宇宙を翔ける冒険者
狂咲 世界
プロローグ
第1話
ピピピピという不愉快な音で目が覚めた。
俺はノイズキャンセラー付きのアイマスクを外し、傍の収納へと放り込む。そして、コンソールをスリープモードから復帰させる。
1秒とかからずに起動し、見慣れたホーム画面が立ち上がる。俺はすぐにシステムチェックを開始し、オペレーターチェアから飛び降りた。
人類の三大発明––––いや、三大模倣の一つ、重力制御装置が宇宙にいる俺にも"着地"という概念を提供してくれる。現在の設定重力である0.6Gを受け、俺は軽々とコックピットのドアまで行き、自動ドアを開いた。
軽く船内を見回って異常がないことを確認してから、俺は元の場所ーオペレーターチェアへと戻る。
すでにシステムチェックは終わっていて、結果がホログラムディスプレイに表示されている––––《No Error》。
俺はふーっとため息をついて背もたれに深く寄りかかる。
どうやら、今日も俺の小型輸送船、その名もエイダは快調のようだ。ただの輸送船なので、異常が起こる可能性はかなり低いが、いつも緊張する。俺は次に、ぽちぽちとコンソールをいじって現在の航路状況を確認する。
現在、この船はコロニー《ctb-27》、通称《クタバニーナ》を目的地として航行中。あと5分でハイパースペースを抜け、その後20分ほどで目的地へと到着する––––大体、そんな感じの情報が並んでいる。
俺はコンソールを操作して、船の状態を戦闘にも耐えうるように変更していく。もちろん、輸送船であるこの船は戦闘を目的として作られているわけではないが......それでも、自衛用にある程度の武装はカスタムしてある。
ジェネレーターから余剰出力の40%をシールドに回し、この船に備えられた武装––––ビーム砲四門、ミサイルポッド4門を起動する。ミサイルは弾薬費がかかるためあまり使いたくはないが、命には変えられない。
そしてそれぞれを動かすためのプログラムを起動し、最後にコックピッドに外の景色を写す。
人に酩酊感をあたえる不可思議な景色が外に広がるが、俺は気にせずにスロットルと舵を握り、スラスターを制御するためのフットペダルに足を置く。
––––ハイパースペースから出るまで、3......2......1......
特に衝撃はなく、ぬるりとハイパースペースから出る。いま、俺が出てきた空間を見ていたものがいるとしたら、急に俺の船がどこからともなく出てきたように見えるはずだ。
俺はジェネレーターの出力とレーダーを見ながらゆっくりとスロットルをふかしていく。遠くに見える楕円型のコロニーが、俺の目指す《ctb-27》だ。
コロニーが近いこの宙域は帝国軍がかなり見回っているので滅多なことでは宙賊も姿を現さないが、油断は禁物だ。
そろそろと進んでいくと、ピラララララと通信が入った音が鳴る。
『こちらテインツ帝国軍ctb-27コロニー支部発着管理官、セドアー一等兵。貴艦の名称・乗員・所属・目的を問う。なお、この通信に返答がない場合、貴艦を捕縛する』
「......こちらは小型輸送船《エイダ》。乗員は1名、艦長のレフラス。所属は輸送ギルド......
『............確認がとれた。ハンガーNo.27-12へと着艦せよ。クエストの達成報酬として三日間は無料だが、それ以降はハンガー使用料がかかることに注意されたし。セドアー、アウト』
通信が一方的に切られた。俺はコロニー《ctb-27》のネットワークに接続し、場所を確かめてからそちらへと向かう。
......決してここで慌てたりしてはいけない。ここで事故を起こすと(これまた滅多に起こることではないが)かなり悲惨なことになる。もちろん、保険というものがあるが......あれは自分に過失がある場合は下りる額がかなり減ってしまう。
幸い、今回も事故が起こることはなく、俺はハンガーNo.27-12へと着艦を果たした。備え付けのロッキングシステムで船を固定して、ハンガーのハッチを閉める。
数秒後、ハンガー内に空気が満たされたという通知が響いた。
俺はカーゴスペースのハッチを開けると、全システムにシャットダウン処理をかけた。重力制御装置がオフになり、ふわふわと体が浮き出す。
俺は座席を蹴ってドアをくぐり、船の二段階ハッチを手動で開いた。俺はハッチに置いてある推進器を手に取り、スイッチを押す。
重力がない宇宙空間ではこれがないとふよふよといつまでもハンガーに浮き続ける羽目になる。そうなった場合、もうできることは、恥を忍んでハンガーに在駐する管理人に救助を頼むことだけである。
......誠に恥ずかしながら、駆け出しのころ俺も何度かお世話になった。
カーゴスペースまで飛び、一つ一つ荷物をハンガーにあるコンテナ輸送システムへと運んでいく。なぜかこういうところは人力なのだ。
自動にしろよ、という陳情や愚痴はだいぶ上がっているらしいが、一向に実装される気配はない。ちなみに、物流量が
当然の如く、そんなシステムを組み込むのにはある程度の船の大きさが必要となり、そしてあくまで小型輸送船の《エイダ》には組み込めない。
ともあれ、俺は全てのコンテナを輸送システムに放り込み終わり、コロニーへと続くハッチへと向かう。無駄に重く分厚いハッチを開き、センサーがたくさん張り巡らされた通路を通ると––––
そこはもう、コロニーだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます