第2話

「徳王様、ご指示通り、敗残兵を一ヵ所に纏めました。一人たりとも逃しておりません」


「……ご苦労」――キラン


 ――バサ


 俺は、獣の革でできたマントをひるがえした。

 そのまま、広場へ向かう。


「おお、厳白虎殿。これはどういうことか?」


陳瑀ちんう殿……。この中に、孫策の密偵がいる。その者を炙り出さないと、この城も戦えない。王朗殿の軍もいるしな。まず、足元を固めよう」


「なんと!?」


 俺の頭を見ろよ。血まみれだろうに。

 昨日、不意打ちを受けてんだよ。

 王たる俺は、逃げずに受けたんだけどね。痛ぇんだよ。

 つうか、二度とゴメンだ。


 その後、密偵狩りが始まった。

 とりあえず、顔見知りや、同郷の者で確認し合い、誰も知らない者は、隔離処置とした。

 ふっ……。自分の才能が怖いくらいだぜ。


「そして……、孫策の真の目的も、王たる俺にはお見通しだ!」


 俺は、食料庫へ向かった。





 本来誰もいないはずの、食糧庫……。だが、静かな息使いを感じ取る……。


「火気厳禁の場所なのに、大量の薪とはな……」


 薪を蹴り飛ばして、大きな音を立てる。

 衛兵が気が付いたようだ。

 遅いんだよ。異変に気がつけよ。どう考えても、誰かが作業した跡じゃん。兵糧を焼かれる前段階じゃん。

 そして、背後より刃物が向かって来た。


 ――ガキン


「ふっ……。いかに王たる俺でも二度目の凶刃を受け止める度量は、持ち合わせていないぞ!」


「くっ。蛮族風情が!」


 その後、数合打ち合うが、俺がバッサリと叩き切ってやった。

 ここで、衛兵たちが来た。


「徳王様? これはいったい……」


「食料庫周辺の薪を片しておけ。それと、この者を埋葬してやれ。身元が分かる物は持っていないだろうしな」


「……これは、とんだ失態を」


 衛兵たちは、震えている。

 処罰を恐れているんだな。

 だが、ここは度量の大きさを示す場面だと思う。王の器だよな~。


 ――バサ


 俺は、マントをひるがえして、無言で衛兵の横を歩いた。

 処罰なんかしないよ? 今は、味方が一人でも欲しい場面だからね。



 その後、食糧庫には二十四時間の見張りがつき、後顧の憂いが取り除けたな。

 俺は、玉座で色々な報告を聞く。


「兄者! 戻ったぞ!」


「厳輿か。孫策軍はどうなっている?」


「大分膨れ上がっているぞ! 劉繇りゅうようを倒した周瑜と魯粛とかいう若造が、とにかく凄いらしい!」


 ふぅ~。

 俺がため息を吐くと、場の空気が引き締まったのを感じる。


「いいだろう。本物の王の器を見せてやろう。王威だ!」――キラン

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