VII.魔族は地底世界からやってくる

 マルオには一瞬の隙も無い。それは逢兎も同じだ。しかし、逢兎の余裕はイリとルナを完全に守り切れるほどの余裕がある。


「油断も隙もありませんね。少し、本気を出す必要がありそうです」

「へー、面倒ごとにはするなよ」


 逢兎は一気にマルオを斬ろうとした。しかし、さっきまで何も持っていなかったマルオの手には剣があり、防がれた。


「中々な威力ですね。こんなのにられるとは、あの二人もまだまだでしたね」

「その剣どっから出したの? 俺が歩き出した時には無かったよね?」

「歩き...まあいいでしょう。この魔剣は、私の魔法の一つですよ。魔法の発動なんて、一瞬もあれば終わりますよ」

「へー、こんな感じに?」


 逢兎がそう言うと、マルオの持つ魔剣は割れて、逢兎の斬撃はマルオの左手首を斬り落とした。マルオは逢兎の頭上を通ってイリの元に走り出した。


「ひっゃっ」

「しまった、、、」


 逢兎はイリの元に駆け付ける。しかし、間に合いそうにない。


「ダメ、『天明の祝壁フォール』」


 ルナが精霊魔法で守った。


「ごめん、俺が甘く見てたらしい。二人とも気を付けて。死んだら追いかけるからね」


 逢兎はマルオの前に入り込んで言った。

 逢兎はイリとルナを連れて少し下がった。


「そっちの森人エルフもいいですね。実に美味しそうだ」

「アイトさん、ルナが戦ってもいいですか? ルナ、魔族あれ嫌です。変わってください」

「まあ、ちゃんとできるならいいけど、ダイジョブそ?」

「ええ、イリちゃんをお願いします」


 そう言ってルナは逢兎より前に出た。


「へー、貴方が私に勝てると思っているのですか? 女の子レディー相手に本気を出すほど、私は腐ってはおりませんので、ご安心を」

「精霊魔法『大束樹ビッド』『樹栄吸ピット』 こう見えて、ルナ強いんですよ」


 マルオは油断していた。ルナの使った魔法で拘束され、生命力を吸われてしまっている。


「これは、少し舐め過ぎていたようですね。ですが、これしきの事、何の問題もありません」


 マルオは余裕そうに振る舞っている。


「そうなの? じゃあ、僕も混ざるね」


 イリはマルオの顔を全力で殴った。


「この程度で…」

五月蠅うるさい。黙って。五月蠅いと嫌われるよ。僕君みたいなの嫌い。早く死んでよ。あと何回殴ったら死んでくれるの?」


 イリは全速力で全力で殴り続けている。返事もできないほど早く殴っている。


「イリ、もういいよ。そいつもう直ぐ死ぬから。危ないから下がれ」

「はーい」

「ルナももういいよ」


 逢兎が声をかけるとイリはすぐに逢兎の元に駆けて行った。

 ルナも、魔法を解除した。




 マルオはルナに拘束され、イリに殴られて、死にそうになっていた。そんなとき、過去の事を思い出していた。


 10年前、地底世界。

 王城デルフィード。


「界王様、お呼びでしょうか」

「マルオ、お前には上地に言って貰う」

「上地って、幾年にも渡って洞窟を進んだ先にあるという」

「ウム、その上地だ。何、直ぐにとは言わぬ。翌、招集するまでに仲間を集めておくように」

「は!」


 マルオは地底世界を治める王、界王ベルゼビュートと話していた。

 マルオは界王と話が終わると、仲間を集めるために、知人をあたった。


 翌年、マルオは十人の仲間を連れて界王の元を訪れた。


「遠征の準備が整いました、界王様」

「そうか。上地に着くのは何時いつるかは分からぬが、帰ってくるのを待っているからな」

「ご安心を。界王様の期待を裏切るようなことはしません。それでは、失礼して、行ってまいります」


 そう言って、マルオは仲間を連れて上地へ向かった。


 地底世界から上地に行くには長い長い洞窟を抜ける必要がある。しかし、その洞窟は、これまでに通った通った事のある者中でも、最速で3年以上を必要としていた。その記録に必要だった犠牲は数知れずといた。

