猫と犬で

@benzai

第1話 消えたボール

「ご主人。こっちです。さあ、早く投げてください」

 コロは嬉しさに飛び跳ねる。尻尾は飛ぶように右へ左へ。落ち着きなんて言葉は今のコロには存在しない。

 ポーンと投げられたボールを一心不乱に追いかけ捕まえる。ボールを捕まえた喜びが溢れて、めったやたらに走り回る。最高の瞬間だ。だから、ついご主人の事も頭から忘れてしまう。ご主人の周りを5周程回ってから、気が付いてボールを返す。

「どうですか?誉めてください。さあ、誉めて。僕は優秀なんだ。もっと撫でて。あっ、また投げるんですね。はい、準備完了です。さあ、投げて下さい」

 こうやって何度もご主人とコロは遊ぶ。ナナさんはキャットタワーの上から呆れた様に眺めていた。

 たかがボールを追いかけて何が面白いのかしら。コロは単純バカね。

 そんな事を考えながら毛繕いをするために肉球を舐めた時、コロがキャットタワーにぶつかった。ナナさんにイライラっとした感情が湧き上がる。ナナさんはジーっとコロを見据えていたが、全力で遊んでいるコロは全く気付かなかった。

 


「はい、お終い」

 ご主人の一言で、コロにとって楽しい時間は終わりをむかえる。

「お終いですか?もう少しダメですか?出来ればあと10分程、遊びたいのですが…。残念です」

 コロは上目遣いにチラチラとご主人を見る。

 ご主人は「ごめんね」と言いながら頭を撫でてくれた。

 仕方なく諦めて、水を飲みにいく。身体も動かして喉も潤して気分は上々。

 さて、1人でボール遊びでもしますかと、戻ってみたらボールが消えていた。

「あれ?ボールが無い。ボールが無いよ」

 すんすんと鼻を動かし探してみるけど、色んなところから匂いがして判断がつかない。

「ねえ、ナナさん。僕のボール見なかった?」

 コロはキャットタワーの上に居るナナさんに尋ねる。

「さあね。あんた、おっちょこちょいだから、ソファーとかの下に入れ込んだんじゃないの?」

「そうかな」

 コロは彼方此方を探したけど、とうとう見つからなかった。ご主人と遊んでいた時とは打って変わって、物凄く物凄〜く落ち込んでしまった。

 流石のナナさんもモヤモヤと罪悪感を感じたのか、毛繕いが雑になる。

 コロはボールを諦めた。そして悲しい思いのまま、床に疼くまる。

 ナナさんはそっと立ち上がると、キャットタワーの天辺からボールを取り出す。気づかれない様に静かに下まで降りた。

「コロ、ボールってこれでしょ。こんな所に落ちてるわよ。ちゃんと探しなさいよ」

「ありがとう、ナナさん」

 コロは嬉しくてナナさんを舐めてあげる。感謝はちゃんと伝えなきゃ。

「ちょっと、折角毛繕いしたのに、汚れるじゃない」

 ナナさんは怒ってキャットタワーに戻る。

 コロは上機嫌でボールを傍に置いて眠り、ナナさんは今度こそ丁寧に毛繕いをして綺麗になった。

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