死せる聖女は甦る
風見渉
第1話 聖女、撲殺される
「…お前がっ……悪いんだっ!」
手には装飾がゴテゴテとついた重たい花瓶──花瓶の底からは真っ赤な液体がぽたり、ぽたりと床に落ちては豪奢な絨毯に染み込んでいく。
床には血の気が急速に失せて顔色が真っ白なややきつめの顔立ちをした少女が横たわり、頭部から大量の血液で絨毯に血染めの染みを作っている。
加害者たる青年の顔には返り血──自己正当化するかの様に、倒れている少女を罵倒する。
どれくらいの時間罵っただろうか…?ピクリとも動かない少女を見つめ、己のしでかした事の大きさに漸く気付き──そして、部屋から逃げることを青年は選んだ。
加害者が部屋から逃げ去ったあと──床に倒れ、事切れたはずの死体の指がピクリと動く。
全身が血に濡れ、白い長衣の所々が鮮やかに染まった少女の死体──はこの世の理を嘲笑うかの様にゆっくりと起き上がった。
「…だいぶ出血しましたねぇ」
少女は、自身が倒れ込んでいた場所を見回す。大量の血が絨毯に大きな血溜まりを造っている。
──普通なら失血死である。いや殴られたことによる撲殺かも知れないが。
少女は頭を軽く左右に振った。流石に血が抜けすぎて頭がふらついているようだった。
この状態で心臓を動かすのは身体に負担がかかりそうだと判断した。
『取り敢えず、神殿に帰りますかね……』
少女は視線を床から自分の着ている長衣に向ける──流石にこのままでは外を歩けない。不審者として警備兵を呼ばれる未来しか見えない。
部屋の中を少し漁り、上に羽織れそうな物を探しだした。
『一般市民に見られると色々不味そうですしー』
双方の利害の一致のためにも上に羽織って、血染めされた部分を隠した。少々羽織物はサイズが合わずブカブカで、袖口がだいぶ余ってしまってみっともなく見えたが、文句をいっていられる状況では無かった。
『…今後の事は神殿で相談ですねー』
失血死したであろう少女は、事もあろうに起き上がり──3階の部屋のバルコニーから身軽に地上へ降りると、闇に紛れて消え去ったのだった。
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