第4話 オフ会に誘われましたけど。

 ギルド発足一日目、さっそく事件が起きた。


 初日ということもあって、時間を決めてメンバー全員に集まってもらった。


 相変わらず三人はボイスチャットに参加する様子はなく、まずは私だけでしゃべることとなる。


「はーい、みなさん! 私、白銀魔操術士はくぎんまそうじゅつしユズが設立したギルド打鍵音だけんおんシンフォニアムに参加ありがとうございます! これからはみんなでもっとヴァンダルシア・ヴァファエリスを楽しんで、上のランクも目指してゆくゆくは――いえ、すぐにでも最強ギルドとして認められるように頑張っていきたいです!」


 ゲーム画面には、初期状態のギルドホームと私を含めて四人のプレイヤーが表示されている。


 一番最初にもらうギルドホームは、大量のゲーム内金銭を要求される割にはかなりボロ小屋だ。

 そこにそれぞれ差はあれど、かなりのレア装備で固めた四人が並んでいるので、やや異様な光景になっている。


 外観やおしゃれは二の次くらいには考えているものの、余裕ができてきたらホームも改装していきたい。


『よろしくお願いします』

『よろしく』

『うぃーす』


 と三人のおっさん達から、味気ないチャットが返ってくる。


「……えーと、せっかくこれからは同じギルドのメンバーですし、敬語やめてフランクに話しちゃいましょうか! みんな、改めてよろしくね」


『はい、よろしくお願いします』

『了解』

『うぃー』


 ――このおっさん達、NPCノンプレイヤーキャラクターかなんかなの?


 まあ元々、ルル以外の二人は敬語でもなんでもないから、タメ口で話そうと言われても特に言うことがないのはわかる。

 あとルルがそのまま敬語なのも別にいいんだけど。


「これからの予定だけど、この四人でパーティー組んだことはまだなかったと思うから適当に軽めのダンジョン潜っていこうと思うんだけど……希望とかあるかな?」


『わたしはどこでも大丈夫です』

『ない』

『うぃ』


「……みんな、もしかして今日はあんまり元気ないの?」


『そんなことありませんよ』

『ある』

『う』


「…………」


 いやいや、盛り上がらないな全くっ!!


 ダメだ。よく考えたら今まで、私以外全員チャット勢という状況でやったことがなかった。

 なんだかたんだ私がマイクをつけてしゃべれば、一人二人とおっさん達もボイスで返答してくれていたのだ。


 そりゃみんな私みたいな女の子と話したいわけだし。普通に考えたらそうなるわけだけど。


 ――この人達なんなの?


 ルルは、まあいいか。敬語のままって以外は、そこまでおかしな返事もない。


 アズキは、感情ある? アニメとか見ながらチャットしてない? 私が言っていること本当に聞いてる?


 ノノは、論外。文字数どんどん減って最後『う』ってケンカ売っているレベルだ。こいつ金持ちだからっておっさんのくせに、私のような美少女相手に態度がでかいんじゃないか?


 早くも人選に失敗したのではと後悔しそうになる。


 もちろん仲良しグループを作るのが目的ではないが、このままでは今後のギルド活動もままらならない。


 予定より早く来たが、三人のおっさん達にお願いすることにした。


「あのさ、みんなもマイクつけて話さない? ギルメン同士の連携を高めるためにもボイスチャットのがいいと思うんだよね。操作リソースも増えるからさ」


『ごめんなさい。わたしは、恥ずかしくて……』

『操作にも連携にも問題ない』


 二人が即答で拒否してきた。


 三人目のノノからの返事は――もしかしてついに文字数ゼロで無言!? と思いきや、


『ボイスつけたら、なにくれる?』


 と予想斜め上のメッセージが返って来た。


「え? 普通にボイスチャットしよーってだけだから、交換条件とかは」


『顔見たい。それくらいじゃなきゃ話さない』


「待って待って、なんでそうなるの?」


『なら交換は? 俺も自撮りあげるから』


 ――いらないよ! おっさんの顔写真もらっても嬉しくないから!!


 という言葉をなんとか飲み込む。初日からもめるのもよくない、冷静に拒否しよう。


 下心しかないおっさん相手でも、優しくするのが姫プレイでは大事なことなのだ。


「ごめんね。顔見せるのはちょっと、最近写りいいの撮れてなくてさー」


 なんて笑って流すことにする。


 だがおっさんという生き物は得てしてあきらめが悪いし、こちらの意図を全くくみ取ろうとしない。これが明確な拒否だと言うことがわからないのだ。


『ならオフ会しよ』


「えええぇ!? お、オフ会って」


 驚くべき事に、ギルド結成初日にして、おっさんの下心が実際に手を出そうという段階となったのだ。


 女の子と楽しくゲームできるだけでは飽き足らず、まさか本当に会って話したいなんて要求をしてくるとは。もちろんキッパリと断るとするのだが。


『僕も、ユズに会いたい』


 ――引きこもりのアズキが急に主張してきた!? いやいや、なに家から出る気になっているんですか、引きこもりおっさん。そんなに私と会いたいの!?


