巡(めぐり) 型落ち魔法少女の通学日記

武者走走九郎or大橋むつお

第1話『合格者説明会』

巡(めぐり) 型落ち魔法少女の通学日記


001『合格者説明会』   





 受験番号順に座った合格者に『合格者書類』とプリントされた紙袋が配られる。



 前に座っている子は117番の袋をもらった。


「ハイ」とだけ声が掛かって渡された袋はズシリと重く、119番の番号が打ってある。


 ……118番の子は落ちたんだ。


 張り出された合格者発表は自分の番号しか見てなかったから気づかなかった。


 落ちた子もいるんだ―― 気を引き締めなくちゃ ――と、十五歳の時司巡(ときつかさめぐり)は気を引き締める。



 フフ



 そんなわたしを横に座った若作りが笑う。


 若作りはお祖母ちゃん。


 今年で古希を迎えようかというお祖母ちゃんは、四年前まで魔法少女をやっていた。


 定年は六十歳で、その後は再任用で五年間勤めていた。


 何を隠そう、お祖母ちゃんは、この宮之森高校の卒業生。卒業して五十年以上も経つんだから知り合いがいるわけでもない。だけど、どう見ても三十前後にしか見えないくらいに若作り。


 若作りの理由は、学校への届け出は『母』になっているから。


 お母さんはJAXA(宇宙航空研究開発機構)の職員でNASAに出向している。MSAT(Mars stay acclimatization training=火星順応滞在訓練)というので、四年間の疑似火星環境のドーム暮らしで、わたしが高校を卒業するまで出てこれない。


 それで、詮索されるのも面倒くさいので、自分が母親ということにしてしまった。いちおう魔法少女なんで、細胞レベルで化けているから、人目には本当に若く見えている。実際を知っているわたしは、ちょっと複雑。



 なにもお祖母ちゃんが出た学校だから受けたんじゃない。わたしに合ったレベルだったし、なにより、校舎と制服が気に入った。


 校舎の半分以上は昭和三十年に出来たもので三階までしかない。校舎の中にエレベーターとかは趣味じゃない。


 程よい規模というのがいいんだ。そのぶん、敷地は広めでゆったりしてるしね。


 家に例えたら、百坪くらいの敷地の平屋建て。SAOのキリト君の家みたいな、そんな感じ。



 創立以来の制服は、男子が普通の詰襟。女子は、昭和の雰囲気のツーピース。


 一見地味。紺の上着とスカート。


 上着を脱ぐと、一見ジャンパースカート。


 だけど、腰から上のパーツはボタン付で取り外しがきいて、外せば冬寄りの合服、ジャンスカだけになれば夏寄りの合服。スカートとブラウスだけにすれば夏服と無駄が無い。


 それに胸元。


 今どきのリボンじゃなくてボータイなんだ。スッキリしている。


 リボンというのは、通学服としては装飾過剰だと思う。それに、付属の紐はブラのストラップと同じだからね、無神経だと思うよ。


 そういう機能美とスッキリ感が好きなんだ。



 あらあ



 若作りが声を上げた、人より地声が大きいので、ちょっと恥ずかしい。


「どうしたの?」


 ちょっと咎めるような口調になる。


「今年度から、制服改定だって!」


「え!?」


 見せられたパンフには、新制服を着た男女がにこやかな笑顔で写っている。


 男子のは襟の角が丸くなったグレーの詰襟。


 女子はグレーのツーピース。上着の丈が短くなって、ボタンは横に二個。


 スカート右前の襞にMIYANOMORIのロゴが入って、オシャレのつもりなんだろうけど、趣味じゃない! 


 それに、胸元はアニメの学校かというくらいにデッカイリボンだよ!


 肩には大仰にパットが入っていて、シルエットが硬くて、グレーの生地と相まって、まるで歩く墓石!


 ボトムは、プリーツ、フレア、パンツと無駄に選択制だし!


 ハハ


 お祖母ちゃんは軽く笑って、孫のわき腹を小突く。



 ピーーーーン



 ハウリングの嫌な音が響いたかと思うと、演壇に無駄に髪の毛の豊かなオッサンが現れて「みなさん、合格おめでとうございます!」と白い歯をむき出して挨拶して、クソな笑顔で説明を始めた。



 こんな学校イヤだあ!!


 

☆彡 主な登場人物


時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生

時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女



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