導入 初めてのお使い後編



気を失ったのは一瞬。さっきまでの頭の痛みは消えていた。身体が軽い。呼吸も落ち着いてきたし、普段通りに…いやいつも以上に動ける気がする。先程までの身体の強張りは嘘のように消えている。私は立ち上がり部屋の中を歩き水で喉と唇を潤す。…生き返った。


『ここに居ては危険。』


なんだかそんな空気が部屋には漂っていた。私は街の外側の扉を少しだけ開いて外の様子を伺う。近くに居るのは騎士団の人たちだろう。距離は…150から200、黒い服装の人が5名、彼らが敵対象だろう。その前に数十人の門兵さん達が陣を組んで武器を構えている。今は見えないけどお父さんもその中にいるはずだ。対象の武装は…



マズい



私は扉を勢いよく開け外へ出る。


「ここから離れて!」


私はすぐ近くに陣取っていた騎士団の人たちに向かって警告する。突然出てきた幼子に驚き困惑した騎士たちは男2女1計3名。どうやらこの人のいずれかがこの現場の指揮官なのだろう。他の騎士は門兵と同じく前方で敵対象と対峙している。


「えっ、貴方どこからっ?それよりここは危険だから…」


「そうっ!危険なの!だから今すぐ門から離れて!固まらないで散開してっ!!」


そう言い残して私はなるべく門から離れるように走り出す。敵との距離が近くなるけれど仕方がない。今はそうするのが最善だ。その勢いに釣られた女騎士の人だけが私を追いかけて門から離れる。…彼らは、もう間に合わない。


ドンッ!シュゥゥウゥゥゥゥ…


黒い人達の1人が構え放った『砲弾』は火炎を放ち、細い噴煙を吐きながら門の方へと一直線に飛んでくる。それは門の控室があった場所の上部に直撃した。


「伏せてっ!」


私は追いついてきていた女騎士さんに警戒を促して同時に自分も伏せる。砲弾の爆発により石造りの門は破壊され、爆音と共に砕けた細かい破片がこちらまで飛んでくる。石造りの門は大きい音を立てて崩落。指揮官だったであろう騎士の人たちの頭上に大きな破片が降り注いで、そして押し潰されて姿は見えなくなった。


だから逃げてって言ったのに。


逡巡は一瞬、私は敵に目を向ける。相手は強力な火力を持っている。しかし先ほどから見ている限りでは彼等の動きは酷く鈍重だ。むしろ殆ど動いていないと言っていい。…いや、あれは動かないのではなく動けないのか…銃を構える動作でさえキツそうにみえる。


「正面からじゃなくて側面、後方から回り込んで!距離を詰めて近接で攻撃!正面に立つ人はもっと散開する!固まってたら駄目っ!」


私の声はお父さん達にまで届いていない。私の足ではここから走っても間に合わないかもしれない。


だけどここに私の言葉を聞いていた人が1人いた。


「何を言って…」


女騎士さんだ。ちゃんと伏せている。特に目立った外傷なども無さそうだ。


「指揮官が負傷した今、あなたが指揮を取ってください。私が指示したとおりに。…あそこの門兵さんの中には私のお父さんもいるの。お願いだから!」


私は彼女の言いかけた言葉を勢いで被せて伝えたいことを言い切る。ごめんね。でも今は時間がない。


女騎士さんは、私の顔と先の戦場を何回か交互に動かして…やがて決心が決まったのか前を向いて戦地に駆け出す。


「少女!君はそこにいろっ!決して勝手に動くんじゃないぞ。」


そう言い残して彼女は先の戦場へと駆けていく。指示が届いたのか先ほどまで固まっていた門兵さんたちがバラけ始め、敵を囲むような布陣になっていく。時折聞こえる銃声に正面にいる門兵さん達が1人、また1人と倒れていくのが遠目でも見える。


しかし、動きはやはり鈍重。側面後方に回った騎士さんが一気に間合いを詰めた。敵はこちらの兵の動きに全くついてこれていない。これなら強力な火力を有していても、こちらに分があるはずだ。それに騎士の人も原理やそのものが解らなくても、敵が持っているそれが危険な物であるとは認識しているようだ。


まずは銃を持つ腕を潰して、続けて頭部を貫き砕く。同じ要領で他の敵対象を攻略する。うん、鉄製の武器でも攻撃は通じるようだ。


そして敵は全員伏して動かなくなった。ヘルメットを被っていて顔は窺えないが、いずれも頭部を破壊されているところを見ると生存者は皆無だろう。少なくとも反撃を受ける脅威はないようにみえる。しかし、何故だろう。周囲の門兵さんたちの緊張が緩んだ気配がまったくしない。



その時、私に再び頭痛が襲ってきた。先程の痛みよりもずっと激しい。私はその場で伏せた姿勢のまま、その場で意識を失ってしまったのだった。

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