第二十三話 罪


村人が隔離されていた洞窟から、村に戻ってきたエルメンヒルデたち。一同は、村長の家にいた。

重篤化したものも、妖精王によって治癒されたことを皆が喜び、それぞれの家に帰っていった。


洞窟に行っている間に、村長に届けていた薬草は必要な村人のところへ配布され、軽度の症状だったものたちも間もなく治癒するだろう。



「ほんとうに、ありがとうございました……!」


「病の恐怖は去りました。ほんとうにありがとうございます」



村長とデューレン辺境伯は、改めてエルメンヒルデたちに礼をした。



「皆さんが元気になられてよかったですわ」


「それで、この男はどうしましょうか」



小隊長が、捕まえている男を指して言う。

重症者とその家族を洞窟に隔離し、そのせいで亡くなったものもいるというのだから、立派な殺人だ。


村には疫病があり、薬草もなかったことから人を送ることが出来なかった。

第五の騎士たちが国庫からの薬草を届けてくれたのでデューレン辺境伯はやっとアーヘン村へ入ることができたが、まさかこのような事態になっているとは思っていなかった。

もう少し早ければ、助かる命もあったかもしれない、と彼はひどく後悔している。



「俺は……そうしろって言われて……。それよりあんた、頼むよ。オグルドさんも治してくれよ」


「オグルドさんもヘルシン症にかかっているのか?」


「ああ……。発疹も出てるみたいで……俺らは、うつるといけねえから家には入ってねえけどよ。扉んとこで話したんだ……」



村長がオグルドについて聞くと、男は詳細を話していった。

アーヘン村でヘルシン症が流行り出すとすぐに、オグルドが重症者を隔離するように言ったのだ、と。重症者と同じ家で暮らしているものも発症するし重篤化するので一緒に村から出すように強く発言していたらしい。


オグルドは、荒くれ者たちを束ねていて、怒らせると暴力で報復するような男だ。なかなか逆らえるものではない。

だから村人たちは、重症者が無理やり連れていかれても見ていることしかできなかったのだ。自分は、家族は目をつけられないように、と黙っていた。



「それで今さら助けてくれと言うのも、虫のいい話だな」


「まあ、バルト様。助かる命は助けるべきですわよ?」


「……エルメンヒルデ嬢なら、そう言うと思ったけどな」


「あら、さすが友人ですわね」



エルメンヒルデは善人だろうと悪人だろうと構わず、困っている民は助けるべきだと思っている。悪事を働くものならば、助けたあとにしかるべき措置を取る。つまり、法に則ったやり方で裁くべきだというのが信念だった。



「では、オグルドさんのお家に案内してくださいませ」


「っ!……ありがとう」



騎士に捕らえられたままだが、男に家まで案内させる。

オグルドの家は、村の中心地にあった。木造だがそれなりに大きい家だ。



「オグルドさん! オグルドさん!」



男が家の扉を叩くが、返事はない。

男が言うには、ヘルシン症にかかってからは人を遠ざけているため家にはひとりでいるとのことだ。

出てくる気配がないことから、ディルクが自慢の筋肉がついた腕で無理やり扉をこじ開ける。ヴィリとディルクが先頭に立ち部屋を見ていくと、二階の寝室で横たわる男を発見した。



「入っても大丈夫かしら?」


「うん。問題ないよ」



妖精王に聞くと、守っているから問題ないというので、グレータが部屋の中を確認してからエルメンヒルデはオグルドが横たわる寝室に入った。



「だれ、だ」


「こんにちは、悪党さん。あなたの病を治します」


「なんだと……?」


「オグルドさん! こいつら、あの洞窟に入れてた重症者全員治しちまったんだよ!」


「ガイ……?」


「ああ、俺です! 大丈夫だオグルドさん、今治してもらえるから!」



見知った男がいたことに少し安堵したのか、体の力が抜けたようにみえる。恐らくもう、しゃべるのも苦しいのだろう。


妖精王は、ついてきていた妖精に水を持ってくるよう伝えた。



「ところでお嬢。病にかかった人閉じ込めて死なせたのって、なんの罪ですか?」


「過失致死傷罪かしら? きちんと対策すれば亡くならなかったのに、死を回避する行為を怠った……もしくは殺人罪ね。殺す気で閉じ込めたと判断されれば」


「へえ。じゃあ助けても最悪処刑されるってことですね」


「そう、ね」



病で死ぬ寸前までいって助けられ、自らの罪によって処刑台へ送られる。ある意味、エルメンヒルデは誰よりも残酷なのかもしれない。


妖精が戻り、妖精王の光とその水が混じりあってオグルドに降り注ぐと、オグルドはゆっくり目を開けた。



「はっ、こんな奇跡があるなんてな」


「オグルドさん! よかった……!」


「ガイ……」



先ほどのエルメンヒルデの話が聞こえていたのか、助かったことを手放しで喜べないオグルドだったが、男・ガイはオグルドの回復を心より喜んでいた。



「さて、罪を暴いたり裁いたりは私の管轄ではないの。とりあえず、村長さんのところへ連れていきましょうか。デューレン辺境伯様もいらっしゃいますわ」


「……ああ」



オグルドは、素直に従った。


村長の家に皆が集まると、オグルド以下6名が、村人を洞窟に閉じ込めるため動いていたということで、全員が牢に入れられた。その中には、ガイと一緒に洞窟に来ていた男の姿もあった。

罪は王都に連れていってから裁かれることになる。災害時の緊急避難的措置と取られるか、普段からの行いが悪いので自分勝手な暴力の延長と取られるかは村人たちの証言も含め、裁判次第である。




エルメンヒルデたちは、しばらくアーヘン村の復興に力を貸すことになった。


病からは脱したが、体力がほとんどなく動くことが困難なものが多い。そのため、何日かにかけて村の家々を回り不便がないかを確認していった。



「ありがとう聖女さま!」


「まあ。どういたしまして」



ある家を訪ねたとき、その家の少女がエルメンヒルデを見て聖女さまだ、と言った。


美しく優しい聖女さま。


こんな辺境の村では見かけないような美貌に、隣にはこの世のものとは思えない美しさを誇る妖精王。そして小さな妖精たちが周りをキラキラ舞っている。

まさに聖女だな、と皆が思うも、清廉潔白ではない内面を知るものたちは笑いを堪えていた。



「あら、聖女なんて柄ではないとおっしゃりたいのかしら?」


「いや、エルメンヒルデ嬢。あなたが聖女でないなら誰が聖女だ、と言うくらいには似合う称号だよ」


「そうですの?」


「そっすよお嬢」


「姫様は聖女だね」



ヴィリとハイノも乗っかった。


その後も何軒か回り、日が暮れるころ宿に戻った。











~~~~~


なんとか罪は、日本のものと同じ名前を使っていますが、専門家ではないので間違っているかもしれません。なのでこの世界独自のアレ、架空の、ということでお願いします。




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