99人に告白した僕とその彼に告白された私

アニ野祭 ナリハル

99人に告白した僕とその彼に告白された私

「キモッ! バカにしないで!!」


 賑やかなファミリーレストランで一際目立つ怒号が響き、気付いたら僕は全身ずぶ濡れになっていた。

 それと同時に物凄いヒールの足音を奏でて、僕の前を去っていく美女。


 僕にとって、ずぶ濡れになることは大した問題では無かった。


 それより、お気に入りだった白色の、幼児向け魔法少女のキャラクタープリントTシャツが、浴びせられたオレンジジュースにより、変色してしまったことのほうがショックだった。



 ……はぁ……。 



 結果は分かっていたけど、またフラれてしまった。


 自慢ではないが、今のオレンジジュースを浴びせてくれた女性でフラれたのは記念すべき99人目だ。

 そう。

 99人に告白をして、99回フラれたということになる。

 次が記念すべき100人目の女性に。


 でも99人目がなぜ記念すべき人数になるだって?


 僕にとって言わせれば毎回の告白が記念すべき告白だ。

「気になった女性には分けへだてなく真剣に全力で告白をする」それが僕の流儀であり生き様だからだ。


 とは言え店員さん含めて、周囲から熱い視線を浴びて何やら騒がられている。



 早く別の場所に移動をしよう……。 


 そう思っていた僕のスマホにメッセージが入った。 



 僕はすぐにファミレスを後にして、そのメッセージに指定された行きつけの漫画喫茶へと向かった。



「……んもう、遅いって……。 ……ってまた何その格好……」


 冷ややかな眼差しを送ってくるのは、僕の唯一ゆいいつの親友であり、僕の唯一の理解者である。――少なくとも僕はそう思っている。



 そんなと知り合ったのは僕が高校生の時だった。


「このデブ頭おかしいんじゃね? よくも俺の彼女に告白してくれたな! お前なんかに告白されるとけがれるんだよ!! ほら、しっかりと顔を上げろよ! お前のその汚い顔をもっと汚してやるからよ~!」


 僕は人生で記念すべき50人目の告白をした。


 結果は彼氏がいたみたいで、彼氏に直ぐに告げ口をされて、その彼氏に校舎裏でボッコボコにやられ、全身傷だらけの泥だらけで横たわっていた。


「何やってるの?」



 そんな動けない僕にどこからかと、可愛らしくもあり、冷ややかな声が僕の耳に響いた。


 朦朧もうろうとする意識の中、僕はこう答えたはずだ。


「……50人目に……告白したけど……フラれ……ちゃった……」


 その後、気付いたら保健室のベッドに横たわっていた。


 保険の先生の話しによると、とある女子生徒に頼まれ、女子生徒と保険の先生の二人がかりで抱えて、僕を保険室まで運んでくれたようだ。


 僕の体重の重さの影響もあり、かなり苦労をして……。

 僕は必死に保険の先生に迷惑を掛けた謝罪を行い、翌日その助けてくれた女子生徒にも謝罪をしに教室に行った。


「ちょっと来て!」


 教えてもらった女子生徒の名前を、僕なりに頑張って声を張って叫び、探しだそうとした。

 すると突然、黒髪のおさげのメガネ女子に強く手首を掴まれて引っ張られ、そのまま人気のない、前に僕が横たわっていた校舎裏まで連れて行かれた。


「……もう。あんなに大声で私の名前を呼ばないで」


 彼女は呆れた口調でこう言った。


 冷静に考えれば自分の名前をこんなみにくい体をした僕が叫んでいたら迷惑するのは当然の話しだ。


「……騒いじゃってごめん。 この前、迷惑掛けたことを謝りたいと思って…… でもこうしてちゃんと見つけられてよかった」


 僕は安堵あんどした表情を浮かべていた。


「あぁ……。 あの時の……。 別にそんなの気にしなくていいよ」


 彼女が明らかな素っ気ない態度を取るものだから

 僕のテンションも下がってきていた。


 ここだけの話し…… 

――僕の好みは明るくて元気のある女性だ。

 これまで告白をしてきた女性の性格もそうだった。


 それに引き換え彼女は元気がなく、全体的に暗く僕の好みとは正反対の女性だった。


 とはいえ、助けてくれたのには、変わりはないので僕は誠心誠意、彼女に謝罪を行い、自分の教室に戻ろうとした。


「……どうしてあんなに傷つけられても告白するの?」


 彼女は戻ろうとしている僕を呼び止めてこう言った。


「だってこんなデブで、メガネ掛けてて、汗臭くて、オタクな僕が好きな人を待っていたって誰も近寄ってくれないから。 自分から行って少しでも彼女が出来る可能性を高めたいんだ」


