XII.冒険者ギルド入会の勉強は単位だけで事足りた

 静まり返った冒険者ギルド。酒の騒ぎは何処へやら。一瞬、いや、もう少し長い無音の間があった。


「お姉さーん、これ如何どうすれば良いの? 要らないなら燃やしちゃうけど如何する?」


 逢兎はリーノに問いかける。しかし返事がない。


「要らないみたいだし燃やしちゃうね」


 そう言って逢兎が火球を作ると、突然冒険者たちが騒ぎ出した。


「「「待てーー!!!」」」


 何人かの冒険者が逢兎に飛び掛かる。


「俺はボーイのラブ的なやつBLは無理なんだけど!」


 逢兎はとっさに火球を飛び掛かって来た冒険者に目掛けて飛ばしてしまった。


「俺はホモじゃないの!」


 などとぼやきながら逢兎はまた火球を作る。


「お前はその薬草クサの価値知らねぇのか⁈」


 一人の冒険者が逢兎に向かって言った。逢兎は火球を消してその冒険者の方を見た。


「低ランク冒険者向けの依頼のやつでしょ。誰でも集められるんじゃないの?」


 逢兎がそう言うと、一瞬、より少し短い間その場が凍り付いた。


「その草は白い色をしてるだろ! 本来緑なんだよ!」


 先ほどの冒険者が逢兎に歩み寄りながら言う。


「じゃあ欠陥品だし燃やしちゃうね」


 逢兎はまた火球を作り出す。すると冒険者に頭を殴られた。


「白い色の薬草は稀に生まれる‘厄災’って野郎の縄張りにしかえてこねぇんだよ!」

「あー、厄災ってこれでしょ?」


 逢兎は厄災を指さしているつもりだった。


「リーノさんが厄災なわけねぇだろ」


 逢兎はまた殴られる。


「違うに決まってるでしょ! これだよ! こ・れ!」


 逢兎は持ち上げて見せた。持ち上げたと思ったら地面に叩き落とした。

 冒険者たちが作画崩壊級に唖然とした表情のまま固まった。


「これをお前らが?」

!やったの! 死ぬかと思ったけどね」


 後半半笑いで逢兎は言った。


「危険なことはしないでって言いましたよね?」

「危ないことはしないって約束したよね?」


 イリとルナが頬を膨らませながら言った。


「そんな事よりあいつ殴って良い? アイト兄ちゃんを殴った分よりも」


 イリは逢兎を殴った冒険者を睨みながら言った。


「そういうのは俺の前に出れてからね」


 イリは飛び出して一発本気で殴った。殴られた冒険者は地面に殴り飛ばされた。逢兎が直ぐにイリを回収した。


「嬢ちゃん中々やるな。ランクは幾つなんだ」


 頭から血を流しながら冒険者は聞いた。


「ランクも何もないよ。俺たち冒険者じゃないもん」


 逢兎が代わりに答えた。


「ルナ、イリ持つの代わってくれない?」

「いいですけど、何かするんですか?」


 逢兎はイリを渡すと少し微笑んだ。


「だって此奴こいつ、俺たちを殺す気だもん。そんな目をしてる気がする」

「フ、よく分かったな。分かったところで、どうにもんねえよ」


 男は剣を振るう。逢兎は右腕で剣を受け止め、左手で男の顔面を掴んで押し倒した。


「中途半端に斬られるのが一番痛いんだけど。斬るならちゃんと切り落としてよ」

「はぁ、なんで防げんだよ。その方が可笑おかしいだろ」


 イリとルナも大きく頷く。


「俺飽き性だからさ、早く終わらせたいんだけど、厄災これと同じ死に方でいい?」

「やれるもんならやってみろよ」


 男は逢兎を蹴り飛ばした。

 逢兎は即座に男に突っ込んで右腕を抑え込み、顔面を鷲掴みにした。


「生き残れればいいな。デッド・オア「待ってください!」……」


 突然の女性の声に二人とも倒れた。


「ここでの殺し合いは断じて認めませんよ」


 リーノがキッパリと断言した。


「ルードさんもCランクでは彼には勝てませんよ。Aランクでも勝てないそうなので」


 ルードは咄嗟に冒険者ギルドから逃げ出した。謎の雄叫びを上げながら。


「えっとー、そういえば名前をまだ聞いていませんでしたね。私はリーノです」

