第2話 異世界で会談
「目覚めても、顔を洗っても、異世界だ」
朝からしょうもない俳句を詠んでいる場合ではない。今日から各種族との会談が始まるのだ。
何もしなければ死ぬんだし頑張るしかない……現状、単純計算だと生存率は30%程度。これを1%でも上げる努力をしなければならない訳だが、どうしたものか。
ルーナ曰く種族によって戦い方に特徴があるらしく、人間族は数、獣人族は強靭な肉体、魔族は上級魔術が強力な武器となっているらしい。
普通に考えれば同じ人間同士と組みたい。でも、アレック王は嫌い、となればやっぱり……熟女か?
魔族と言っても見た目は人間だし、獣人族より常識は通じそうだよな。
「よし、魔族狙いで行くか!」
「あら?もうお決めになるのですか?」
独り言のはずが、背後からの呟きに慌てふためきながらベットから転げ落ちた。
「ル、ルーナさん!?いつのからそこに!?」
クスッと笑いながら手を差し伸べてくれるルーナ。
「少し前からです。驚かせてしまいましたか?さぁ朝食に致しましょう」
彼女は多分俺を道具として見ていない。1人の人間として接してくれているのだ。それだけ、ただそれだけの事なのに……好きになってもいいですか?
―――――――――――――――――――――――
朝食を終えた俺達3人は各種族の長と会談するため空を移動できる「空舟」と呼ばれるアーティファクトへ乗り込みルーナからスケジュールを聞かされた。
「最初の訪問先は獣人族の領土であるガスト都市」
ガスト都市って。自分大好き人間…獣人なんだな。
「次に魔族領土であるシルバーニア都市」
おい。ギリギリだぞ?
「最後に先程まで我々が滞在していた人間族の領土であり現国王が君臨される大都市ブルストルです」
……物足りないな。
「あの、質問いいですか?」
説明を聞いていたJKちゃんが低く手を上げるとルーナは頷いて答える。
「もし、一緒に戦いたいと思ったらどうすればいいんでしょうか?」
泣いてばかりいた昨日とはまるで別人だ。彼女も必死に生き残る方法を探している。うかうかしていられないな。
「協力関係の決定については私に仰ってください。7日後に関係者に情報を開示します。もし協力先が被ってしまった場合、決定権は皆様から種族の長に移る事になりますので注意ください」
全員が1番人気を選んだ場合、向こうの対応次第で3番人気に振られることも十分にありえるってわけか。
なら、初めから2番人気を選んだ方がいいのか?色々なパターンを考えながら行動しないとな取り返しがつかなくなるな。
「後少しでガスト都市に入りますが、他に質問はありませんか?」
ルーナの問い掛けに真っ先に反応したのは無精髭のおっさんだった。
「あんたはどこが勝つと思う?率直な意見を聞かせてくれ」
おっさん踏み込んだな。
「それはわかりません。これが答えです」
本心からか、隠す必要があるのか。そもそもルーナさんって何者なんだろう。当たり前のように接しているけど、アレック王の隣にいるってことはめちゃくちゃ偉い人なのでは?
「少しだけでいいんだ。ヒントをくれ!俺は生き残りたいんだ!」
JKちゃんと比べてこの人は悪い意味で別人だな。必死過ぎて冷静さを失っているように見えるし、これじゃ昨日の悪態をついていた態度の方がまだ良いように思う。
「ヒント、になるかは分かりませんが…私なら保有アビリティとの相性を考えますね」
「永久ノ誓」はどの種族とも相性はいいと思うけど、2人のアビリティを聞いておくべきか?
やめておこう。
逆の立場だったら話した事もない相手、しかも正気かどうかも怪しい人間に素直に答える訳がない。
そもそも…俺自身は正気なだろうか。
一瞬頭を過った考えを払拭し会談での立ち回り方を懸命に考える事にした。
――――――――――――――――――――
ガスト都市は一言で言えば要塞だった。
森の中に大きな城。しかし、景観を損なわないように材料のほとんどが木で造られており自然との共存を大切にしている事が見て取れる。
城の前に方舟を降ろし駆け寄ってきた獣人とルーナさんが数回言葉を交わした後、すぐに城内へと通された。
正直、ガスト都市が最初でよかった。経験上、頭が回る奴との会話には必ず裏がある。
おそらくガストは脳筋。変な駆け引きはないだろうしある意味やりやすい。
逆にアレック王との会談は細心の注意が必要だ。あれはには絶対に裏がある。
案内された部屋に入るとガストが満面の笑みで手を振り迎え入れてくれた。
堅苦しい感じを想像していただけにこのフレンドリー対応はうれしい誤算だ。
脳筋とか言ってごめんなさい。
「改めて自己紹介しよう。俺は獣人族の長ガストだ。よろしくな」
大きい。身体が大きいという意味ではなくオーラが凄い。
紺色の髪には一部白い所があり、身体は鋼のような筋肉を纏っている。
彼が味方ならきっと大丈夫。そう思える程の圧倒的なカリスマ性が彼には備わっている。
「本題に入る前に、俺は回りくどい話が嫌いだ。だから腹を割って話をしたいと思ってる。お前らも聞きたい事があれば気を遣わず聞いてくれ」
おいおい。めっちゃいい奴じゃないか!獣人族ありだ!
