていた。
ケーキは所謂生チョコレートのようで、普通のケーキよりも若干固そうなことが、見ただけで分かった。
「さぁ、冷めてしまう前に頂こう」
「は、はぁ……」
女の子は紅茶を飲み始めた。
飲み方はまるで、上品な家系の一人娘が、アフタヌーンティーを楽しんでいるような雰囲気を感じた……って言ってもアフタヌーンティーが何なのか理解していないのだが。
「どうした? 飲まないのか?」
「いやちょっと、あんなことがあった後じゃあ……」
頭の中で、緑色の化け物が血を噴き出して絶命していく様を思い出し、思わず吐きそうになってしまった。
「まぁ、いいだろう、確かによくよく考えると、あんな奴らの相手をした後では食欲が湧くわけがない」
誰のせいでこうなったと思っているんだ。
そう言おうと思ったが、言うだけ無駄だと考え、喉の奥に仕舞った。
「さて、まずは自己紹介から始めよう、君の名前は?」
「……まずこういうのは、そちらから名乗るものでは?」
「あぁそうだね、申し訳ない」
女の子は紅茶をソーサーに乗せて、咳払いをした。
「私の名前は『シェダル』だ、別に呼び捨てでいい」
「お、俺は……金剛 昇、です。昇でいいですよ」
「あぁ敬語はよしてくれ、対等な関係でいこうじゃないか、『昇』」
「は、はい……じゃなくて、わかった、『シェダル』」
「うむ」
女の子……シェダルは再び紅茶を口に運んだ。
沈黙の時が流れる。
そもそも俺は女の子はおろか、人とまともに話したことが無い。
叔父さんは一応まともな話し相手に入るが、家族なので他人には入らない……のか?
よくわからないが、ともかく聞きたいことは多い筈なのに、何を話せばいいのか分からない。
「ところで、君のような人間がここにいるということは、この国にも遂に、スキル社会が導入されたようだな」
「お、おう……そうだけど? ていうか遂にってことは予測してたの?」
「当たり前だ、ダンジョンとウトピアがこの星に出現してから、遅かれ早かれそういう波が来ると予測していたさ」
「は、はぁ……」
「それに、普通に考えて、突然違う世界の大地が、また違う世界に出現するなんてありえないだろ?」
「そ、そうだけど……」
ウトピアの出現、俺が小学校5年生の時だ。 最初はありえないと考えていたが、流石にそれから5年も月日が経つと、受け入れてしまうものだ。
時の流れとは、恐ろしい。
「私は見ての通りウトピア出身でな……スキル社会は反吐が出るほど嫌いだ、勝手にスキルをラベリングして、レベルなんていう数値を押し付けて、完全に管理されている」
「……」
駅前で抗議していた人々と似たような主張をシェダルは展開し始め、思わず聞き入ってしまった。
あの時も思ったが、確かにスキルを勝手につけて、レベルという名の人間的評価を押し付けるのは、いかがなものだろうか?
「私はそんなスキル社会を見返してやろうと開発した、それがこいつだ!」
「そ、それって……」
シェダルは台車の下から、腕輪と謎の四角い箱(?)を取り出した。
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