 マルオ達も道中5人犠牲になり、9年近く掛かって上地にたどり着いた。洞窟から出て直ぐに、魔人と戦い、三人になってしまったのだ。その後、逢兎達と出会ってしまったのだ。




 逢兎は、イリとルナを下げて、マルオの元に歩いて行った。


「まだ生きてる? てか、こんなじゃ死なないよね?」

「ぁあ、せめて、一人位は殺しといけないですね...」


 マルオがそう言うと、逢兎の足元の地面から、鋭利な棘が逢兎の心臓のあたり目掛けて飛び出てきた。


「悪足搔きも出来ずに死んじゃったのかな?」

「……」

「死んだか。二人とも行こ。もう死んでるし」


 逢兎はマルオを燃やしながら二人の元に戻って行った。


「アイト兄ちゃん、そっちは来た道だよ」

「え? マ?」

「アイトさんって、方向音痴なんですか?」

「いや、方向音痴というよりか、忘れっぽいというか、別に忘れたくて忘れてる訳じゃ無いんだよ」

「潔く認めて貰った方が混乱しないんですけど、なんでそんな遠回しに肯定するんですか」


 ルナもイリも逢兎に、嫌味な目線を向けている。


「いや、ジトらないでよ。睨むよりはいいんだけど怖いよ?」

「よく分からないこと言わないでよ! 早くこの森から抜けようよ」

「でも、何処に行けばいいか分からないよ?」


 イリも逢兎に釣られて墓穴を掘ってしまった。イリが逢兎に似て来つつあるようだ。


「それで、向かう宛てでもあるんですか?」

「え? ないよ。取り敢えず人に会いたいくらい?」

「「え?」」


 イリとルナは逢兎の発言に驚きを隠せずにいる。逢兎は何も言っていないと言わんばかりに口を塞いだ。イリとルナは余計に表情が曇った。


「俺、何かまずいこと言った?」

「いえ、そんなことは……」

「ないけど、ちょっと……」


 二人の歯切れが悪い。逢兎は余計に混乱している。


「人間嫌いなの? 俺嫌われてる?」

「いや、アイトさんは、、、」

「うん、アイト兄ちゃんは何か違うんだけど、、、」

「行きたくないなら行きたくないでいいよ? ずっとこの森に居たいならいたいでいいよ?」

「いや、そんなことはないです」

「うん! 行こう!」


 二人は逢兎の手を引っ張って走り出した。


 森の中を彷徨っている時には、ゴブリンと何度も遭遇しては倒していた。三人とも戦いにも慣れ、野宿生活が普通になっていた。


「茸も筍も飽きて来たんだけど」

「僕も」

「ルナもです」


 慣れては来ているが、食事に何も変化がなく、三人は疲れ果てている。


 数日後、逢兎達は森の外に出ることができた。前回とは少し景色が違うが、草原だった。


「今度はダッシュで森に入らないでよ!」

「さすがの俺でも同じ過ちは何回もしないよ」

「ずっと道が分かって無いのにそんなこと信用できると思いますか⁉」

「知らない所なんだから仕方ないでしょ。目印もないんだし!」


 森から出るなりいつも通りの喧嘩が始まった。ルナはいつも通り横目で見ている。

 逢兎とイリの喧嘩はいつもルナの空腹で終わる。三人で仲良く食事をして、喧嘩のことは忘れてしまうようだ。



イリ・レノージュ  獣人  許奴隷ツキシタガウモノ


称号:武術の使い手ファイター


スキル:危機察知A 獣話ビーストトーク 鑑定C 無限闘気


魔法:土魔法B 風魔法B 


耐性:屈辱耐性A 恐怖耐性B



ルナ(?)  森人エルフ  許奴隷ツキシタガウモノ


称号:魔法使いの卵


スキル:危機察知A 鑑定B 解析B


魔法:精霊魔法S 木魔法B 風魔法B 水魔法B


耐性:屈辱耐性A 恐怖耐性A 聖魔少減



 逢兎は寝る前に二人のステータスを確認した。ルナは初めて鑑定したが、イリは以前鑑定した時より、少し強くなってるらしい。自分のステータスには全く変化がなかった。ステータスがSばかりだったのだから、当たり前だと思い、眠りについた。

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