第2話男パート:先輩Aの話
「おい青柳、お前結婚するんだってな?」
仕事の合間に隣に座る先輩が青柳清太に声をかけて来た。
青柳清太はだらしない笑顔で頷く。
「はい、とうとう僕も年貢の納め時ですね」
「まあ、結婚なんざ人生の墓場だよ、男にとってはな。そうだ、一応祝ってやるから今晩付き合えよ。年末調整で少し余裕があるから奢ってやるぞ?」
「マジですか!? あざっす、先輩!!」
そう言って二人は先輩Aのおごりでささやかなお祝いをする事になったのだった。
* * * * *
「結婚かぁ、遠い昔の記憶だなぁ」
「何言ってるんですか、先輩の所の奥さん未だ若くて奇麗な人じゃないですか?」
「まあ、それでも美人は三日で飽きると言われるからな」
ビールのグラスを掲げてほろ酔いになりつつ焼き鳥のつくねを口に運ぶ。
青柳清太にはこの先輩がなんだかんだ言って幸せそうに見えた。
「僕もいつまでも嫁さんを大切にしなきゃだよなぁ~」
それを聞いた先輩Aはぴくっとなって鶏モモの焼き鳥を青柳清太に向けながら言う。
「おい、青柳。言っとくが結婚は人生の墓場だぞ? 結婚はゴールじゃない。そこからが試練のスタートなんだからな?」
「またまた、ご冗談を」
「いや、本当さ。結婚をするってことは一家の大黒柱になる事。自分の好きな事なんざ後回し、嫁や子供の為に馬車馬のように働かなきゃいけなんだぞ?」
「それは流石に考え過ぎなんじゃ?」
少し目が座っている先輩A。
青柳清太は引き付く笑いを顔に張り付けて言う。
しかし先輩Aは鶏のももをかじりながら言う。
「いや、最初は新婚でウキウキするのもいい。勢いで早めに子供を作るのもいい。しかし自分が背負う責任ってのがどんどん膨らむんだよ。お前、家とかどうするつもりだよ?」
「えっと、とりあえずはアパートに住もうかと」
「だったら早めに決断するんだな。マイホームを買うなら早い方が良い。最初は楽でもだんだんと子供が大きく成れば金がかかる。賃貸は最後自分の物になる訳じゃないし、資産価値がある訳じゃない。将来の事を考えるならそう言った人生プランはしっかりと持つべきだぞ?」
青柳清太は、ははははと乾いた笑いをする。
結婚をする事だけしか今は頭に無かった。
しかし目の前にいる子供が三人もいるサラリーマンの先輩は力説しながらそんな事を言う。
なので青柳清太は思わず思っていたことを口走ってしまった。
「あの、もしかして先輩は結婚したことを後悔とかしているとか……」
「ん? まぁ、本音で言えばそうなんだがそれでも俺は今は一家の大黒柱だからな。そんな泣き言は言ってられねぇし、家族に知られちゃいけない。それが男の甲斐性ってもんだろ?」
昭和生まれのその先輩はそう言ってグビッとコップのビールを飲み干す。
平成生まれの青柳清太にとってその考えは少し違うように感じるも何となく言いたい事は分かったような気がした。
青柳清太は先輩の空いたコップにビールを注ぐ。
そして言う。
「それでも僕は結婚しますよ」
「おう、男がそう決めたらそれを貫け。それが男ってもんだ!」
そう言って彼らはその晩遅くまで飲み屋で騒ぐのであった。
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