十皇会議
聖地アストランデ。
十皇が支配する十ヵ国は大陸の中心から放射状に国境線で十等分した領地だ。
聖地は大陸の中心にあり、かつて最大の終域があった場所であり最終決戦の地だ。
故に十皇はこの地こそが平和の象徴、聖地だと定めた。
十皇が共同で管理し年に一度、或いは有事の際には必ず聖地アストランデで会議が行われる。
「諸君、緊急の呼びかけに応じてくれて感謝する」
システルから伝達魔術で緊急招集された十皇はその翌日には聖地に集まっていた。
緊急招集は全てにおいて優先される。それが十皇が取り決めたルールだ。
故に破るものはいない。
「よせよアリス。そんな間柄じゃねぇだろ」
粗野な口調で言ったのは【境界皇】ラグナ=バルト。
白い短髪をオールバックにした筋骨隆々の偉丈夫だ。口調通りに椅子に座り、机に足を乗せと態度が悪い。
「まあでも形式は大事じゃねぇか? ウチのリーダーサマなんだしよ」
これまた粗野な口調で言ったのは【煉獄皇】ジン=イグエンデ。燃えるような赤い長髪を後ろに流した偉丈夫でこちらもラグナと同じ格好をしており態度が悪い。
「いつも通りだがお前ら態度悪りぃな」
そんな二人をニヤニヤと嗜めるのが【魔眼皇】フォーゼ=リアス。長めの黒髪をアップバングにし、両目を眼帯で覆っている男だ。見えているのか心配になるが、しっかりと
「……アリス。要件を」
三人の野次をモノともせずに言い放ったのはまるでこの場にふさわしくない少女だ。
【時空皇】クロノス。
腰まで届く灰色の髪を持つ表情に乏しい少女だ。
しかし見た目で侮るなかれ、十皇の中での最強がこのクロノスだ。
「わかった。手短に結論から言う。終域がまだ残っていた」
「……え?」
クロノスがガタッと椅子から音を鳴らして立ち上がった。
いつもは無表情の彼女が驚愕に目を見開いている。
「……うそ……そんなまさか」
抑揚の乏しい声は震えていた。アリスもこんなに動揺したクロノスは初めて見る。それこそ最終決戦でも表情ひとつ変えずに戦っていたぐらいだ。
「クロノス?」
「…………ごめん取り乱した。」
目を閉じてクロノスが席に座る。
「んでどこに残っているんだ? さっさと潰せばいいじゃねぇか?」
「潰せないからこその十皇会議なのでしょう?」
ラグナの言葉を遮ったのは【聖霊皇】ライル=アーゼルス。金色に輝く長髪にアメジストのような青い瞳を持つ好青年だ。一番、皇に相応しいのは誰かと聞かれたら
粗野で口の悪いラグナとは相性が悪くよく小競り合いをしていた。
今も剣を抜きそうな勢いで睨み合っている。
「ほらほら。喧嘩はおよしなさい。話が進まないでしょう」
喧嘩を始めた二人のストッパーが【天癒皇】のセラ=オルファだ。
いつも笑顔の絶えない女性だ。髪はライルと同じ金の長髪で瞳は碧眼だ。
シスター服を纏い柔らかなオーラを放っており、まさに聖女そのもの。
いつもにこやかな彼女は怒ると怖い。それもとんでもなく。だからセラに嗜められるとラグナとライルの喧嘩は止まる。
「アリスちゃん。その終域はどこにあるの?」
「海の向こう。別の大陸だ」
そう言ってアリスは自分の持つ情報を十皇に共有した。
「それで……終域を滅ぼすのは確定として、それほど放置されているのだから相当な規模を覚悟したほうがいいだろう。それこそ最終決戦以上だと考えたほうがいい」
そう口にしたのは【侵蝕皇】シュバルツ=エルシオン。
漆黒の髪を持つ青年だ。特に特徴がないのが特徴と言える。口数も少ないが自分の意見はしっかりと口にできる芯を持っている。
シュバルツは続ける。
「みんな後継は育っているのか?」
それは十皇での取り決めだ。
最終決戦後の初の十皇会議で、今後今回のような緊急事態が起きた場合、戦うのは十皇だ。
故に皇が死ぬ可能性がある。
終域が滅んでから五年。国が成り立っているのはひとえに皇のカリスマだ。故に皇が死ねば国の屋台骨が折れるのと同義。
万が一が起きても後継がいれば他の皇たちで支えられるからだ。
よって早急に後継を育てる必要があった。アリスにとってのシステルの様に。
「無論だ。私が死んでもシステルがいる。すぐにでも発てる」
「待ってください。肝心の海を渡る方法はどうするのです?」
その発言をしたのは【狂歌皇】リリー=ベルベット。
漆黒のドレスに身を包んだ黒い長髪の女性だ。戦場でも常にこの格好をしている。
というのは十皇で唯一、リリーだけが戦闘をしない。と言うより戦闘能力が壊滅的で恐ろしく弱い。
けれどもリリーの配下が強い。彼女は歌で味方を強化する。強化された配下は十皇には劣るが歴戦の戦士以上の強さを見せる。
「そんなん海の上を走っていけばいいだろ!」
「同感だ!」
「脳筋二人は黙っていろ。話が進まない」
ラグナとジンに苦言を呈したのは【虚無皇】ヴォイド=ファング。
目付きが非常に悪い青年だ。口も悪いし態度も悪い。だがきちんと常識がある。
十皇の中ではまともな部類だ。
「あんだとこら!」
「表出ろヴォイド!!!」
「こらこら。すこーし静かにしてねぇ?」
セラが笑顔で止める。目が笑っていない。
「私もそこは考えていた。ニナの話だと距離もかなりある。ラグナとジンが言った通り走って行くのは無理だ。クロノス。どうにかならないか?」
アリスがクロノスに聞く。しかしクロノスは目を閉じたまま微動だにしない。
しかし長い付き合いだ。こう言う時、クロノスは既にできるか試している。
そうして五分が経った頃、クロノスが目を開いた。
「……補足した」
クロノスの目には時計盤が浮かんでいた。
皇の力を使っている証拠だ。
クロノスの力は【時空皇】。文字通り空間と時間を司る。座標さえ分かれば転移できる。
「すぐいく?」
「いや、皆も準備があるだろう。一週間だ。もろもろの引き継ぎを済ませ、一週間後に我が帝国の海岸に、集合で頼む」
十皇全員が頷いた。
そうして、たちまち一週間が経った。
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