第9話女パート:同期の話
「南さん、いよいよ結婚式だね。おめでとう」
「ありがとうございます」
雫はそう言って軽く会釈する。
すると書類を持ったその同期の女の子は軽くため息を吐いて言う。
「はぁ~、とうとうこの会社で売れ残っちゃったのは私だけかぁ。焦るなぁ」
「あれ? 確か彼氏さんがいたんじゃ……」
「分かれた……と言うか、フラれた。そろそろ私たちも結婚しないかって言ったら速攻で分かれられた。全く、この三年間無駄にして! 腹立つよね、全然結婚の話しないでさ!」
憤慨する同期。
雫はそれにお愛想笑いをするしか無かった。
「き、きっとすぐにまたご縁がありますよ……」
「とは言え、私も南さんと同じ年だし、昔ならクリスマスケーキって言われるのにね」
そう言ってもう一度ため息を吐く。
雫は何とも言えない気分になってふと友人の話を思い出す。
「あの、私の友人で合コンの面子が足らないって言うのがいるんですけど、もしよかったら行ってみますか?」
「ほんと!? 行く、行く!! どんな相手なのかな?」
「確か〇×◇商社の人たちって言ってましたね……」
「何それホント!? 上玉が多い商社じゃない!! ぜひお願い!!」
雫はその勢いに押されながら乾いた笑いで友人に連絡しますと言って自分の仕事に戻って行った。
* * *
「それで、南さんどうだった?」
昼休みに同期にすぐにつかまり雫は少し引きつる笑をしながら言う。
「えっと、大丈夫みたいですね。今度の金曜らしいのでその前に一度友人が会いたいそうです。大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫! そっかー、〇×◇商社かぁ。これは気合入れなきゃね」
そう言う同期に雫は思わず言ってしまった。
「やっぱりもう結婚を意識しますよね……」
それを聞いた同期は雫を見る。
そして言う。
「まあね、世間体ってのもあるけど私らも二十六だもんね。三十過ぎたらまず結婚なんて難しいよ。今は多様性の時代だなんて言っているけど、この先何十年も一人生きていくなんて大変だよ。親の介護とかもあれば最悪。それに年取ってから子供なんて大変よ?」
「そうなんですか?」
雫も正直に言えば清太と一緒になる事しか今は頭に無い。
その先もまだ漠然としかない。
将来子供を産んで育てて、母親の介護が必要になればそれもしなければいけない。
そんな先の事なんか考えた事も無かった。
「結婚して家庭を築いて安定した生活を得る。本来それが当たり前なんだけどその当たり前が今は難しいのよね~。だから私は結婚したい、安定した未来が欲しい。だからフラれたのなんか何時までも気にしていられない。自分の未来は自分でつかまなきゃだもんね!」
前向きなそんな彼女に雫も思わず頷く。
清太と一緒になって幸せな家庭を築く。
そうすればきっと自分の置かれていた家庭とは違った幸せが手に入る。
雫は大きく頷きながらその同僚に「それじゃぁ、明日の夜に友人に引き合わせますね」と言って密かにこの同僚に心の中で応援のエールを送るのだった。
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