第20話
「「……」」
下手な攻撃は弾き返されるとみんなが攻撃の手を止め、逆に攻撃されても即座に反応できるように、みんなが警戒をしながらじっと砂煙が晴れるのを待つ。
短い戦いだったけど三人の能力が異常だったのは誰もが感じ、これで行動不能になっていればと淡い願いを抱く。
だけど、やはり願い通りにはいかなかった。
「やはり、逃げられましたか……」
砂煙が晴れた場所には攻撃の爪跡が残っているだけで三人の姿はなかった。
「今の攻撃で消し飛んだって事はないですよね……?」
誰かが心にもない事を言う。
「もし彼等にとって自分達が死ぬかもしれないと思った攻撃であれば、間違いなく門を出して防御するかこちらにはじき返したでしょう……」
そうあって欲しいと思われた質問にアールさんが冷静に答える。
「くそっ! 何だあいつらは!」
そう言って、苛立たし気に自分の剣を鞘に納めた前衛の代表が地面に座り込む。
そんな代表の背に腰を掛ける人がいる。
「常識外れ……そんな子を最近見たけど、あいつらはそれ以上の常識外れね……」
そう言ってリサの師匠は僕の方をチラリと見た後、視線をアールさんの方に向ける。
「そうですね、ここ最近今までの常識が何だったのかと考えさせられるスキルを知りましたが……」
そう言ったアールさんが僕の方じっとを見る。
僕がここ数日で得た、二つのスキル。
≪鬼ごっこ≫と≪替え歌≫は今まで聞いたこともないスキル。
鬼に逃げる相手全員を捕まえれる様に身体能力を向上させるスキルに、今まで歌われていた歌の歌詞を変えることで今までになかった効果を生み出すスキル。
そのどちらも今まで知られていなかった常識外れのスキルに彼等が最後に残した言葉……。
これで想像しないと言う方が難しい……。
「彼等も僕と一緒の遊び人何でしょうか?」
「「⁉」」
みんなが心の中で考えていた事と、僕の言葉が重なったのかみんながびくりと体を震わせる。
自分自身にそんな事はないと言い聞かせるようにリサが口を開く。
「で、でも! あの三人のスキルは遊びに関したスキルじゃなかったよプレイ! そうですよねアールさん⁉」
そう言って僕からアールさんの方を見たリサの表情はすがる様なものだった。
そんなリサの顔を見たアールさんは、笑顔でリサに言う。
「そうですね……確かに先ほどの三人のスキルはプレイさんと違って、遊び人とはかけ離れたものでした。常識外れという点では同じかもしれませんが彼等のスキルと言葉だけで、彼等がプレイさんと同じ遊び人と考えるのは時期尚早ですね」
「アールの言う通りだね。単純に二人の姿から今までに知られていない聖女と聖騎士のスキルを持っていた
だけの可能性の方が高いだろう」
リサの師匠の言葉に腰かけられていた前衛の代表も口を開く。
「ああ、短期間にいくつか常識外のスキルを見たからと言って、それが同じものとは限らねぇ……だが、それらが無関係とは思えねぇな……」
「勘ですか?」
前衛の代表の言葉にアールさんが尋ねる。
「ああ……勘だ」
長く冒険者を続ける人の勘は馬鹿にすることができない。
なぜなら勘は膨大な経験から無意識に導き出される答えとも言われるから……。
そのため、三人が遊び人ではないと言ったアールさんとリサの師匠も再び考え込む。
それに……無意識下もしれないけど、アールさんは時期尚早と言った。
それは、まだ判断がはやいと言っただけで決して否定したわけじゃない。
前衛の代表の言葉がみんなに重くのしかかる。
そんな暗い雰囲気が包む中、声を上げたのは考え込んでいたアールさん。
その表情は今の今まで考え込んでいたとは思えない。
「では、皆さん奥に進みますよ」
「「⁉」」
アールさんの言葉に前衛の代表すら驚きの表情。
「おい、まだダンジョンを潜るのか⁉」
そう言った代表の表情は酷く歪んでいたが無理もない。
聖女と思われる女性は、彼の部下のものと思われる腕を僕達に向かって投げ捨てた。
新しいごはんだよ!