 僕は振り返り、彼女に対して右手の親指を立てて言った。


「……あなたってどうしようもないね」


 この時、僕は初めて告白もしていない、好きでもない女性に面と向かって非難された。


 ……そして。


 その直後になぜだか彼女からメッセージアプリの交換をしないかと誘われ、その場でアプリをインストールして交換をしてもらった。

 もちろんこれが人生で初めての女性の連絡手段を手に入れた瞬間だった。



 そうして彼女と何度かやり取りをしていくうちに

 彼女が僕と連絡のやり取りをする気になった理由が判明した。


 彼女は僕に負けないぐらいのオタクであり、腐女子でもある痛い女の子であったのだ。


 そんな彼女も親友や友達と呼べる存在はいなかったようで、僕のようなみにくい見た目をした男にも動じることなく受け入れてくれたようだ。

 やがて、いつしか漫画喫茶でお互いの趣味を共有するようになり今に至る。



「それで思いきって告白したのにさ、オレンジジュースをぶっかけられて…… この有り様ってわけ」


 いつものように漫画喫茶の個室を借りて、二人でコミックを読みながら僕のフラれ話しを聞いてもらう。


 僕たちのいつもの変わりのない日常がこの日も続いていた。


「相変わらずよくやるね~ 私と初めて会った時も誰かに殴られてボロボロになってたよね?」


 彼女はあの頃と違って、気さくに話し掛けてくれるようにはなった。


 それに容姿も出会ったあの頃と違い、今はおさげではなくなり、メガネも外してコンタクトを入れ、少し化粧なんかもして、大人っぽい容姿に変貌しているけれど、相変わらず僕好みの明るくて元気な雰囲気とは程遠かった。


 ……けれどこんな僕を受け入れてくれている。


 それだけでもとても有り難く、一緒にいて心地のよい存在であるのは間違いなかった。


「告白した相手に彼氏居たみたいでさ…… 


 それで告白した後にすぐ、その彼氏に言われてボッコボコに……」


「それはちゃんと確認しないのが悪いね~ 

 あの時で50人だっけ? 

 それだけ告白していたら彼氏のいるか、いないかの判断ぐらいつくでしょ」


 彼女は決して僕に対して忖度そんたくするなどの気遣いはしないし、必要以上に僕を否定することもしない。


 常に中立の立場で意見を言ってくれる。

 僕にとって本当に貴重な存在だ。


「あれがちょうど50人目だったね。 

 あとそれ以降もさぁ~ お父さんや、お母さん、お兄ちゃんとかの家族が出てきたり、酷い時は警察に付き出された時もあったねぇ……

 番犬にも追いかけられた時も――」


 僕はいつものようにお茶らけて話していた。

 彼女もいつものように「クスクス」と笑って、呆れたツッコミを入れてくれるとそんな風に思っていた。


「そう言えばそんなこと言ってたね……。 

 番犬はともかく流石に警察沙汰になった時は私、もう会えないかなと思ったかな」


 彼女は手に持って読んでいたコミックを置いて、僕に寄り添ってきた。


 こうやって寄り添ってくるのは今に始まった事でもない。


 いつもよくコミックを片手に、美少女キャラしか興味のない僕にBL作品などを布教しようとしてくる時だけは、ベッタリとくっついてくる。


 でも、今日はコミックをすでに手放していた。


「……ねぇ。 今日で告白したの何人目だったの?」


 このいつもの漫画喫茶の個室が、いつもと違う雰囲気で僕達を包み込んでいた。


「……きゅう……99人目だよ~ 後一人で記念すべき100人目! 