「俺が逢兎で、この二人が、エルフ?のルナと熊娘くまっこ?のイリだよ。仲間でいいらしいよ」

「なんですかその紹介の仕方は」

「ちゃんと仲間でしょ! 仲間じゃないみたいな言い方しないで!」


 二人とも逢兎の紹介の仕方がお気に召さなかったようだ。


「これだけのことをされては冒険者ギルドとしても認めざる負えないのですが、冒険者になるためには必ず戦教を受けていただく必要があります」


 何も聞かなかったかのようにリーノが話を進めた。


「戦教とは本来師範がすることなのですが、力の扱い方や戦い方なども含まれますが、今の様子だと、恐らく大丈夫なので試験の勉強をしていただくだけで大丈夫です」

「試験って何? 筆記? 実技?」

「皆さんは筆記だけでいいですよ。実技はこれでクリアですので」


 そう言ってリーノはルナたちが集めた薬草や魔物をギルドの裏の方に持って行った。


「おじさん、筆記試験ってどんな問題なの?」


 逢兎は適当に近くにいた冒険者に聞いてみた。


「読み書き算術ができれば大抵は出来る問題だ。ちゃんと勉強することだな」

「読み書き算術か~。読むのは出来たな、書けるかな? 算術ってどのレベルなの?」

「ほとんどの問題はあの棚の本から出るよ」


 別の冒険者がある本棚を指して言った。他の本棚より少し離して置かれている本棚だ。


「おー、そりゃ助かる。アリガトおねえさん」


 逢兎は少し陽気なステップで本棚に向かい、適当に本を取り出して適当にページを開いた。


「何々、『冒険者ギルド入会模擬問題 算術編応用』か。どんな問題なんだ」


______

問題

1dデルcシーノ当たり200ベリン掛かる馬車に乗り、30wウェンc移動したいときに必要になるのは何ウェネエルか答えなさい。

また、5人で乗ると100ウェネルの割引が受けられ、5人で割り勘したときの1人当たりの支出は何ベリンになるか答えなさい。

______


「えっとー、単位が分かれば簡単なんだけどな~。後は書けるかどうかだよ。てか、四則演算くらい誰でもできるでしょ。二人とも勉強するよ」


 三人は冒険者ギルドの一番隅にあったテーブルで勉強を始めた。

 逢兎は読み書き算術ができるが単位が分からない。イリとルナは読み書きは出来るが算術ができない。三人とも単位は教科書を見て覚えた。算術は逢兎が二人に教えた。

 そして、冒険者の暗黙の了解という内容の試験体細工をした。暗黙なのに試験に出るらしい。


 試験終了直後。


「意外と簡単だったな」

「そうですね。何度も見直せるくらいに時間も余りましたし」

「問題よ!」


 三人とも余裕な表情で笑い話していた。

 すぐに採点も終わりリーノが三人の元にやって来た。


「御三方とも無事に合格です。冒険者ギルドカードを発行しますのでカウンターの方へお越しください」


 三人はリーノに連れられカウンターに移動した。


「ではお一人ずつこちらの測定石いしに手をかざして下さい」


 イリは少し警戒している。


「大丈夫だって」


 そう言いながら逢兎は測定石に手を翳す。すると、測定石が光った。途端に何もなかったかのように光が収まる。


「はい、ではこちらがアイトさんの冒険者ギルドカードになります」


 逢兎はリーノからカードを受け取る。


「名前と種族、ランク、あとは適正属性とかも分かるのか。俺のは『なし』か。適性が無くても使えるみたいだしいっか」


 そんなこと言いながら逢兎はカードをしまった。

 ルナ、イリも同じようにカードを貰った。


「それと、こちらが入会金になります。5,000ベリンです。それから、こちらが以前お持ち頂いた魔物や薬草の買い取り金になります」


 ざっと100,000ベリン以上はあった。

 逢兎は二人を連れてまず服屋に向かった。二人ともずっとボロボロの布を着ていたので真面な服を買った。それもまだまだお釣りが残っていた。

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