 まずい二対一だと断りにくくなる。


 でもルルは大丈夫だ。珍しく良識が搭載されているし、極度の恥ずかしがり屋でオフ会なんて絶対しないタイプだろう。

 よし、それを利用して――。


「えーほら、オフ会ってもし仮にやるにしても、それならギルドメンバーみんなで集まりたいかなー? ルルさんは、どうかな? やっぱオフとかちょっと恥ずかしいよね! 私もまだみんなと直接会うのは――」


『会いたいです。……恥ずかしいけど、わたしもユズさんに会いたいです』


「ちょえっ!? ルルさん、本当に!? だって恥ずかしくてボイスチャットもしないのに!?」


『……わたし、このゲームやるまでパソコンもゲームも全然したことがなくて、あんまり友達もいなくて人と通話ってのになれていなかったんです。だけど会って話すのなら、まだ抵抗がちょっとだけどなくて』


 ――そんなことないって!! 会って話すほうが抵抗あるよ!


 少なくとも私は――いや、おそらく全女子がそうだ。だってそうでしょ? おっさんと直に会って話すなんて危険以外のなにものでもない。


 こうやってゲームしながら、オンラインで話すだけなら実害なんてことはない。

 アズキのようなネットストーカー予備軍はいるけれど、バカなことしてリアルの情報を特定されない限りは被害もたかが知れている。


 だけど。


 リアルで会ったら違う!! なにをされるかわからない!!


 体を無理矢理触られるかもしれないし、もしかしたら――エッチなこととかも。


 だって向こうは男。力では絶対に叶わない。どんなに抵抗しようとも、力勝負で無理矢理なんてことされたらなすがままじゃないか。


 ――ダメだ、絶対にオフ会は、直接おっさん達に会うのは拒否しないと。


 強引に脅されてエッチなことをされ、写真や動画に収められて――みたいなのが現実世界でもありえることを私は知っている。ネットリテラシーも女子としての自己防衛能力もしっかり備えているのだ。


 こんなおっさん達絶対拒否!!


『ルルってのも乗り気みたいだし、ギルドオフ会ってことでいいよ。俺はできたら二人きりがよかったけど。メンバー全員ならユズもいいんだろ?』


「えーっと、あっ、でもほら、お母さんにあんまりネットの人と会うって言ったら心配されちゃうかも。私、だし!」


 親に止められると、学生アピールのコンボだ。


 当然自分以外の意思が介入することでやんわりと断りやすくなるし、まだ学生であると知った上で向こうがなにか手を出してくれば犯罪としての罪も重くなる。


『そういうことなら俺も同年代だから安心していいぞ』


「嘘つけぇっ!!」


『ん?』


 思わず大きな声が出てしまった。


 このおっさん事もあろうか自分を同年代発言し始めるとは。


 しかも三人の中でノノが一番あり得ない。

 未成年があんな課金ジャブジャブプレイできるわけがない。ましてや激レアジョブの断絶士だんぜつしなんて持っているはずがなかった。


「あっ、えっとノノさん大人だと思ってたからー。その普段からしっかりしてるし」


『わかったわかった。オフで会ってくれるならレアアイテムやるって。それでいいだろ? レア星だ、ユズがほしがってたロッドの最高位レアをやるって』


「ええええ!? 星屑成層ノ杖を!?」


 レア星はレア十の上、もっとも高いレアレベルのアイテムでこれは課金だけでは手に入らない。だがもし価値を金額で出すなら、数千万はすると言われていた。


 レア星一つあれば家が建つ――そんな噂もまことしやかに聞く。


 おっさん達とちょっとオフ会しただけで、数千万価値のレアアイテム。


 それもずっとほしかった杖の最高位レアだ。これは私のジョブに取って、あればそれだけでキャラの強さを数段引き上げられる装備だ。


 これ以上がない、エンドコンテンツとも言うべきアイテム。


 最強ギルドを目指す上で、比べようもないほど心強い助けになるだろう。


 ――でも、おっさんとオフ会なんて絶対危険だし、したくない。だってだって。


『わたしも、そんなにレアなものは持っていないですけど』


『それなら僕も渡そう。高難易度ダンジョンを周回して落とした、ドロップ確率0.05%アイテムがある』


「え!? ふ、二人とも、本当!? だ、だってオフ会って、別に会ってちょっと話したり、ご飯とか食べたりそんなんだよね? それで、そんなレアアイテム……」


 そうして。


 都内のカラオケ店で、打鍵音シンフォニアムの設立記念オフが開催されることとなった。

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