 まぁいつも言ってるけど僕にとっては毎回記念すべき告白だけどねぇ……。 

 てかそんなに近付くと汗臭いよ。

 こんなにくっ付かれると余計に汗かくし……」


 僕はこの何とも言えない雰囲気に呑まれないようにと必死だった。


 真横を向けば彼女の粒羅な瞳が僕を見詰めており、今にでも吸い込まれそうな程に綺麗な瞳だった。


 それにおさげではなくなり、振りほどかれていた真っ直ぐで長い黒髪からは、シャンプーの臭いであろう、とても心地よい香りが僕の鼻に漂ってくる。

 そんな僕の心境を知ってか知らずか、彼女は僕を「じっ」と見つめたまま、右耳に髪を掛けた。


 高校生から彼女と一緒にいるが、こんな雰囲気をかもし出す女性であったろうか。

 今までに感じたことのない彼女の女性としての雰囲気。

 例えるならまるで発情したメスのようだった。




「もう、汗なんてどうでもいいの。 それより毎回記念すべき告白って……。 一体いつまでこんなこと続けるの?」


 この時点で僕の汗臭さなんて彼女には全く効果がなかった。

 今まで大勢の人から非難されてきた臭いが効かないとは。


 ……そうか。


 彼女は一緒に居すぎて僕の臭いに慣れてしまっているんだ。

 そう思い彼女にこのことを伝えてみた。


「慣れてなんかないよ。 今でも鼻が曲がりそうなほど臭い」


 彼女はいつものように忖度そんたくすることなくハッキリと答えてくれた。


「そんなに…?」


 正直言って、普段からよく一緒にいる人からこんなにハッキリと言われると少しばかりは傷つく。


「もう! だから汗臭いのなんてどうでも良いから質問に答えて!」


 彼女は睨めつけるように僕を「じっ」と強い眼差しで見つめ、さりげなく僕の右手を掴んできた。


 僕は驚き咄嗟とっさに体が「ビクッ」と反応してしまった。


 彼女の手は小さく柔らかく肌触りのよい手だった。

 こうして彼女に手を握られたのは初めてだと思う。

 こうして手を掴まれてじっと見つめられると、彼女が思ってた以上に可愛らしかったのだと改めて実感する。

 さらに同時に鼓動がこれまでにも増して異常なまでに高鳴っていくのが感じられた。


「……い……いつまでって……そりゃ、告白が成功するまでだよ」


 僕の横でぺたん座りをして、右手を握っている彼女の視線を反らして必死に答えた。


「……そう。 

 だったら告白する確率が上がるように練習してみない?」


「……えっ、練習?」


 もちろん告白の練習なんて初めてのことだ。



「うん。 

 私が告白をされて感じたことをいつも通り、忖度そんたくなしで伝えるから、それを参考にすれば成功する確率が上がるんじゃない?」


 彼女の意見は恋愛以外で多数聞いていたが、どれも正しく正確でこれまで幾度ともなく僕の人生の参考にしてきた。


 そんな彼女が、僕の告白を見てくれるというのなら、願ってもないことであり「今後告白をするにも役立つ事があるかもしれない……」と思い彼女の提案を受け入れることにした。


