第18話『オリエンテーション』

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記


018『オリエンテーション』   





 和式にビックリしたあくる日は対面式から始まった。


 対面式っていうのは、新入生が二三年生に初めて会って、まあ、挨拶する儀式。



 教室で担任の藤田先生から対面式を含む一日の説明を聞いて体育館へ。


 と、その前に本館前でクラスごとに並ぶ。


 体育館には、すでに二三年生が離任式を終えて待機しているので、その列の中に速やかに整然と入っていくためらしい。離任式っていうのは、この春で退職したり転勤した先生が生徒にお別れを言う儀式。新入生には関係ない。




 わ(*o*)!




 フロアに踏み込んでビックリ。


 モーゼの出エジプト記で海が割れるみたいにフロアが開いている。


 二三年が脇に寄って、その真ん中に一年生が入っていく。


 両側からメッチャ視線を感じる。いや、視線以上、もう圧だね。


 それに狭い!


 一学年8クラスで400人近く、その三倍だから……1200人くらい入ってるんクソ狭い。


―― まるでガクトシュツジンだなあ ――


 男子の中から呟きが漏れる。ガクトシュツジンってなんだ? 格付けクイズのチャンピオン?


 上級生からの視線、大半は男子の二三年から。




『新入生代表挨拶』




 マイクの声で「ハイ」と声が上がって賢そうな男子がステージに上がり、紙に書かれた『挨拶の言葉』を読み上げる。


 なんか、まさに読み上げる。国語の時間に当てられて教科書読んでる感じ。


 ロコの話では、入試で最高得点をとった者がやらされるんだって。


 そう言えば、今朝はロコの顔見てない。チラリと横を見ると三人向こうにロコの横顔。なんか眠そうに視線を落としてる。


 あっという間に終わって、生徒会長が歓迎の言葉。


「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます」


 さすがは生徒会長、紙もメモも読まないでマイクに向かうんだけど、これも印象に残らない。


 話がヘタってだけじゃなく、そもそも、ギューギュー詰めなんで集中力がもちません。


 

 ガラガラガラ シャーー シャーー



 なんかガラガラヘビでも出たのかって音がしたと思ったら、先生がギャラリーに上がって窓とカーテンを開けている。


 とたんに頭のモヤモヤが消える……酸欠だったわけ?




『対面式は、これで終わります。二三年は教室に戻って二限から授業、一年は引き続きオリエンテーションをやります』




 ホォーーーーーーーー(o´д`o)




 明らかに――解放されたあ――的なため息、ため息も二学年分まとまると、ちょっと迫力。


 二三年は出ていったし、窓も開いて爽やかな風も吹きこんでくるんだけど、やっぱり眠い。


「ちょっと、みんなでノビしようか!」


 藤田先生がマイクを通さない地声で提案。


 この切り替えは上手いよ。


 地声が新鮮だし、ノビは効くと思う。


「ウ~~~~~~~~~~~~~~ン」


 背伸びするようにノビをすると、わたしたち生徒もフロアに座ったままノビをする。


 前に立ってる先生たちも「ウ~~~~~~~~~~~~~~ン」とノビをする。




 あ( ゚Д゚)!




 仕事の都合なんだろう、ジャージを着ていた四組担任の花園先生がつま先立ちで精いっぱいノビ。


 で、ジャージの上が上がっておへそが覗いてしまう。


 先生も気づいて、すぐにジャージの上を引き下ろす。もう、顔が真っ赤。


 なんか、そのアタフタが面白くて、四組の生徒たちから笑いが漏れる。


 ああ、四組はいいクラスになるだろうなあ。


 うちの藤田先生はセサミストリートの眉毛でポーカーフェイス。


 こういう時の反射は鈍いみたい。




 それから、いろんな先生が『新入生心得』を基にあれこれレクチャーしてくれる。


 だけど、ちっとも頭に入らない。


 せっかくノビですっきりした脳みそが緩んでくる。


「実際行ってみないと……」


 女子の呟きで目が覚める。


 心得の校内案内図を示しながら担当の先生が説明の真っ最中。


 ああ、確かに習うより慣れだよね。


 フワァ~~


 前で男子がノビしてる。あの頭は留年坊主の加藤だ。


 あいつは、二年目だもんね、学校施設なんて自分ちみたいに知ってるよね。




 で、やっとオリエンテーションも終わって上履きを履いて外に。




 教室に戻るとロコちゃんが頬杖付いて、ちょっとタソガレている。


 そう言えば、今日は、まだ「おはようも」も言っていない。オリエンテーションじゃ俯いてたし。


「どうかした、ロコちゃん?」


「ああ、メグさん、どうしよー!」


「え、なにかアクシデント?」


「アクシデントもアクシデント! マンモス級のアクシデントですよ!」


「え、なになに(^_^;)?」


「ビートルズが分裂したんですよ!」


「あ、え?」


 ビートルズという単語に、すぐにはピンとこない土曜の4月11日だった。




☆彡 主な登場人物


時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生

時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

滝川                志忠屋のマスター

ペコさん              志忠屋のバイト

宮田 博子             1年5組 クラスメート

加藤 高明             留年してる同級生

藤田 勲              1年5組の担任

須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

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