第53話 美少女のお宅に訪問します。

 イベント開始まで日もなく、直ぐにルルの家へお邪魔することが決まった。


 つくる料理については、あまり難しいものはできないけれど一応希望を聞いた結果オムライスに決まった。

 定番な気がするし、ギリギリ私でも作れそうだ。


 ただキレイに薄焼き卵でご飯を包む芸当が私にできるわけがない。

 いくつか調べた中でも比較的簡単そうな、フワフワ卵をそのまま載せるタイプのもので許してもらうことにする。


 それでも目玉焼きを失敗した私には中々ハードルが高い。


 何度か練習して、チキンライスのほうはそれとなく形になったのだけれど――卵がどうしてもぐちゃぐちゃになってしまう。フライパンからお皿に移すとき破れちゃうんだよな……。


 しかし時間もなく、結局は親と私がお腹いっぱい食べてもまだ余って冷蔵庫もいっぱいになるくらいにはオムライスをつくったのだけれど、まだ人様に出せるような腕前にはならなかった。


 とりあえずお腹を壊すものにはならないだろうけれど、あとは本番で上手くいくのを祈るしかない。


 私は材料を抱えて、ルルの家へ向かった。


 午前中は大学で講義を受けて、そのままスーパーによって卵にお肉とパックご飯を買う。調味料類も小さいものを選んで買って置いた。

 言えばルルの家にあるものを貸してもらえる気はしたのだが、お礼として料理をつくるのだからできる限り自分で用意すべきだろう。


 ――それでもまあ、フライパンとかそこら辺のものは借りることになるけど。


 ルルの家は、ハイソな住宅街の中でも一際目を引く豪邸だった。――育ち良さそうだとは思っていたけど、やっぱりけっこうなお嬢様なんだな。


 こんな家で育った美少女に、私の手料理なんて振る舞って大丈夫なんだろうか。お腹は壊さないなんて思っていたが、普段の食事との差で体調を崩すんじゃないか心配だ。


 ――わっ、庭に芝生植わっているよ。


 と手入れされたおしゃれな庭に感心しつつ、呼び鈴を押そうとしたとき、タイミングよく玄関が開いた。


「ユズさんっ!」


 声を弾ませてルルが出てきた。

 私がインターホンを鳴らす直前で、すごい偶然かと思えばパタパタと門まで駆け寄ってくるルルは。


「……わたし、部屋二階なんですけど窓からユズさんがいらっしゃったの見えまして」


 と説明してくれる。


 ピザの配達を心待ちにする子供みたいだ――と思ったけれど、そんな美味しいものは作れないのであまり期待されるとプレッシャーがすごい。


 そのまま玄関へ案内されて、出してもらったスリッパに履き替える。


「お、お邪魔します」


 ノノのタワーマンションに入れてもらったときとは、また別種の緊張感を持つ。そういえば――。


「そういえばご家族の方は?」


 料理のほうに気が取られて、確認していなかった。


 実家だと言うことは聞いていたし、なんとなく誰かしらはいるんだろうと思っていた。手土産も別に用意してあるので、挨拶の準備はあるのだけれど。


「今日は誰もいないので、お構いいりませんよ。ユズさんとわたしの家だと思ってくつろいでほしいです」


「えっ、そうなんだ。じゃあちょっとだけ気が楽に……」


 ――ルルと二人きりなら、気を遣わなくて楽に? ……二人きり?


「え、でも夕方には帰ってくるよね? 料理するの一時間はかからないと思うけど、もう十五時過ぎだし、ちゃんと挨拶しないとかな」


「いえ、両親は外で夕食の予定でして」


「へぇ、二人で外食。仲良い両親だね」


「ふふ、ユズさんとわたしも二人で晩ご飯ですよ」


 他に誰もいないなら、ゆっくり夕食として料理をだせるわけだ。


 ルルの指定通りに来ていたから、細かいことまでは考えていなかった。

 軽食くらいのつもりでもいいように考えていたが、そのあと別に夕ご飯がないのであれば多少量もあっていいだろう。


 それはいいんだけど、材料も多めに買ってあるし。


「……ルルさんのご両親は、今日たまたま外食だったの?」


「いえ、今日は記念日なんですよ。だから二人で外食でもとわたしから薦めました」


「え? 記念日? それはまた偶然な……結婚記念日とか?」


「なに言っているんですかユズさん、わたしがユズさんの手料理を食べる記念日ですよっ」


 ――えええぇ!? いやいや、百歩譲ってそれを記念日にするのはいいとして、その理由で両親を外食へ行かせないでほしい。


「妹にも映画のチケットとお小遣いを渡して家を空けてもらっています。ふふ、一人で夕食なんてまだ妹には早いかと思ったんですが、近くに顔馴染みのレストランがあるので、そこのオーナーさんにも頼んでいますから、ご心配いらないですよ」


 すごく用意周到に二人きりなようだ。


 ただまあ、私が気を遣わないように家族には空けてもらったのだろう。――そう、だよね? だから私は普通に感謝するべきなんだよね?


「ありがとう。ルルさんのご家族にも迷惑かけちゃったね。たいしたものじゃないんだけどお土産持ってきたら、よかったらあとで渡しておいてもらえると……」


「そんなっ! 手料理をご馳走してもらえるとに、ユズさんはそんなに気を遣わないでくださらなくても……わたしが二人きりになりたかっただけですし……」


「う、うん。……あはは」


 なんだろう。不思議と顔が笑ってしまう。もちろん感情としては無と恐怖の中間である。


 ――ゲーマーとしての直感が告げている、逃げたほうがいいと。

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