第81話 先輩と遭遇しました。
制服姿の私と、向かいの席に座っているのは同じく制服姿のノノだ。
ノノは私に取ってはヴァヴァを一緒に遊ぶギルドメンバーであるけれど、世間的には国民的人気アイドル
仮に私一人が制服を着て、小洒落た喫茶店でコーヒーを飲んでいたとしたら。
咄嗟に言い訳は思いつかないものの、それでもなにかしらの誤魔化しようもあるだろう。
――コスプレとか? ……あとは罰ゲームとか。まあ現実も大差ないんだけど、コスプレだし、頼まれた結果制服をおめおめと着ている私です。
ただ向かいには、おそらく十九歳ながら日本トップクラスの着こなしを見せる女子高生ルックのアイドルがいる。
「
私はなんとかノノに気づかれないよう笑ってみせる。
斉木先輩は、大学では学業も交友関係も落第寸前の私にとって唯一と言っていい先輩だった。
サークルにも入っていないし、一年でまだゼミにも所属していない私が先輩と知り合ったのは本当に偶然で、しかも入学前のことだった。
大学の下見がてら文化祭へ遊びに来ていた私は、一緒に来ていた幼馴染みとはぐれてしまって合流を待っていたときだ。
男子大学生達何人かに勧誘されていて、模擬店で売っているたこ焼きを安くするから来いとか言われていた。
人を待っているからここを離れられないと言っても食い下がられて、面倒だなと思っていたところに斉木先輩がやってきて男子数人相手にもかかわらず一にらみで追い払ってくれた。
あとで知ったが、先輩は大学内でもかなりの有名人だ。良くも悪くも。
助けてもらった事に感謝すると、『良かったら見に来てよ』とチケットを渡された。ライブのチケットだ、それも二枚。
幼馴染みと無事に合流できた私は、特に予定も決まっていなかったのでライブを見に行くと、さっきの先輩がギターをかき鳴らして歌っていた。かっこよかった。――というのが、入学前までの話。
なんとか受験を突破して、入学できた私は偶然また先輩と再会して――偶然というか、改めてお礼が言いたくてそれらしいライブを観に行ったんだけど、それでまあそのまま仲良くさせてもらっていた。
「お? 悪いな、
先輩は派手な外見だし、ライブパフォーマンスもかなり攻めるときはあるけれど常識人だし空気も読める。
制服なんか着ている私を気まずくないように軽く茶化すし、ちょっと含みを持たせれば察してもくれた。――オンラインゲームにはあんまりいないよね、こういうコミュニケーション上級者。……いや、私の偏見かな。
私はほっとして、離れる先輩の背を見送ろうとしたときだ。
「……ユズいいの? あの人、一人だったらアタシ一緒でもいいよ? ここ四人席だし」
「えっ!? いや、でもいろいろ説明が大変だし……」
――くっ、ノノもアイドルなせいかネットゲーマーにはあるまじき陽キャ要素あるんだよな。友達いないくせに、友達の友達は友達みたいな感覚持ってそうだし……いや、友達いないから私の友達に、変に気を遣っているのかな? 何にせよ、余計なことをしないでほしいんだけど。
「あのぉー。よかったら、一緒に座りますかー?」
私の気も知らず、ノノが先輩に声をかけてしまった。
――この人自分が有名人だって自覚ないの!?
「おーっと? いいのか? えっと、姫草の友達だよね?」
呼び止められて、振り返る先輩がノノを見るのだけど――先輩は人ができているので今まで私の連れの顔をじろじろ見てもいなかったのだろう。
多分初めてまじまじと見た結果、眼鏡をかけているが制服姿の女性はどこかで見たことのある顔だと気づいてしまう。
「……あれ、どっかで……っていうか、アイドルの?」
「せ、先輩っ! とりあえず座ってくださいよ! 私こっち移るんでっ」
私は慌てて、向かい側の、ノノの隣の席に移って先輩を座らせる。
静かな喫茶店内に騒ぎを起こすわけにはいかない。
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