第十四話 第一王子ジークムント


私はこの国の第一王子であるジークムントだ。王妃の息子で次期国王でもある。


昔から勉強は嫌いだったが、体を動かすことは好きで剣術の腕は自分でもなかなかのものだと思う。今では騎士団で鍛えぬかれた騎士でも私と剣を交えるのを怖がるほどだ。



私には気安く声を掛けられないようなオーラがある。皆が畏怖し、敬っているのだろう。私が通ると頭を垂れ、通り過ぎるまでその場には緊張感が漂うのだからな。



でもそうだ……あいつには、皆気安く声を掛けていた。


王族としての威厳や、カリスマ性みたいなものがないのだろうな。臣下となかよしこよしだなんてみっともない。上に立つもの、というのがわかっていないのだろう。



あいつのことは、昔から気に食わなかった。私より遅く生まれ、しかも側妃の子なのに、父上にはとても可愛がられていたし、臣下たちも何かと持て囃すような素振りがあった。


何より気に食わないのは、あのエルメンヒルデ・シュティルナーとの婚約だ。


希代の美女とうたわれた、父上の側近である現シュティルナー侯爵の妻であるフィーネ夫人。その娘が美しいと評判だったので是非私の婚約者にと思っていたら、侯爵夫人と側妃が従姉妹同士で仲が良く、私より先にハルトヴィヒとエルメンヒルデが出会い婚約してしまった。


あのサラサラとした銀糸の髪に触れるのも……青い宝石の瞳に見つめられるのも……私だったはずだ。



そのあとに決まった私の婚約者は、母上の実家の侯爵家と懇意にしているグビッシュ侯爵家のイゾルデだ。不美人というわけではないが、真っ赤で燃えるような赤毛も、気の強そうな吊り目も好みではない。唯一ましなのはあの豊満な胸だけだ。

しかし、あの胸を揉むと怒るのだ。まだ未婚の身であるからそういうことをしてはいけない、と。まあいい、どうせそのうち婚約は破棄されるのだからな。あの女は私が心を動かされるほどの美女ではないから仕方ない。



私の運命の相手であるエルメンヒルデは、妖精王の加護を受けたという話だ。その加護をもって、父上が回復したと聞いた。

妖精王すらも従えるとは、さすがだと思う。



しかし母上は言っていた。王はもうすぐ死ぬから、そうしたら次の王は私だ、と。なのに妖精王が出てきたおかげで父上の病は回復した。母上にとっては想定外だったのだろう。

私は次代の王として、やりなくなかったけど父上の名代としてしっかり執務をこなしていた。書類に書いてある文はどれも回りくどくてわかりづらいものだったから、それらはわかりやすく書き換えるよう指示し、仕事のしやすいように改革までしたのだ。



なのにどうしてですか?



父上は回復してしまいました。



母上、私はいつ即位できるのですか?




この国は、魔力至上主義なわけではない。元は子爵家の母の息子だからか私の魔力は少ないが、即位には問題ないはず。




でも、そうか。




妖精王の加護。




それを手に入れておいて損はないだろう。

妖精は各地で目撃情報があり、実在するものとして扱われてきたが、妖精王とは。


『ハイディルベルクの王には妖精王の加護がある』


うん、いいな。すごく強そうだ。

これなら帝国と魔国はアレだけど、南のビットを侵略して力をつけるなんてものもありじゃあないか? いや、帝国にだって勝てるかもしれない。



妖精王の加護……それは、この優秀な私にこそ有るべきだ。


妖精王も、あの美しい女も。



そういえばハルトヴィヒからこの間のパーティーでのことについて抗議文だかが来ていると秘書官が言っていたな。


知ったことではないが。




そもそもあの女は、




この国の王になる私にこそふさわしいのだから。





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