 もちろん練習であろうともやるからには全力でやる。

 それは『僕の流儀であり、生き様だ。』


 これまで生きてきた中で一番体が濡れている。

 体のありとあらゆる穴から汗が飛び出てくる。

 これまでに感じたことのない感覚が全身に漂(ただよ)う。


 ハッキリと言おう。


 人生、これまでの99人への告白と比べても今回が一番緊張している。

 いや、ハッキリとは覚えていないが…… 

 これに近いのは初めて告白をした1回目の告白に近いのかも知れない……。

 あの頃のように…… 何をどうしていいのか分からない。

 彼女に対してはそんな感覚だった。

 思えば、こんなに彼女と近くで向かいあったことがあったことか……。

 彼女はこんなに魅力的な女性だったのだろうか……。


 僕はこれまで出会ってきた女性や告白してきた女性の誰よりも、彼女と一番長く居た。

 ……いや……。

 ……長く一緒に居ただけじゃない。

 今はこれまで出会ってきたどの女性よりも魅力的で、素敵な女性に彼女が見えている。


 僕は大きくつばを呑み込んだ。



 そして……。


「……高校での助けてくれたあの日。 


 あの時……。 


 ……あなたに助けられたお陰で……


 今。


 こうして、この時まで……


 あなたと一緒に素敵な時間を過ごせました。


 僕のこれまでの99人への告白は、あなたに告白をする為だったんだと今はハッキリとそう思います。


 僕は『101人目』に告白をすることはありません。


 こんな僕ですが…… 


 これからも一緒に側にいてください。


 よろしくお願いします」



 僕は両目から涙を流しながら彼女を見つめていた。


 驚いた僕は慌てて彼女から視線を外し、涙をぬぐった。


 彼女からすれば、涙なのか汗なのか区別がつかないだろう。


 いくら練習だとは言え、告白し終わって少し冷静になれば、よくこんな臭いセリフをスラスラと言えたものだと思う。


 ドラマに出てくるイケメンの役者が言うのなら、まだしもこんなみにくい汗まみれのオタクのブタが言ったって、彼女に響くはずがない。


 体温が上がり、顔をつたって耳まで真っ赤になっているのが自分で感じられた。

 彼女の目には汗まみれのブタにしか映ってないんだろう……。


 そう思い、彼女からいつものように忖度のない鋭いダメ出しを受けようと、恐る恐る彼女を見つめた。


 ……すると。


 ……そんな彼女の左目からは涙が溢れ出て、一粒の雫が頬をつたって流れ落ちていた。


「……こんな私でよければ……。 

 ……こちらこそ……お願いします……」


 彼女の短い言葉を聞き終わるのに、かなりの長い時間が経った気がした。

 それだけ僕にもじっくりと響きわたる、心地よい初めての受け入れてもらえた返事。


 ……そして。


 その世損に浸っている間もなく……。


 僕の唇に初めての柔い感触が全身のありとあらゆる神経を駆け巡った。


 そんな初めての感触を全身で感じつつ……うっすらと目を開けると……。


 彼女の閉じられた睫毛まつげの長いまぶたに、とてもつややかな長い黒髪が目の前で揺れていた。


 僕は心の底から思っていた。


 今まで99人に告白して何度もフラれて、その度(たび)に痛い目にあってきた。


 でも……。


 諦めずに告白を続けてきて本当に良かった。


 これまでの告白は何一つ無駄ではなかった。


 人間はやらなくて待っているだけではいけない。


 駄目もとでもやってみること。


 行動してみることに意味があるんだと。


 僕は今、この瞬間。


 これまで過ごした彼女との時間。



 そしてこれから先の彼女と過ごして行く時間の為に生まれてきたのだと。













 私は99人にフラれた彼に告白をされた。


 汗まみれで、鼻が曲がるほど臭くて……。


 見た目はデブでブタのよう。


 それにメガネ掛けていて趣味はオタクで…… 

 ――まぁそれは私もなんだけど……。


 男として何一つ良いところがない。


 極めつけは、告白する場所がマン喫で、フラれた相手に浴びせられたオレンジジュースを染み込ませた、幼児向けの魔法少女のTシャツを着てって……。


 笑えないし、こんな告白をされたなんて誰にも言えるわけがない。



 そんなあり得ないくらいのクソ男に初めて出逢ったのはの時だった。




 私は今の姿からは想像も出来ない程に、明るく活発な幼児期だった。

 その日もジャングルジムの一番上に登って、男の子達とはしゃいでいた。


 そんな時だった……。



「キャッ!!」


 運悪く前日に雨が降っており滑りやすくなっていたようで、転落。

両足を骨折して座り込んでしまった。


 そしてすぐに、一緒に登っていた男の子は私の様子を気にしつつ、先生を呼びに行ってくれた。



 ……けれど。



 その時……私は心細かった。


 ……何よりも誰かに側に居て欲しかった。


 幼い私にとって経験したことのない足の痛みや、自由に動けないもどかしさ、一人で居るという寂しさが相まって、溜まったマグマが噴火するかのように、瞬く間にまぶたから涙を溢れだし、大声で泣き叫んだ。


