第34話『水泳授業始まる』

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記


034『水泳授業始まる』   





 得しちゃった!



 ほら、須之内写真館のアルバイト。


 しばらく仕事は無いんだけど、土曜の放課後、写真館で機材の説明やら取材に行った時のあれこれをレクチャーしてもらった。


 レクチャーだったけど、ちゃんとギャラに反映されるらしい。


 現像室は、なんだか錬金術師のアトリエみたいだったり、夏には万博の取材があるとか、ウキウキ時めく話があるんだけど、それは、また今度。




 今日は、そのウキウキだとか時めくだとかを吹き飛ばしてしまうほど嫌なことがあった。




 今日から水泳の授業が始まる、始まってしまった! 


 ちなみに、水泳は大の苦手。




 制服に憧れて、53年前の宮之森高校に越境入学。


 ちょっと浅はかだったかもしれない。


 校舎は令和の校舎と変わらなかったから油断していた。いや、同じ校舎だからこそ、令和のころよりもピカピカでで、ラッキーとさえ思ったよ。


 でもね、トイレは和式だし、体育はブルマだし。


 今日から始まった水泳はスク水だよ、スク水!


 令和のスク水は、パレオが縫い付けてあったり、膝丈だったり、無駄に肌を露出しないようにできている。


 それが、昭和45年の宮之森は完全無欠の、元祖スク水ですよ!


 ハイレグでこそないけど、股ぐりはパンツ同然。


 せめて水に入るまではジャージを着ていたい、上じゃなくて、下よ、下の方!


「上の方なら始まるまで着ていていい」


 お許しが出たんだけど、上だけ着るとかえってヤラシイ。


「さすが、一年生。遅れてくる者はいなかったけど、万一遅刻したら水着でグラウンド走らせるからね!」


 のっけにカマシテくる宇賀先生。


 ちなみに、普段の体育はイトハチって男の先生。


 伊藤八郎って名前なんだけど、縮めてイトハチ。


 水泳がイトハチなら凹むなあと思っていたら、女の先生。


 体育大学を出たばっかりという新人さんなんだけど、ちょっと怖い。


「じゃ、準備運動から。水泳の準備運動は大切だからね、今日は先生が見本見せる。体育委員も前に出て、先生見ながらやりなさい。次からは体育委員にリードしてもらうからね。さ、みんな上脱いで!」


 率先垂範、宇賀先生は、チャチャッとジャージの上下をパージ!




 おお( ゚Д゚)!




 口にこそ出ないけど、先生のプロポーションに感嘆のため息が漏れる。


 なんというか、体を動かすたびにキュキュっと音がしそうなくらいに引き締まっていらっしゃる。


 


 さて、授業の本番。




「みんなの能力知っておきたいから、これから全員に25メートル泳いでもらいます。泳ぎ方は自由。出席番号順で五人ずつ!」


 飛び込みは禁止、先生のホイッスルでヨーイドン!


 ピ!


 バシャバシャバシャ……


 盛大な水しぶきを上げて出発! 泳法は得意……ではないけど、自分ではマシだと思ってるクロール。


 水しぶきの割には進まなくって、途中で平泳ぎに切り替える(^_^;)。




「時司、こっちこい」




 全員が泳ぎ終わって、わたし一人名指しで呼ばれる。


「途中で泳法変えたのはいいことだ」


 なんだ、良かったんだ(^_^;)


「でも、クロールも平泳ぎも39点」


 ウ、早くも欠点か。


「平泳ぎは泳ぎの基本、時司、そこに横になれ」


「は、はい」


「仰向けじゃない、うつ伏せだ」


「は、はひ!」


 ちょっと恥ずかしい。


「平泳ぎは泳ぎの基本で、そのまた基本は、脚の捌き方だ」


 そう言うと先生は、ムンズとわたしの足首を掴んだ。


「……こういう具合に、水を蹴る! いいか、この時の動きは……向きが悪いなあ」


 すると先生は、足首を引っ張ってみんなの方にお尻を向けさせた!


「いいか、こんな感じ、いち、にい……さん!」


 みんなの視線が下半身に集まる。特に「……さん!」てところで大股開きになって、なんとも恥ずかしい。


 こ、これなら、いっそカエルにでもなった方がマシだ(#'∀'#)。


「足先を外に向けて~~エイ! もう一回、足先を外に向けて~~、ここだよ! エイ!」


 


 オーーーー!




 みんなからどよめきが起こり、何人かからは「え!?」という声も漏れる。


 へ?


 見ると、一瞬、伸ばした手が緑色になって指の股に水かきが現れた。


「うん、一瞬だったけど、ほんとにカエルみたいに水を蹴られたね。いまの忘れずに、がんばってね!」


 次に二組の子が呼ばれてクロールの指導を受けて、もう一度泳ごうかという時に時間になる。





「うん……最後の……キックはよかった……」


 トントンと水抜きジャンプをしながら佳奈子。


「宇賀先生、イメージさせるのがうまいよね!」


 真知子は宇賀先生の信者になりかけてる。


「一瞬カエルになってました!」


 頭を拭きながらロコが目を輝かせる。




 五六人、わたしがカエルに見えたという人が居る。


 わたし自身、一瞬そう見えたし。




「いざという時に力は出せるようにはしてあるんだけどねえ……ひょっとしたら、メグリの魔法少女適性はかなり高いのかもしれないよぉ」


 晩ご飯、水泳の授業のことを話すと、お祖母ちゃんはお箸を持つ手を休めて、見つめてきた。


「あ、いえ、そんなのはいいから、水泳も一学期で終わりだし」


 二学期の水泳は男子の番だ。ちょっと辛抱したら終わりだし。




 お風呂に入って、平泳ぎのことが頭をよぎる。


 お風呂なら、いっしゅんカエルになってもだいじょうぶ。


 でも、家のお風呂で泳ぎの練習なんてできない。




 カエルになることは無かった。


 え!?


 でも、いっしゅんお風呂がプールの大きさになる。


 フルフルと頭を振ると、プールは、すぐに元のお風呂に戻った。


 


 

☆彡 主な登場人物


時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生

時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

滝川                志忠屋のマスター

ペコさん              志忠屋のバイト

猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)

宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート

辻本 たみ子            1年5組 副委員長

高峰 秀夫             1年5組 委員長

吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部

横田 真知子            1年5組 リベラル系女子

加藤 高明(10円男)       留年してる同級生

藤田 勲              1年5組の担任

先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀

須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。


 


 

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