第2話 空間

 カプセルから一歩床に降り立って、再び部屋全体を見回してみた。そこは病室とは思えない半球状の空間で、カプセルはその中央に置かれていた。白い壁と天井には境目はなく、全体が緩く光を放っている。


 出入口らしきものは見当たらない。窓状の丸い穴が1か所あるだけだ。

窓には透明なガラスのようなものが嵌めてあるのだが、取っ手の類は無く開きそうにはなかった。ただ外の様子は伺い知ることができた。


 覗き込んで外を見ると、夜ではなさそうだったが薄暗くて青い空は見えない。夕方に分厚い雲が立ちこめていて、夕日が見えなければこんな感じだろうか。星も見えない。地面らしきものは荒涼としていて、小さな石ころ以外は地平線まで特に目につくものはなかった。窓を通して音は聞こえてこないが、舞い上がる土埃で強い風が吹いているのは見て分かった。


 外の景色にも負けないぐらいに殺風景なその空間の中には、自分が入っていたカプセルの他に2つのものが置いてあった。一つは一辺が1.5mぐらいのライトグレーの立方体で、手で開く扉のようなものが前面についている。扉の右横上部には0から9までの数字が書かれたボタンが並び、その下には大きなボタンが二つあった。ボタンの下にはそれぞれ「スタート」「ストップ」とカタカナで書かれている。さながら大きな電子レンジと言った趣だ。


 部屋に置かれたもう一つのものは、ファイルが並べられた金属製の書類棚だった。

最上段でも手の届く高さで棚板は全部で6段ある。そこにA4サイズのファイルがびっしりときれいに並べられていた。ファイルの背表紙には、一冊ずつ文字と数字が書かれている。棚の一番上の段から「い・ろ・は」と平仮名が割り振られ、棚の左端から順に数字が割り振られているようだ。


 一番取りやすい位置にあった「は」の「1」を引き抜いてみた。


 ファイルの表には背表紙のナンバリングとは違い、「2000~2100・日本・食」と書かれていた。ファイルを開いてパラパラと閉じられているシートを見る。シートには食材や料理の写真と説明文が載っていて、一番上には大きく太文字で6桁の数字が書かれていた。


 他の段のファイルも見てみたが、棚は段ごとにカテゴリー分けがされているようで、「は」の段は主に食材や料理についての写真と説明が集められているようだった。


 部屋の中には先ほどの大きな電子レンジのようなものと、このファイルしかないのだからすることは決まっている。何が起こるのかもなんとなく想像がついた。

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