 今思えば、そんな私を誰かに早く見つけて欲しかったのかも知れない。


「なにやってるの?」


 そう言って、能天気なデブがたまたま私の近くを通りかかり、あっけらかんに声を掛けてきたのだ。


 私は彼に情けない姿を見せてははいけないと、幼いながらに瞬時に感じ取り、すぐに泣き止んだ。


「……あんたみてわかんないの? あしがいたくてうごけないの。 なんとかしてよ」


 私はデブに弱みを見せないようにと強気に言い放った。


「――うん。わかった」


 彼は瞬時に私に近寄り、彼の背中に私を背負わた。


 彼はデブだったのが幸いしたのか、私を背負っても動じることなく先生のもとまで連れて行ってくれた。


 その頃から彼の背中は汗でびちょびちょで臭かった。

 彼の背中に背負ってもらっている間は、早く誰かのもとまで連れて行って降ろして欲しいと何度も思い、表情が大きくゆがんでいたに違いない。



 ……だから、今でも彼の臭いをげば思い出す。

 あの時の事を……。



 それから彼とはなぜか息が合い、遊ぶ機会が自然と増えていった。



 そして月日が流れ……。

 幼稚園の卒園式の日。



「ぼくとつきあってください!」



 汗まみれの彼が私に告白をしてきた。


「ごめんなさい!」



 私はキッパリと断った。



 でも私は彼の見た目の割には、彼のことが嫌いではなかった。


 むしろ私の辛くどうしようもできなかった時に助けてくれた。


 見た目はどうであれ、私の唯一無二ゆいいつむにの王子様であり……


 ……私の。



 でもあった。



 ならなぜ、そんな彼の告白を断ったかと言うと、彼がみんなの前で告白をしてきたからだ。

 いくら卒園式で離れ離れになる同級生が多かろうと、彼のような目立つ見た目をした人の告白を受け入れるわけにはいかなかった。


 もちろん、単純に恥ずかしかったというのもある。

 色々な事情が重なり、私は彼の初めての告白を断った。


 ただ、私も好きな人からの告白を断ったことが心に響かなかったわけではない。

 憧れの王子様の告白を断るなんて、こんなに損した気分になることは他にない。


 だから私はみんなが居ない場所に、彼を呼び出しチャンスを与えた。


「あなたはでぶでくさいから、これからもふられるとおもう。 それでもあきらめずにこくはくしつづければ、きっといつかせいこうするはず。 


 ……でも100人にこくはくしてだめだったら……。


 そのときは、わたしにこくはくすること。

 さすがにかわいそうだからあなたのきもちをうけいれてあげる」


 そう言って彼の汗まみれのほほにキスをした。


 少ししょっぱい味がした。

 これも今でも何となく覚えている。



 我ながらおませな幼児期であったと思う。



 それからというもの、彼はバカだから誰に言われたか覚えてはいないのに……。


 私の言い付けを守り告白し続け、50人目の告白でめでたく?

 私と運命的に再会をする。


 正直いうと、あの時は本当にビックリした。


 最初はボロボロになって横たわっている彼が、動けず何も出来ずただひたすらに、孤独で泣き叫んでいた自分と重ねてしまい彼に近づいてしまった。


『……50人目に……告白したけど……フラれ……ちゃった……』


 まさか……

 ……あの時の彼が。

 幼児期の私が言ったことを未だに実行しているとは、この時まで想像もしなかったから。


 私はバカみたいな……――いや、バカな彼に借りを返そうと保険の先生を呼び、ブタのように思い体を必死になって保健室に運んであの時の仮は無事に返せた。


 でも……。


 よく考えたら彼があんなに必死になって告白し続けてるのは、幼い私のせいでもある。


 そう考えると放っておくわけにもいかず……。

 ――臭かったけど……。


 彼と連絡交換をして、何とか告白をするのをやめさせようと話しを聞いたりしているうちに、意外と私の趣味と彼の趣味が近いことにも気付いて居心地がよくなってきた。


 臭いや見た目には我慢が必要ではあったけど……。


 やっぱり私のの相手だもん。


 そりゃ彼に惹かれるの当然よね……。


 なのに彼ったら私と会ってる間も、他の女に告白をしたことばっかり話してくる。


 そんな話しを何度も何度も聞かされ続けると……。


 自然にこう思うよね。


「そんなに色んな人に告白するのに、どうして私には告白してくれないの?」って。


 いつしか私のことを、彼にもう一度惚れさせようって感情が芽生えた。


 私は彼の見えないところで必死に頑張った。


 彼好みの姿になろうと、メガネからコンタクトに変えて、髪型も変えて、色はあえて彼が好みだという黒髪のままにして、一度も染めなかった。


 服装も変えた。

 彼の好きな明るく元気な女性をイメージして……。

 でも私らしさの清潔感も残して。


 自分で言うのもなんだけど……

 そうしているうちに学生時代よりは良い女になれたはず。

 彼が告白する女性にも負けていないと自信もあった。

 彼には言ってないけど何人か告白されたけどキッパリと断っていたし。


 でも彼は私には告白してくれなかった。


 彼はバカだ。

 こんな魅力的な私に告白しないこと?

 違う。


 告白をして警察沙汰になるなんて。


 なぜ、そんな危ない目にあってまで告白をし続けるの?

