第50話『酒屋にお使いに行く』

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記


050『酒屋にお使いに行く』   





 大きなネコでしたねえ!



 ロコが感心して、佳奈子と真知子は「「え?」」という顔をしている。


 耳もとをピシュって音をたてて何かが過って、いっしゅん安倍さんが暗殺されたときのことがよぎった。


 そして、その直後、プラグスーツみたいなのを着たアイさんがコンマ5秒ほど見えた。手にぶっそうなものを持って駆けて行くところが!


 あ、アイさんっていうのは、滝さんのお店の常連のOLさんで、じつは猫又さん。


 ほとんど一瞬なので、見えたのはロコとわたしだけ。


「マリーアントワネットが飼っていた猫に似ていました。メインクーンという種類で子どもぐらいの大きさがあるんです!」


 1970年にメインクーンが日本にいたかどうかは知らないけど、ネコに見えていたのならドンマイ。




「メグリ、あんた撃たれたんだよ!」




 家に帰って、ピシュって音と、アイさんを見かけたって話をすると「ちょっと調べてくる」といって出て行ったお祖母ちゃんが、30秒後に帰って来て、開口一番言った。


 たった30秒というのは、魔法少女の技で1970年に戻って、たった今帰ってきたから。


 顔やら出した腕が赤く日焼けしてる。こっちでは30秒だけど、向こうでは丸一日以上は居たんだ(^_^;)。


「これが、メグリを撃った弾だよ」


 コロリと無造作に置かれた弾は、ドングリほどの大きさ。


「9ミリ、M9の弾だよ」


「M9て?」


「アメリカとかの軍用拳銃」


「ええ、アメリカに撃たれたの!?」


「違うね、メグリは暗殺されかかったんだ。暗殺者はすぐに足の付くような拳銃は使わない……」


「それよりも、なんでわたしが狙われるわけ!?」


「万博に行って、何かなかったい?」


「ええ……ふつうだった……と思うよ(^_^;)」


「なにか目撃したとか、なにか拾ったとか?」


「ええ……なにも思い浮かばないよぉ(;'∀')」


「旅行に持っていったもの、ぜんぶ持っておいで」


「ええ、全部?」


「全部!」




 着替えとかは全部洗濯してるし、意味ないと思うんだけど、カバンをひっくり返してシワクチャになったレシートとかまで持ってきた。


 


「ううん……特にっていうのは無いねえ」


「でしょ」


「もうちょっと調べてみるかぁ……あ、夕べの浴衣はどうした?」


「洗い方分からないから、部屋に吊ってある」


「後で洗っとくわ、わたしも昭和から帰ってきたところだから……あ、ビール無い」


「え、先週いっぱいあったのに」


「飲んじゃった、メグリ買って来てぇ(^▽^;)」


「ええ、未成年に買いに行かせるぅ?」


「池田酒店ならお使いでいったことあるだろぅ」


「まだ、朝なんですけど」


「向こうじゃ、夕方まで駆けずり回ってたのよ、ほらあ」


 日焼けした腕を突き出されては文句も言えない。


「へいへい」




 お代をもらって自転車に跨る。




 池田酒店は川沿いを下って横っちょに入ったところ。言うのは簡単だけど、距離にして800メートルはある。


 行きは微妙な下り坂で、ほとんど漕がなくてもいけるけど、帰りはビールをのっけて漕がなきゃならない。


 まあ、これも親の代わりの親孝行。


 分かるわよね、うちのお母さんはMSAT(Mars stay acclimatization training=火星順応滞在訓練)というので、四年間の疑似火星環境のドーム暮らしで、わたしが高校を卒業するまで出てこれない。


 坂の途中で高校生たちが下校してくるのとすれ違う。


 そうか、令和の時代は24日ごろから二学期が始まってる。昭和の学校は8月はまるまる休みだからねえ。それに70年の9月1日は土曜だからすぐ日曜だしねえ(^▽^)/


 ちょっとした優越感を糧に池田酒店に到着。


「あ、お祖母ちゃんから電話あったよ」


 店主のおっちゃんは、すでに用意の6本入りを四つ箱に入れて待ってくれていた。


「ゲ、四つも!?」


「悪いねぇ、配達してたら夕方になっちゃうから(^_^;)」


 そうだろうねえ、パートのおばちゃんも辞めて、配達はまとめてってことになってるらしいし。


「おつまみ、サービスで入れといたから(^_^;)」


「あ、どうもすみません」


 サービスはわたしにしてよ……思いながら800メートルの帰り道。


 


 帰り道、半分まで戻って来るとスマホのアラーム。


 なんだろうと開いて見ると警察のアラーム。凶悪犯罪とか起こったのかなあ!?


 タッチすると、不発弾処理が、無事に終わったというお知らせ。


 そうだ、先月の末から、ずっと不発弾処理をやってたんだった。


 うちは、道一つ避難地域から外れていたので関係なかった。避難地域の人たちは、何時間か避難してたんだろうね。


 見に行こうか……いっしゅん思ったけど、めちゃくちゃ暑くなってきたし。大人しく自転車を漕ぐ。




「メグリ、これだよ、これ!」




 今度は家に不発弾?


「ちがうよ、バッチバッチ!」


「え?」


 お祖母ちゃんが、ググっと差し出したのは帯締めに使っていたガガーリンのバッチ!


「ICが入ってる、1970年の技術じゃないよ、これ発信機だよ」




 え、ええ!?




☆彡 主な登場人物


時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生

時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

滝川                志忠屋のマスター

ペコさん              志忠屋のバイト

猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)

宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート

辻本 たみ子            1年5組 副委員長

高峰 秀夫             1年5組 委員長

吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部

横田 真知子            1年5組 リベラル系女子

加藤 高明(10円男)       留年してる同級生

藤田 勲              1年5組の担任

先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀

須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。


   


 

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