第35話『高校生集会とシャンプーと』

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記


035『高校生集会とシャンプーと』   






 正しく漢字でと書くと時司巡なんだけど、初見で読める人はめったにいない。



 じし・じゅん? とき・しじゅん? とか読まれる(^_^;)。


 たまに苗字の方を『ときつかさ』と正確に呼んでくれても、名前は『じゅん』と読まれてしまう。『じゅん』という読み方は男にも女にもあってかっこいいんだけど、正しい読み方じゃないので凹む。


 時司というのはご先祖が朝廷で時間の管理をする役職に就いていたので、遥か昔に役職名が苗字になってる。


 一族の女子は名前が一字。


 お祖母ちゃんは応(こたえ) お母さんは旋(まわり) わたしが巡(めぐり)


 小学校の時、交通安全の指導に来た女性警察官のおねえさんがカッコよかったので、将来は女性警官になろうと思ったことがある。


 でも、時司巡巡査……きっと誤植と思われる。


 で、その日のうちに諦めた。


「ねえ、せめてさ、巡里とか巡梨とかにしたらよかったのに」


「気にすることないじゃない、お祖母ちゃんの同僚で小林って苗字の一佐がいたんだけど。本人も面白がってたよ」


「どうして?」


「だって、小林一茶と同じになっちゃう」


「こばやしいっさ?」


「ほら、俳句読む人、『やせ蛙 まけるな一茶これにあり』とか『雀の子 そこのけそこのけお馬が通る』とか詠んだひと」


「なに、その俳句おもしろーい!」


 お祖母ちゃんは人の気持ちを誘導するのがうまい。


 それからは、友だちは「ときつかささ~ん」ではなくて、だんだん「めぐり」とか「メグ」とか「メグッチ」とか呼んでくれるようになった。ひょっとしたら、お祖母ちゃんが魔法をかけたのかもしれない。


 


 入学して三か月、その呼ばれ方が微妙に変わってきた。


 まあだいたい「メグ」って呼ばれるんだけど、時どき「グッチ」と呼ばれる。「メグッチ」から「メ」が取れたかたち。


「ねえ、グッチ、グッチ」


 最初に「グッチ」を考案したロコが、目を輝かせてわたしの席に寄ってきた。


「真知子さんが……」


 言われて、真知子の席に目をやると「あっちです、でも、ガン見しちゃダメですよ」と注意され目の端で捉えたのは、委員長の高峰君と楽しそうに語り合ってる本邦初公開の真知子のツーショット。どちらも普段はクールな優等生って感じなんだけど、とってもフレンドリーで話が弾んでる。




「高峰君が来てるとは思わなかったわ」


「分科会ハシゴしてたし、ちらっと見えて似た人だなあって思っただけだから」


「私服だったしね」


「横田さんは、ずっと、あの分科会だったんですか?」


「うん、安保とかベトナムとかは重いでしょ、それで、今度はサブカルチャーにしてみたの」


「ぼくは、ああいうのには疎くて、あの賑わいは羨ましかったけどね」


「こんど、高校生集会とは別に鑑賞会とかやろうって話になってるの、ギターとかも持ってくる人いるから、きっと盛り上がる」


「へえ、発展してるんだなあ」


「ほら、今度はね……」


 メモ帳を出して楽しそうに説明する真知子、遠慮しながらも、それを覗き込む高峰君。


 あの近さだと、シャンプーの香りとかモロだよ(^△^;)。


「真知子さんはエメロンですぅ」


「え、メロン?」


「アハハ、エメロンですよエメロン!」


「あ、そかそか(^_^;)」


 適当に合わせる。


 だって、ロコの笑い声が大きいので、真知子も高峰君もこっち向いたし(n*´ω`*n)。




 休み時間に階段の踊り場で、スマホをチェック。


 高校生集会は、意識高い系の高校生たちが集まっていろいろ討論とかお話をする、たぶん、左翼政党系のらしくて、令和の時代でもやってるっぽいけど、よう分からん。


 エメロンはエメロンシャンプーとかリンスとか、昔は絶大的に流行ったらしい。ハニー・ナイツ「ふりむかないで」とかいう歌が出てきて、聴いてみると壮絶に面白い!


 泣いてぇいるのか~笑っているのか~♪ ふりむ~かないで~○○のひ~と~♪


 


 ヤバイ! つぎは水泳だ!




 着替えを持って更衣室へ!


 速攻で着替えたんだけど、点呼に遅れてしまう。


「トキツカサメグリ! グランド一周してこーい!」


「あ、やっぱし……」


 宇賀先生は、正確にわたしの名前を呼んで罰則の水着でグランド一周を命ずる。


 相方組の六組の女子にも遅刻の子が居て、ふたりでグランドを走る。


 校舎の方からも、素通しフェンス越しの道路の方からも視線を感じながら走ったよ。


 六組の子はプロポーション抜群だし、8割は、そっちを見てる。


 令和だったら、ぜったいセクハラ、パワハラ。


 お祖母ちゃんみたいだったら、ステルス魔法で見えなくできる。


 ほんと、走り終わってプールに戻るまで本チャンの魔法少女になろうかと思ったよ。




 昼休み、真知子と高峰君を中心に高校生集会とかの話題で盛り上がる。


 10円男の加藤高明が鼻で笑ってる感じ。唯一爽やかだった髪も伸びてきちゃってさ、ちょっと、感じ悪い。


 こんど、みんなで真知子の言ってる鑑賞会というのにいってみることになる。


 ちょっと楽しみ。


  


彡 主な登場人物


時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生

時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

滝川                志忠屋のマスター

ペコさん              志忠屋のバイト

猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)

宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート

辻本 たみ子            1年5組 副委員長

高峰 秀夫             1年5組 委員長

吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部

横田 真知子            1年5組 リベラル系女子

加藤 高明(10円男)       留年してる同級生

藤田 勲              1年5組の担任

先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀

須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。


 


 

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