 私に告白をしてくれたなら、そんな酷いことにはならないのに……。

 下手すれば私とも会えなくなるのに…。

 ……いや、違う。


 私が彼に会えなくなるのが辛いんだ。


 私には彼が側に居ないとダメなんだ。


 あの幼稚園で助けてくれた時みたいに……。



 今ならどんな時でも彼の事を全て受け入れられる。


 彼のダメなところ、臭いところ、汚いところ、バカなところも全て……。



 そんな私もバカだ。

 世間一般からすれば、どうして彼にそこまで必死になるのか……。

 そう言われるだろう。


 私自身もそう思う時がある。

 でも、そう一筋縄では気持ちは語れない。

 私は彼に初めての「好き」という気持ちを持っていかれて、その後も運命的に再会してしまい、彼と居ることの居心地さ。

 彼が、他の女性に目を惹かれていることの辛さを知ってしまった。

 彼の見た目や趣味がどうであれ、これが私の真実だった。



 彼といる時間、彼のフラれた話しを聞いてる間もずっと考えていた、不思議だった私の中の恋というものの存在の答えが、ようやく見つかった瞬間だった。



 そして……その日が来たのだ。



 私はマン喫に呼び出した、彼のずぶ濡れをした姿を見て、我慢出来なくなった。


 これ以上私の愛する彼が他の女にけなされるのを、黙って見ていられなかった。


 彼にずぶ濡れになった経緯けいいを聞くと、彼は99人目の女性に告白を行い、フラれた挙げ句、激昂げきこうされ、ずぶ濡れになったと。


 だったら、約束の100人目の告白は私しか居ないに決まっている

 ――そう思ったものの、バカな彼はあの頃話したことなんて覚えているわけもない。


 私のことをただの友人だとしか思っていないんだから。


 私はそう思いながらも、彼に何とかして私の魅力を気付いて欲しいと、いつもより彼に近づいたり、声のトーンを下げてみたり、彼を見つめてみたり、髪を揺らしてみたり、恥ずかしくてたまらなかったけど…… 手なんか握ってみたりとアピールをしてみた。


 アピールが成功しているのか、彼はいつも以上に汗臭く動揺しているように感じてはいたけど、何かきっかけがないと彼は動いてくれない……。


 ……そう思い、彼から告白させる為に練習と題して、軽いノリで告白をさせる方法を使おうと。


 私はこのとき思っていた。


 彼から心がこもっていない告白が来ようとも受け入れて、強引にでも彼に私の想いを伝えようと。

 そう思っていた。


 ……だって、練習であっても彼の100番目の告白に代わりはないんだから。


 だけど……。




 彼は涙ながらに私に告白してくれた。

 いつも全力で告白をする彼だとしても、一切の演技はなく自然な形で……。


 正直、見た目のカッコ良さは一ミリもなかった。


 でも……。


 私が長年求めていた告白はこれだった。

 私は彼からのの告白をこれまで待ち望んでいたからだ。



 あの、幼い私が言ったことを……。


 100人を……。


 彼はようやく達成してとして告白をしてくれた私の元に戻ってきてくれた。


 これまでに誰一人、告白を受け入れてもらえる人が現れず……


 私はこんなダメで、汚くて、臭くて、ブタな、98人の女性が受け入れなかった、そんな彼を遂に受け入れた。

 彼の魅力なんて私にも分からない……。


 でも私自身、彼を欲していた。


 そんな私の左目からは嬉しすぎて涙が溜めきれなくなって溢れ出てきていた。



 私は普通に丁寧に返事をした。

 今度は間違えることなく……しっかりと。


 そして……。



 今度は彼の頬ではなく……




 ……ちゃんと唇に。





 私の初恋がこの時ようやく実った瞬間だった。


 彼はバカだから知らない。


 私の初恋が彼であることを。


 彼はよく言っていた。


 告白する度に記念すべき告白だと。


 だったら、彼は記念すべき『第一回目の告白』をなぜ覚えていない?


 他のどの告白より覚えておくべきではないかと、私は彼の話しを聞きながら毎回思い「モヤモヤ」としていた。


 でも、私は彼に第一回目の告白の状況を伝えるつもりはない。


 だって恥ずかしいもん。


 彼が自力で思い出すまでは……。


 まぁ、たぶんバカな彼は思い出さないと思うけどね。







「あっ、そうそう。 引っ越しの整理してたら幼稚園の時のアルバム出てきたんだけどさ~ もしかしてこれって君じゃない?」


「わっ、本当だ。 おんなじ幼稚園だったんだね」


「こんな偶然あるんだね~ 

 ってことは僕達この頃から会ってたのかな? 

 ねぇ、覚えてる?」


「さぁ? どうだったんだろ? 

 今のところ何にも思い出さないかな」


「……だよね。 


 もしかしたら僕の《《一人目》》の告白って……。



 ……そんな偶然あるわけないよね」




 私はこの記憶を墓場まで持っていく。

 もちろん彼と墓場までね。

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