俺は【東呉の徳王】~名乗った覚えはないけれど、後世でそう呼ばれている~

信仙夜祭

第1話

「陛下! 王朗様が来られました。見るも無残な姿で……」


「来たか……。水と食料を用意しろ」


 俺は玉座より立ち上がり、王朗の出迎えに向かった。



「王朗殿。随分と派手に負けたのだな……」


「すまない、厳白虎げんはくこ殿……。孫家の若造と思い込み不覚を取った。兵法もキレるし、兵も多い。油断するな、ここにも来るぞ」


「ふっ……。面白い」――キラン


 王朗には、食事をとって貰う。敗残兵も多いな。まだまだ来そうだ。それと、王朗軍以外にも来ている。江南江東で負けた兵士が逃げ込んで来ている様だ。

 俺は、炊き出しの増量を命じた。


「来てみろ、孫策! 俺はまだ本気を出したことがない! 俺の本気を出させてみろ!」


 ここで、誰かが近づいて来た。

 王たる俺は、振りむいてやらない。ここで振り向くと威厳が損なわれる。


 ――ガン


 棍棒で頭を殴られた……。


「「「徳王様~!?」」」


 その後、数発殴られる。

 ちょっ、痛いんだけど……。

 その後の記憶はない。



 起きているのか、寝ているのか……。

 まどろみの中で、何かを思い出して来た。


「正史三国志……。三国志演義……。シミュレーションゲーム?」


 苦しみの中、俺の前世の知識が、少しだけ蘇った夜だった。



 朝起きて、確認する。

 殴られた箇所の出血は、止まっていた。


「ふう~。孫策は、敗残兵に暗殺者を紛れ込ませていたのか……。ふっ、思ったよりやるな。誉めてやろう」


 外に出て、朝日を確認する。


「俺……、厳白虎げんはくこなんだよな。ネタで、【東呉の徳王】って呼ばれる。ヤバくね?」


 冷汗が出た。

 正史三国志では、厳虎であり、山賊扱いだったはずだ。

 そして、『徳王』を名乗るのは、三国志演義の中だけだったはずだ。羅貫中あたりが、適当に付け足したんじゃなかったのか?


「俺……、歴史の中に転生してなんじゃないか? 考えられるのは、ゲーム転生?」


 あり得るのか?

 ラノベでは、良く読んでいた気がするが、あり得ないだろう……。


「徳王様。ここにおられましたか」


 部下だ。名前は憶えていない。つうか、山賊スタイルそのままだな。毛皮の上着って、暑くね?

 ここ、呉越の土地だぞ?

 まあいい、突っ込まない。文字数もかかるので話を進めよう。


「挨拶はいい。報告をしろ」


「はっ。孫策軍の先鋒は、明日にも我らの土地に踏み入る模様。厳輿げんよ様も戻って来られます」


「我らの土地?」


「はっ? いえ、徳王様の土地です!」


 ふぅ~。俺がため息を吐くと、伝令は身震いした。

 まあいい。こいつは分かっている。斬首はしない。


「下がれ」「はっ!」


 弟の厳輿も戻って来る。


『つうか、孫策が目の前まで来てんじゃん……。ちっ、しょうがねぇな。相手にしてやるか』


 だけど、その前にしなければならないことがあった。

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