導入 尋問

「そういえば騎士団が意識が戻ったらナイルに騎士棟に来て欲しいと言っていた。この前の騒動の時の話を聞きたいらしい。」


次の日の朝、ごはん時にお父さんに伝えられた。どうやら出頭命令?的な感じなのかな…何だか不安だけど「心配はしなくても、お父さんも一緒に付いていくから。」という言葉で我慢できた。数日後、伝達が来て出頭日時を伝えられた。


当日、外支度をするとお父さんと一緒に騎士棟へ向かう。騎士棟は騎士団の拠点で、下町からだと私の足で徒歩30分くらいかかってしまう。下町を抜けて元貴族街に入り少し高台を進んで街を見下ろせる所にある石造りの白い建物だ。入り口横にウマ小屋があり何十頭と繋がれている。棟の周りには、別棟がいくつか並んでおり、奥には下町がすっぽり入ってしまいそうな広場があって騎士の人達が訓練に勤しんでいた。


棟に入ると待合室に通された。しばらく待っていると半刻もしないで、いつぞやの女騎士さんが入ってくる。よかった、無事だったんだ。


「あ、こんにちわ。あの時はありがとう御座いました。」


「あの時の少女…いやナイルか。元気そうで何よりだ。騒動が落ち着いて見に行ったら倒れていた時は肝が冷えたぞ。」


どうやら私を見つけ介抱してくれた騎士さんは、この女騎士さんだったらしい。少し赤みがかった茶髪を束ね、表情は柔らかい。尻尾は丸っとしておりどこか人懐っこそうに見える。


正直、騎士団口調があまり似合っていない。ふっと『たぬき』、という言葉が頭に浮かぶ。


『たぬき』ってナンだろう?


女騎士さんはレナと名乗って、お父さんは先の件にお礼を述べる。私も有難う御座いましたと伝えた。


「あの騒動の報告を聞いた副団長が直接、君の話を聞きたいというので出向いて頂いた。私も色々聞きたいことはあるのだが聴取は副団長が取る。私と一緒について来てくれ。」


彼女は待合室の扉を開けると付いて来いと私を促す。立ち上がった私に続いてお父さんも席を立った。


「申し訳ない。お父上は、この場でお待ち願いたい。」


「いや、しかしそれは…」


お父さんは非礼があってはならないので聴取には自分も同席したいと食い下がったが、それは幼子ゆえ心得ていると一蹴された。渋々と私は一人、レナさんに付いて待合室を出る。階段を上がり右手に3つ目の部屋の扉の前で立ち止まる。レナさんは扉をノックし部屋に入った。私はそれに追従する。


部屋に入ると正面に執務机があり、男性が座っていた。青みがかった髪に男性にしては少し長めの髪、騎士さんにしては少し細身だ。顔は均整が整っているが表情が乏しい。無愛想だし、眉間にシワが寄ってて神経質そうだ。俗にいう残念イケメンってやつかな…きっと仕事が友達ってタイプだと思う。


部屋には私とレナさん、そしてこの男…たぶんこの人が副団長…の3人しかいない。


こういうのは最初が肝心だ。しっかり礼儀正しい姿勢を見せないと。


「初めてお目にかかります。私は南門衛士ゲイルの娘でナイルと申します。本日は召喚に伴い参りました。」


私はスカートの端を指でつまんで少し頭を下げつつ挨拶をする。その挨拶を見た副団長は固まる。ふふふ、驚いてる?


「幼子と聞いていたが多少の教養はあるようだな。歳は9つと聞いていたがまだ学舎にも通ってなかろう。どこで学んだ?」


あれ?目上の人なんだから敬語を使うのは当たり前なんじゃないの?なんか私間違った?


私が回答に困っていると「母親が織物の職人らしく、納先等のやり取りで覚えたのでは」とレナさんがフォローを入れてくれる。いい人だ。


「それに挨拶の時のその仕草は何…」


何故か副団長は言いかけた言葉を止めると、少し目線を泳がせてから質問を言い直す。


「…まぁ良い。本題に入る。君は先日の騒動の際、何故あの場にいた?」


うん。やっぱりこの人、仕事が友達ってタイプだ。話が早くて嫌いじゃないけどあまり人に好かれるタイプではないだろう。レナさんが椅子を私の所へ持ってきてくれたので私はそれに礼を述べてから座って質問に応じる。


「あの日、私は父に昼食を届けに南門へ出向いてました。控室に通され父に昼食を手渡した後、外が騒がしくなり皆その対応に控室を出ていきました。」


「そこまでは他の衛士からも話を聞いている。騒動が起こった後に君はどうした。」


「衛士さん達が全員、外へ出ていった後、私は1人控室に残され不安になり動けなくなっていました。」


そう、あの時は慣れない場所で急に一人にされた私は、怖くなって動けなくなった。


「不安と恐怖から動けなくなっていたと。それは子供らしいが、それで何故君は街の外側に出たのだ?普通なら何とか動けるようになったなら街の外ではなく中に戻るだろう。」


言われるとそうだ。なんで私はお父さんが言う通りに街の中に戻る扉ではなくて外への扉を開いたのだろう。確か…


「少し目眩がして…そうしたら急に心が落ち着いて不安がなくなりました。身体も動くようになって、その時になにか嫌な予感がして、それで扉を少しだけ開いて外の様子を伺ったのです。遠目からですが現場の雰囲気で交戦状態にあること、兵や騎士の配置から敵対象が黒い服装の人物達であると判断できました。それで対象の装備品を確認すると対戦車砲弾ATMを構えたのが見えたので…」



???えーていーえむ?なにそれ?私はなにを言ってるんだろう…





…いや、たぶん私は知ってる。



対戦車ロケット弾方式の携行火器。見たことない型式だったけど、見ればどんな兵器かくらいは理解できる。…解るけどなんでだろう?それに兵の配置とか敵対象とか…


そこまで考えた時に急に目眩に襲われた。以前のような痛みはない。でも何も考えられない。視界がぐるぐる回って目を開けていられない。私は目を強くつむる。



頭の中に誰かの声が響く。なんだろう…赤子の鳴き声?


そう思って目を開くと私は全く別の見知らぬ場所に立っていた。

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