そんな言葉と一緒に……。
「ええ、三人から我々の仲間を殺したという言葉は聞いてはいません。それに救援を求めて戻って来た彼の話では彼が他の仲間と別れたのは、20階層と言っていました。もし彼等が生きて地上を目指すのであればそろそろ会えるはずです」
「だが……」
そう言って前衛の代表が見たのは、聖女と思われる女性が投げ捨てた腕。
「ええ、ですが彼等の性格は非常に歪んでいる様に見えました。もし、ここで引き返さなかったら仲間を助けられたのに……などと言いそうなほどに……」
「勘か?」
今度は前衛の代表がアールさんに尋ねる。
アールさんは笑顔で答える。
「ええ……勘です」
「それなら信じるしかねぇな……」
前衛の代表がそう言うと、リサの師匠が腰を上げ代表に向かって右手を差し出す。
もしかして僕達が思っている以上にリサの師匠は前衛の代表を心配していたのかもしれない……。
前衛の代表はニヤリと笑いその手を握り立ち上がるとダンジョンの奥に顔をむける。
リサの師匠は彼の後ろで小さく頷くと僕の方を見て叫ぶ。
「プレイ! あんたは私の隣に来な! 引き続き先頭を走るよ!」
「はい!」
僕は思わず口角を上げて返事をする。
「何笑ってんだい⁉ 気を引き締めな!」
「すいません!」
ダメだ……まだ仲間の生死もわかってないし、良い状況じゃないのに笑うのを抑えられない……。
僕が目指した……いや、なりたいと思っていた冒険者。
どれだけ可能性が低くても、仲間の生存を決してあきらめない冒険者。
自分が所属するクランの代表者達がそんな冒険者だったことを酷く嬉しく思う。
僕とリサの師匠を先頭に走り出す
さっきの三人に足止めされたのが何だったのかと言わせるかの様に猛スピードで僕達はダンジョンを下に下に進んだ。
「見つけた!」
リサの師匠が階段を下りて次の階層立った所で叫ぶ。
僕達はダンジョンを下に進み続けて、18階層で緊急の救援を求めた仲間達を見つける。
みんな怪我をしていて動けなくなっていた。
僕達があきらめていたら、確実に全員助からなかった……。
僕達が想定していた最悪の状況は仲間は正体不明の三人と遭遇して全滅、それと比べれば遥かにましで最悪ではなかったけど現状は限りなくそれに近い。
「まずいですね……傷が塞がらない。呪いですか……」
仲間の治療をしていたアールさんが思わずこぼす。
ダンジョンに潜る冒険者で僧侶の高位の職業を持つ人はかなり少ない。
それは教会が僧侶の職業を得た人たちを囲っているから。
でもその人以上に回復魔法を使えるのがアールさんで、アールさんは攻撃魔法も回復魔法も扱う事のできる賢者。
本来であれば冒険者をするような人じゃなくて国に召し抱えられる人。
だけど何故か
アールさんの回復魔法は聖女に匹敵するんじゃないかと言われてけど、聖女の様に呪いや病を打ち消す魔法は扱えないらしい。
冒険者の中ではまさに回復魔法を扱える最高位の人物と言っても過言でもないアールさんでも手におえない呪い。
もちろん、みんなも僕も呪いを打ち消す聖水を持ってきていたけど、それですら呪いの進行を遅らせるくらいの効果しかでなかった。
「こんな強い呪いがあるのか……」
誰かが思わず口にする。
僕は考える、僕の≪替え歌≫で何とかできなかと。
本来吟遊詩人の歌は有名な史実を歌ったもので、数ある史実の中でもほんの一部しか効果を持たない。
僕の≪替え歌≫は、その歌の歌詞をかえて歌うスキルのせいか吟遊詩人の人が歌う歌に比べて効果が小さい。
なら、≪替え歌≫の歌詞を史実にあったものに替えて、それをみんなで歌えば……。
僕はマジックバックより紙を取り出し急いでみんなに配る。
「プレイこの紙は?」
何も説明せずに紙を手渡したために思わず僕に疑問を投げかけるリサ。
「ごめん今から歌詞を伝えるから、みんなメモを取って!」
その言葉を聞いたアールさんが皆に言う。
「みなさん、プレイさんから紙を受け取りメモをお願いします」
アールさんの言葉でみんながペンを持ち僕の言葉をメモしていく。
今から歌うのは、聖女が勇者との旅の途中で傷ついた勇者を癒す歌、その歌詞を僕は替える。
その歌詞の内容は、その聖女が勇者と旅をする前の話で、ある村が呪いにかかり聖女がその村の呪いをとくというもの。
歌詞を皆がメモしたのを確認すると僕は歌を歌う。
すると今まで≪替え歌≫を歌う時に聞こえなかったスキルの声がする。
(史実が確認されました、≪替え歌≫の効果が発動します)
「えっ⁉」
思わず僕は驚きの声を上げる。
ダンジョンの中で大勢で歌を歌う事は、魔物を呼ぶ事にもつながる。
本来であればすでに魔物と戦闘中である状態で歌を歌うため普段は気にしないけど、今は状況が違う。
約半数近くの仲間が呪いにかかり動けない、そんな状況で残りの仲間全員で歌を歌う。
もちろん歌を歌う最中に呪文の詠唱は出来ないし、魔物に向かって武器を振るう最中に歌を歌えば、いつも以上に息切れを速く起こす。
それは魔物と戦う上で大きなハンデとなる。
僕は≪替え歌≫で歌に呪いを打ち消す効果が出ても少なくない時間がかかると思っていた。
なぜなら、本来呪いは体に黒い痣をつけて聖水をかけて呪いを打ち消す事ができたとしても、その痣が消えるには時間がかかる。
だけど、スキルの声が僕の頭に響いた曲を歌い切った瞬間に呪いが消し飛んだ。
呪いにかかった仲間の容体をうかがいつつ魔物が来ることに警戒しながら歌を歌っていた僕達は、痣が一瞬で消えたのを見て間抜けな声をあげる。
「「はぁ⁉」」
それはもちろん、スキルを使った僕自身の声も含まれる。
そんなおかしな状況に僕を含めた全員がパニックを起こしそうになるが、待っていましたとアールさんが叫ぶ。
「全員に通達します! 使えるものは回復魔法を! そうでないものはポーションを使用しなさい!」
「「はい!」」
パニックになりかけた僕達だけど、アールさんの声で正気を保った僕達はアールさんの言う通り呪いの解けた仲間の怪我をいやすのであった。
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