「まずは、獣人族の英雄候補になった時のメリットの話だが衣食住には困らせない。以上だ」
大切な事だ、でもそれだけ?他の2人もちょっと拍子抜けしてるみたいだけど。
「次に英雄王となった場合、王の座に座らせてやる」
ガストの発言にルーナさんは度肝を抜かれた様子で目を見開いた。
「それは、3人の誰かが王になれるって意味ですか?」
理解できなかった訳じゃない、JKちゃんは本当にそれでいいのか確認しているんだろう。
「その通りだ。人間族や魔族に好きに命令していい。ただし、獣人族には手を出さない。対等な関係ってのが条件だ」
破格の提案。これは全員獣人族と手を結ぶ事を望むんじゃないか?
「王様に…信じて良いんですよね?」
「あぁ、必ず守ると誓おう。お前らも約束は守れよ?」
獣人族と作る世界か…悪くない!ガストさんとなら良い関係を築けそうな気がする。
「質問がなければ以上で話は終わりだ。最後に、俺が欲しいのはお前だという事を伝えておこう」
アビリティを見ての判断だろうが、まさか逆指名を貰えるとは思わなかった。
幸先の良過ぎるスタートだな。
その後、特に質問もなくガストとの会談は終了。
――――――――――――――――――――
シルバーニアは想像していた暗い雰囲気は一切なく、活気あふれる賑やかな都市だった。
街並みも人間族と同じヨーロッパ風の建物が並び遜色がない。が、やはり魔族。
行き交う住民達の中には凶悪な見た目の者も多く、油断はできない。
そんな街並みの中に一際存在感のある洋館がイリスの城だ。
先程のガスト都市と同じく城内に案内され今現在イリスと対面している。
ちなみにここに来るまでの道中は地獄だった。
逆指名を受け気持ちが楽になったのはいいが、2人からは鋭い眼差しを向けられ、ルーナさんも黙っちゃうし空気は最悪。はぁ〜胃が痛い。
「こんにちは、英雄候補の皆様。魔族の長を務めさせていただいているイリスと申します」
青色の長い髪に赤い瞳。
大胆に開いた胸元もエロいが、少し疲れた目元が凄くエロいと思うのは俺だけだろうか。
「早速、私が皆さんに提示するメリットは2つございます。1つ目は豊かな暮らしを約束する事。2つ目は夢を提供する事です」
ピンとこないワードに戸惑っていると無精髭のおっさんが口を開く。
「夢ってなんだよ。わかりやすく教えてくれ」
イリスはクスッと笑いその質問を待っていましたとばかりに立ち上がる。
「元の世界に帰りたい。しかし、現状帰還の方法はなく何年、何十年と血眼になりながら帰還方法を探したところで見つからない可能性も十分にありえる」
現実を叩きつけられ希望を断ち切られる言葉の数々。
「そんな苦悩の日々を何に縋ることもなく過ごせますか?私なら心が先に折れてしまうでしょうね」
耳を塞ぎたくなる絶望の言葉のはずなのに優しい彼女の声に何故か心地よさを感じてしまう。
「でも、もし夢の中で友人、恋人、家族と好きな時に好きなだけ会えたなら…」
まるで悪徳商法のセールスマンだな。
「魔族には夢魔と言われる夢を自由に操りことのできる者達がおります。その者達にあなた方が見たい夢を見たい時に好きなだけお見せする事をお約束しましょう」
魅了的なメリットだと思うが、問題を先送りして現実逃避しているだけじゃないか。結局何の解決にもなっていない。
「本当に…本当に出来るんだな?」
おっさん、わかりやすい洗脳を拒むこともできないんじゃこの先やられたい放題だぞ。
「ええ、お約束いたします。お望みとあれば淫魔の者達もお好きにお使いください」
おっさんの精神力はもうボロボロだ。三大欲求を全て満たす提案に抗う術はないだろう。
「ルーナ、俺は魔族と手を組む!いいな!」
ルーナは無表情のまま言葉を受け入れ深々と頭を下げ承諾した。
――――――――――――――――――――
おっさんが表明したことでシルバーニアでの会談は終了。
人間族領土であるブルストルに帰還した俺達は、アレック王の準備が整うまで個室で待機するように指示され、しばしの休息を取っていた。
「ガスト…怪しくないか?メリットが大き過ぎるんだよ。帰還方法を全力で探すとかでいいだろう」
先程までの会談を振り返り冷静に不審点を振り返る。
「イリスも怪しい。英雄王になった時のメリットの話はなかったし…最初からおっさんが狙いだったのか?」
そもそもエフロスを倒すことを1番に考えるならアビリティの相性だけで振り分けてしまえばいいのに……負ければ終わりなんだぞ。
「ダメだ、考えがまとまらない」
もう一度最初から頭を整理しようとした時、ドアがノックされた。
「失礼いたします。アレック王の準備が整いましたのでご案内します」
部屋に入って来たのは見知らぬメイドだった。
「あの、ルーナさんは?」
今の俺にとって唯一信用できるのはルーナだけだ。アレック王との会談には必要不可欠な存在と言っても過言ではない。
「アレック王との会談は私が担当いたします」
このタイミングでルーナを外す意図はなんだ?正直嫌な予感しかしないぞ。
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