第三十五話 王宮内の重要な情報
「一応、仕入れはできるんだ」
「ベイクド商会から?」
「ああ。すげえ高いから、売値もご覧の通りだけどな」
町で情報を集めていたハイノとディルク、グレータは、開いている商店があったので話を聞いていた。
店主が言うには、ベイクド商会から食料品を卸してもらえるが、町に出入りできるのがその商会のみなので足元見て値段を釣り上げているらしい。
当然、卸値より安くは売れないので、町の物価は高騰していた。
「その商人に会えないですか?」
「ああ、たぶん今日来ると思うよ。いつも夕方だから、もうすぐだ」
「待たなくていいね、ラッキー」
「よし! ふんじばるか!」
ディルクたちは商人に話を聞くため、店でしばらく待つことにした。あくまでも話を聞くためだ。
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隠密も得意なヴィリが、目立たないようフロイデンタール公爵邸からシュトール商会本部に戻ると、グレータたちも戻っていた。
「おつかれー」
「ヴィリ。どうだった?」
グレータが聞くと、ヴィリはフロイデンタール邸での出来事を話す。侯爵家の皆は無事で、側妃ガブリエレが王宮内の情報を持って帰ってきていた、と。
「よかった!ご主人様は元気だったか!」
「で、こいつだけど」
「ああ、誰だ?」
「なんと、ベイクド商会の商人」
「まじか」
「ええ。町で捕まえたわ」
ディルクが侯爵たちの無事を喜ぶと、ハイノが縄で縛って転がされている男を指す。
ヴィリが聞くと、王宮に出入りしているというベイクド商会の商人だという。町に品物を卸しに来たところ捕まえてきたらしい。
「いろいろ知ってそうだな」
「話す、話すから乱暴はやめてくれっ」
ヴィリが短刀片手に商人を見やると、怯えているような様子だ。すでにディルクに何かされたようだ。
これなら簡単に吐くだろうと、知っている情報を全て話させた。
商人によると、王妃は贅沢をしていて、第一王子は女を囲っていて、王と第二王子は地下牢にいるとのことだ。
そうなった原因はわからないが、王妃は普通ではないという。
体から黒い靄が出てきて、言うことを聞かないものはそれを鞭のように使って攻撃するので逆らえない。
第一王子にも、酒やら怪しげな薬やらを持ってこさせられ取り引きしているが、どうやら王子も黒い靄が使えるらしい。商人が見たところ、王妃のそれよりは弱いようだったという。
「わ、私がわかるのは、それくらいで……」
「そうか。まあ、あんたも散々だったな」
「そ、そうなんだ! 言うことを聞かなければ、こ、殺されるかもしれなくて……」
「王都を出入りできるなら、逃げられるだろう?」
「……妻と娘が、王宮にいるんだ。捕まっている。………見捨てて逃げるなんて…………」
ヴィリが聞くと、商人は涙ながらに語った。
そういう話になってくると、流石に同情せざるを得ない。家族を盾にされては従うしかなかっただろう。
「な、なんだよぉ……お前、悪いやつじゃ、ないんだなぁ……うっ、ぐずっ、ご、ごめんなぁっ」
「その筋肉で泣くなディルク」
「筋肉関係なくない?」
「お前はもうちょっと同調してもいいんだぞ? ハイノ」
「あいにく、家族愛には疎くてね」
「うおぉぉぉぉ! ハイノー!!」
「えっ、ちょっとやめてよ!」
「お前もつらかったんだなー!!」
「そ、そんなことひと言も言ってない! 放せ筋肉ぅぅー!」
ディルクは情に脆かった。ハイノの家族事情まで勝手に推測して、ハイノに無理やり抱きついてさらに泣いた。ハイノはとにかく嫌がっている。
そんな2人を横目に、ヴィリは話を進める。
「事態が落ち着くまでは、そのままにしといたほうがいいか」
「そうね。下手に途絶えでもしたら、人質が危ない」
商人は今まで通り行動しないと家族が危ないので、話を聞けるだけ聞いて解放した。
早くこの状況をなんとかするよう動くと約束して……。
そのときついでに、町の店に卸す商品については、値段を下げるよう脅しておいた。
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フロイデンタール公爵邸に集まった一同は、情報の整理をした。
とにかく一番命が危ない二人を、地下牢にいるという王とハルトヴィヒを助け出さなければということになった。
「外にある黒い靄、それも黒妖精の仕業でね。いろいろと感知していると思う」
「それでは、動きようがないではないか」
妖精王が町に薄く出ている靄の正体を伝えると、フロイデンタール公爵は頭を抱えて独り言つ。
「まあ、やりようはあるよ」
妖精王は、靄に感知されずに動くこともできると言う。それに、黒妖精は恐らくこちらの動きに興味がないであろうことも。
「いつの世でも、彼の目的は人間の虐殺だからね」
「黒妖精は、封印を解いたものの願いを叶えるというのはほんとうなのですか?」
「……そう、言われてるね。けど、願いを叶えたあとは封印されるか殺すものがいなくなるまで暴れる」
「そんな……」
フロイデンタール公爵は、黒妖精の恐ろしさを感じていた。そしてこの国のためにどうするのが一番いいのかと思議する。
「なあお嬢様。そもそも王妃の願いって、なんなんだ?」
「恐らく第一王子の即位でしょう」
「即位には何かいるものがあるのか?」
「そうね、本来なら王と議会の承認が必要だけど……」
「王様捕まってるんだろう?」
「そうね」
「議会も機能してないんじゃない? そもそも宰相がここにいるんだから。」
「そう、ね」
ディルクとエルメンヒルデが話していると、ハイノも入ってきた。
そう、王妃の願いが第一王子の即位なのだとしたら、何をもってそれが成ったというのだろうか。無理やり王に承認させる? いや、恐らく王は拒否するだろう。議会の承認も無理だ。ハイノの言う通り、機能していないのだから。
「一番手っ取り早いのは、皆殺し……でしょうね」
「ヴィリ、物騒」
「そうだけど、それだと国として機能しないでしょう? 王妃様の希望は、第一王子を王としてハイディルベルクを治めること……の、はずよ」
考えても答えが出ない。
しかしこれだけはわかる。
現王エグモント
次期王になり得るハルトヴィヒ
この2人が、
第一王子が即位するために一番の壁であること。
何を考えているかわからない相手だ。今は生かされていてもいつどのタイミングで始末しようとしているか見当もつかない。
早く助けるに越したことはない、と、救出作戦を練り始めた。
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