第三十三話 抜け道を使って……
王都の門が閉鎖された。デューレン辺境伯邸でその知らせを聞いてから3日後、エルメンヒルデたちは王都へ戻ってきていた。
到着してみると実際に門は閉ざされていて、王都に入ることは出来ないようだ。門の前には何人もの旅人や商隊、王都に住む貴族や平民などの民たちもいる。
もしかしたら先にデューレン領を発った第五小隊の騎士がいるかとも思ったが、この西門にはいないようだ。中に入れたのか、ほかの門に行ったのかは不明だ。
門には格子が降りていて、誰かが対応しているわけではなく、ただ固く閉じている。
「結界が張られているね」
「結界?」
妖精王が言う。
誰も見張るものがいないのなら、この際破壊して入ろうなどというやからもいないとも限らない。その対策としてなのか、妖精王が言うには、人も物も近寄れない結果が張られているそうだ。
「魔法でドーンってしてみる?」
「魔法も通らないと思うよ」
イーナの一番得意な魔法は氷だが、火も水もほかにも大体一通りは使える。手っ取り早く破壊できれば、と思ったがそうもいかないようだ。
「話聞いてきました。ベイクド商会は南門から出入りしているそうなんですけど、そっちでもやっぱり、侯爵家だろうと入れないだろうってことです」
「そう……」
ヴィリが聞いた話では、南門にも人はいない状態で格子は降りているが、なぜかベイクド商会だけが通っていけるらしい。
それは恐らくだが、そちらにも結界があり人を選んで通らせることができるようになっているのではないかと推測される。
「南門、そちらを確かめに行くよりあの道を使いましょう」
エルメンヒルデは王都に入れる秘密の道を知っていた。シュティルナー侯爵家が運営している王都内のシュトール商会本部へ続く抜け道があるのだ。
もちろん、この道を使って密輸しているなんてことはなく、普段は使うことはない。緊急時に王家のものが避難するよう作られた道のひとつである。知るものは少ない。
王都の西門より少し北に行ったところにその入り口はあった。もちろん、剥き出しでそのまま通れるようになっているわけではない。設置されている魔道具を起動すると、地下への扉が現れるのだ。
「使うのは初めてね」
「うわー真っ暗!」
「エルメンヒルデ様、足元お気をつけください」
「ええ、ありがとう」
「筋肉が冷えるぜ……」
扉を開けて中に入ると不気味なほど真っ暗で、風が流れているのかひんやりとしていた。
「なんか出てきたりしませんよねお嬢」
「何もいないわよ。……たぶん」
「えー……。」
「ハイノ、灯り持ってるかしら?」
「あるよ」
灯りのつく魔道具を取り出すハイノ。
その灯りが照らすと、壁には松明があるようだった。
「イーナ、火をつけてくれるかしら」
「はいはーい」
イーナが火の魔法を使い松明に火をつけながら長い地下道を進んで行った。
「エルメンヒルデ様!」
「バッカスさん、ここにいてくれてよかったですわ」
地下道から来て扉をくぐると、シュトール商会本部の地下に出た。いくつか部屋を覗いていくと、地下にある一室でシュトール商会の商会長、バッカスを見つけた。
「お戻りになられたのですね。ご無事でよかった」
「ええ、ありがとうございます。この、王都の状況はいったいどういうことなのでしょう?」
「数日前、王宮からの通達で急に出入り禁止になったんです」
バッカスさんが言うには、王妃派筆頭のベルク侯爵が関係しているベイクド商会のみ王都に出入りが許され、外から物資を運んできているとのことだ。
「王妃様がこの事態を仕切っていると考えるのが妥当ね」
「じゃあ王様は?」
「ええ……」
通常、表立って国をまとめているのは王だ。王が病気で動けないなどという場合は王妃がその代理を務める。
しかし、先の毒の件で王が臥せっていたとき実質政務を代行していたのは、第二王子であるハルトヴィヒだった。
王妃にそのような能力がないのは王宮の皆が知っている。
今も、とてもまともな事態ではないのだ。恐らく王は、捕らえられたかあるいは……、と考えるエルメンヒルデ。
「……バッカスさん。お父様は、どうされているのか知っていますか?」
「ローマン様とは……連絡が取れません。シュティルナー侯爵家は封鎖されていて……」
「そう、ですか……」
バッカスさんはこの事態にまず、シュティルナー侯爵の判断を仰ごうとしたが、侯爵家に行っても門は閉ざされ誰も居ないようだったという。
次いで王宮に行ってみたが中には入れず、戻ってきたそうだ。
「わかりましたわ。それなら、フロイデンタール家へ行ってみましょう。もしかしたら……」
「了解。皆で行きます?」
「ハイノとディルクとグレータは、町で情報収集を」
「「「了解」」」
「イーナ、ヴィリ、よろしくね」
「「了解」」
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