正解探し

ごま太郎

「じゃぁ、行ってくるね」


妻の言葉に、顔もあげずうんとだけ返事をする。ガチャッと鍵の閉まる音を確認し、ベランダに出てタバコに火をつける。気持ちの良い秋晴れに照らされながら、洗濯物たちが鯉のぼりよろしくのびのびとはためいている。


吸い終えたタバコの火を消し部屋へ戻ると、おもむろにテレビをつける。日曜の昼間ということもあり、目ぼしい番組は見当たらない。ありふれたメンバーの見飽きた笑いと、世間を騒がすニュースの数々。そのどれもが自分とは違う世界のことであり、まるで興味が向かない。

彼等の必死のトークをBGMに、ソファに身体を預けた私は、見飽きた天井をぼんやりと眺めていた。


いつからだろうか、このシミひとつない真っ白な天井が、ベランダで泳ぐ洗濯物たちが、妻との会話が、こんなにつまらないと感じるようになってしまったのは。

いつからだろうか、結婚して、2人で選んだこの部屋が、今では2人を閉じ込める檻のようにさえ感じてしまうのは。


綺麗に並べられたクッションに顔を埋める。ほんのりと柔軟剤の甘い香り、あの頃と変わらない、妻の香り。その嗅ぎ慣れた、決して嫌な気のしない香りは、一時的にではあれ、檻の中にいることを忘れさせてくれる。



「またソファで寝てる!」


優しく私を叱る声、あの頃の妻だ。寝ぼけた視界には、あの真っ白な天井。そこへ最愛の彼女の、少し膨れた顔が割り込んでくる。


「聞いて、さっきね、買い物に行ってきたんだけど、」


目を輝かせて話しかける彼女に、私はうんうんと相槌を打つ。一見くだらない日常報告を、まるで映画の大冒険のように語る彼女に、私の頬も自然と緩む。

幸せ。そんな一言では間に合わないほどの、充実感、高揚感。呪文も使わない、ボスとも戦わないその大冒険こそ、私の日々を彩る大魔法だった。


「それとね、報告があるんだけど…」


急に視線を落とし、彼女は黙り込んでしまう。

どうしたのと不安になる私に、イタズラな笑みを浮かべ、彼女はこう続けた。


「赤ちゃんができたの」

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