第10話 死んだ魚の目

 頭が、痛い。

 それがこちら神殿側の総意である。

 だが目の前の加害者側代理人も一人を除いて死んだ魚の様な目をしている。──その一人が原因なのだが。




 一人で良く解らない持論をベラベラ述べている男──内務副次官の言葉を無理矢理遮った。


「…それはそちら側の総意、と取って良いのか?」


 イストは代理人の代表者をジロリと睨め付けた。

 少々顔色の悪い代表者は、イストに睨まれ更に顔色を悪くしていく。


「ち…違います。申し訳ない」


 王宮の不祥事の尻拭いに駆り出された第二王子は、真正面から大神官の怒気を叩きつけられて事が予想以上に悪いことをこの部屋で知った。


「謝罪しに来たのか、喧嘩売りに来たのか解りませんね……」


 はぁ、とヴィオスがこれ見よがしに溜め息をついて見せた。





──時は少し遡る。

 第一王子が婚約者である聖女を殺害しようとしたという話は王宮中を駆け巡り、情報は錯綜した。

 ただ、その中にあっても迅速に第一王子は拘束された。

 事実上の失脚である。

 その中で、自分が父王に内密に呼ばれた。


「神殿を宥め、抑え込め」


 だいぶ簡略するとそう言うことだった。


『…無謀……』


 と思いつつも受けたのは打算であった。

 王太子の最有力候補であった第一王子が失脚した直後だ、功績はあればあるほど良い。

 聞けば、大神官は穏やかな聖職者らしい聖職者だという。

 このときの話を精査しなかったのが後に致命的になった。



──そして現在。

 ピリつく重たい空気の中、随行者が失言失態。

 神殿の態度は軟化する所か、冷ややかにそれを見ては更に態度を硬化させ──取り付く島が皆無であった。

 王族がわざわざ出向いた──と言うのも神殿側には響くことは無かった。追い返さないだけマシだと思えと言わんばかりの態度で案内され、茶すら出されることもなかった。


『…内務部はもっとマシな人選出来ないのか!?』


 謝罪と糸口を掴むために出向いた筈が、背後から鈍器で殴られている様な状況である。

 纏まる話も一人の無能の為に霧散し、遺恨を残すだけになりかねない。

 向かいに座る大神官イストの不機嫌度は、部屋に通された直後より悪化していく一方だった。


「内務副次官の口を塞げっ!」


 そう言った直後だった。

 扉をノックし、中に一人の少女が入ってきたのは。

──当代の聖女、殺されかけた当事者であった。

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